第40話悪辣なるPK5
「初めまして、セイラちゃんのお姉ちゃんのイリアちゃんです!属性は鋼と雷、前衛特化のタンクとしてパーティーの最前線を張る仕事をしています!よろしくね!」
周りが一瞬の出来事に呆気に取られている間に、イリアは元気よく自己紹介を済ます。その様子はさっきまで自分たちが手も足も出なかった一〇人以上の敵プレイヤーを一瞬で屠った人間には見えない。
一人、唯一驚くことなく頭を抱えるセイラはわざとらしく大きくため息を吐いた。
「お姉ちゃん、自己紹介のタイミングくらい見図ろうよ。誰も頭に入ってこないよ」
「え、お姉ちゃん的にはバッチリ決め台詞も決めたしいいタイミングだと思ったんだけど」
「みんな驚いてるじゃん」
「驚く要素あった?」
「私たちのピンチをものの一瞬で解決した。あとその解決した人物の容姿がどう見ても幼女にしか見えない」
「でも幼女が最強とかアニメでよくあるパターンじゃない?ほら、のじゃロリ系学園長とか」
「知らないし、それを知っていたとしてもアニメと現実は違うじゃん」
セイラがイリアと姉妹でボケ・突っ込みをかましていると、さすがというべきかフレデリカがいち早く気を取り直してセイラに訊ねる。
「ええと、その人がセイラの言っていた最上位プレイヤーのお姉さん?」
「そうだよ」
フレデリカはセイラの後ろを見る。
セイラの背中からはどう見ても小学生にしか見えない少女が両手でピースをつくってフリフリしていた。
「お姉ちゃんそれやめて。せめてそれなりの対応をして」
「威厳を出せと?お姉ちゃんそれはちょっと無理かも」
「お姉ちゃんに威厳とか求めてないから最初から諦めてるから。余計なノリで行動するなって言ってるの」
「それはお姉ちゃんのアイデンティティを否定してるよ!」
「そんなしょうもないアイデンティティは捨てなさい」
セイラは姉の態度に恥ずかしさを感じ、つい周りの顔色を伺った。
どうやらフレデリカは戸惑いながらも現実を受け入れたようだ。ユキナとサイカもだいたい同じ反応を見せている。
少し異なる反応を見せたのはラフィとハンナだった。
ラフィにとって、おそらくイリアの格好いい?登場の仕方や周りの庇護欲やらなんやらを刺激する和装ロリはたいそう感性に響いたのだろう、憧れと羨望の眼差しを浮かべている。
ハンナは持ち前の状況への対応力の高さを見せ、すでに最上位プレイヤーという存在に強い興味を抱いているようだった。今のイリアの姿を見てもどのようにして最上位に至ったかはわからないはずだが、その一挙手一投足に目を輝かせながら注目している。
「なんかごめんね、こんな姉で。――それにしてもお姉ちゃん早かったね。助けを呼んだとは言え、想像より遥かに早かったんだけど」
姉の残念さに自然と仲間へ謝罪の言葉を述べてしまったが、ふと先ほどの出来事が脳裏に映って、セイラの中に疑問が湧く。
姉の行動があまりにも早過ぎるのだ。
セイラがイリアにフレンドチャットで連絡したのはラフィが人質に取られてから。それからラフィ奪還までの時間はゲーム内時間で五分にも満たない。
仮にセイラのチャットを送られたすぐに見たのだとしても、セイラたちの今いる「ミズガルズ」を主戦場にしていないイリアは世界間を転移してから来る必要がある。
セイラは世界間移動にどれだけ時間がかかるのか知らないが、自分が今いる場所から転移門まで行き、転移して「ミズガルズ」の転移門に着いてから【追憶の森】まで来る必要があるのだ。それが五分もかからずできるものだろうか。
このセイラの予想は正しい。
【始まりの街】から【追憶の森】までもある程度の距離があるのだ。セイラたちは森を随分奥へと入って行ってしまっており、いくら最上位プレイヤーでもここまでの距離で数分はかかる。
何より、転移門からの転移は時間がかかる仕様があるのだ。
このゲームの醍醐味とも言える世界間の移動。そこには運営も力を入れたのか、派手な演出をもって転移する。
ここだけで数分かかり、それだけなら未だしも転移には事前申請が必要。これは申請している人が多いほど転移まで待つことになる。
これらは申請からだと合計で二〇~三〇分程度。セイラからの連絡を受けて転移の新星をしていたのでは到底間に合うものではない。
世界間移動をしたことがあるフレデリカとユキナは特に気になった様子で質問にイリアがどう答えるのか耳を澄まして待つ。
「う~ん、企業秘密?」
「え、何それ」
「最上位プレイヤーにはいろいろとあるのだよ。ちょっとやばいの使ってきたから姉の顔に免じて、ね?」
「規約違反はしてないんだよね?」
「もちろん!やばいのって言ってもちょっと向こう側のプレイヤーたちが何事かとざわつくくらいだから!」
「そっか」
そんな裏事情をよく知らないセイラはイリアの答えを疑問に思うこともなく、あっさりと引き下がる。
フレデリカとユキナは秘密が聞けなかったことに落胆し、最上位プレイヤーを前に我慢しきれなくなったラフィとハンナはイリアに矢継ぎ早に質問を始めた。
セイラはラフィとハンナの勢いに押され、助けを求める姉を無視して一人大人しく傍観していたサイカの隣に向かう。
「あんたもいろいろと凄いお姉さんをもって大変ね」
「実はサイカって一番常識人枠だよね」
こちらではまたセイラとサイカの仲が深まったようだ。
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