第34話お金が溜まりました!

「さあ、やっとこの日がやってまいりました!」

 木曜、金曜は空いた時間に入れ替わりでそれぞれギルドに集まり、レベル上げをしたり水曜に見ることのできなかった【始まりの街】を見て回ったりと充実した日を過ごし。

 そして本日は土曜日。

 休日で全員が時間に余裕があるということもあり、ついに念願の「あれ」を行うことができる。

「さあ、ギルドホームを完全開放するぞー!」

 それこそギルドホームの完全開放。

 三割の金額を払うことで部分開放しかされていなかったギルドホームだが、残り七割をすべて払いきることでギルドホームがすべて使えるようになるのだ。セイラが《Valkyrja Wyrd》に加入した時点で、残り100万ゴールドだった。

 実は以前【追憶の森】にセイラが初めて行った日に、金額についてはクリアしていた。

 だがずっと目標にしていたということもあり、全員合意の上で祝杯を挙げながら開放することに決めたのだ。

 そして全員がちょうど集まれるのが今日この日。

 一階ではメンバー全員がそれぞれ持ち寄ってきたお菓子や飲み物を並べ、祝う準備は万端だ。

 二階へと続く階段前に集まる面々。現在は立ち入ろうとしても透明な壁に阻まれて階段を上ることはできない。

 フレデリカを先頭に、緊張した面持ちで全員が固唾を飲んで見守る。

 フレデリカがシステムを操作している。外からは何をしているかは見えないが、今ここで必要なゴールドを支払っているのがわかる。

 フレデリカの指はぴたりと止まった。

「行くよ」

 その掛け声とともに全員が一斉に頷き、フレデリカの指もまた意を決したようにそっと前へ動く。

 その瞬間、透明な壁が消えた。

 透明だからわかりにくかったものの、僅かな光の屈折が変わったのが見える。

「開いた!」

 フレデリカが掛け声とともに、いの一番に階段を駆け上がった。それに続くようにラフィ、サイカ、ハンナ、セイラ、ユキナと続くように駆け上がる。

 二階に上がった先、見えたのは寝室だ。

 二段ベッドが二つずつ、一つの部屋に入っており、部屋の数は合計四つ。それ以外たいしたものは見当たらないが、間違いなくそこは宿泊エリア指定がされている。

 今後はここからログイン・ログアウトができるということだ。

 そのうえ日当たりも良好、風通しもよく、ベッドはふかふか。これらは安宿にはどれもなかったもので、ギルドホームでしか味わえない感動だろう。

 もちろん一般的なリアルの寝室と違ってそれほど長居することはないであろうゲーム内の寝室にこだわる必要はそれほどないのだが、女の子的にそれはNO。たとえ一瞬しかいないのだとしても、部屋はこだわりたいお年頃なのである。

「部屋の振り分けどうする?」

「ベッドはたくさんあるからかなり自由にできるね」

「アタシは別にどこでもいいけど」

「我、端の部屋の二段目のベッドがいい!」

「私はラフィちゃんと同じタイミングでログインすることが多いのでラフィちゃんの下にしましょうか」

「私はどこにしようかな」

 それぞれ思い思いに部屋を回り、一番いい部屋を探す。

「端の二つの部屋が一番外の景色が綺麗かも」

 セイラがそう呟くと、サイカが同意するように「なかなかいいわね」と頷く。

「じゃあ私とユキナが一つの部屋使って、四人が同じ部屋使ったらどうかな。ほら、私たち大学生だからログインのタイミングもずれやすいしね」

「アタシも別に専門学校生だから高校生ではないのだけど」

「え、サイカ年上だとは思ってたけどフレデリカたちの方が近いんだ」

「というか同い年よ。そう思えば年齢気にせず誘ったメンバーの割には一八歳組と一五歳組に分かれてるわね」

「じゃあサイカこっち来る?一八歳組で」

「やめておくわ。あんたたちといると疎外感半端ないし」

「サイカは精神年齢が低いからな!」

「あんたに言われたくないわよこの腐れ中二病!」

「サイカさんとラフィちゃんは仲がいいですねえ」

 それぞれ思い思いに自分の使いたい部屋、ベッドを決め、特に揉めることもなく部屋割りベッド割りは決まる。

 決まった瞬間、考えることは同じだったのか、全員一様に自分のベッドへダイブした。ホテルのようなふかふかのベッドが身体を優しく受け止め、高い反発力で宙へ返す。

「これベッドメイキングとかしなくていいんでしょ?」

「そうよ。常に新品、汚れることもなし、このふかふかも失われることはないのよ」

 二段ベッドの下を選んだセイラの上にはサイカ。

 二人の声が気抜けしているのはこのベッドの心地が良すぎるからだ。これは想像以上に安宿よりもよくなっていて嬉しいかもしれない。

「ていうかサイカは一八歳なのかあ」

「あんたアタシのこと何歳だと思ってたの?」

「一六、七くらいかなーって」

「それ下手したら高三じゃない。ゲームなんてやってられないでしょ」

「でも昨年まではサイカも高校生だったんでしょ?」

「アタシが『Nine Worlds』を始めたのは専門学校に行くことが決まってからだから高三の終わり頃よ。しばらくは普通のアルバイトもしてたし」

「そう考えるとフレデリカとユキナは?」

「推薦とかなんじゃない?」

「ああ」

 サイカと話していると、内容が真剣なものでないのとベッドの心地よさも相まって、なんだか眠くなってくる。

「セイラ、寝ちゃダメよ」

「なんでえ」

「ゲームの中は体感時間を引き延ばしているだけで実際の時間は引き延ばしていないからよ。一度眠りにつくと、下手したら現実時間の四時間眠っていることになるわよ」

「それはやばいね」

 サイカの言葉を受け少し目が覚めた。

 ゲーム内でうっかり眠ってしまったときに目覚まし時計となるのは、四時間のインターバルを知らせる警告アラームになるだろう。それで起きるのはなんか嫌だ。

 身体を起こし、重たい瞼を開くため頬を叩く。

 するとちょうどタイミングよく、隣の部屋からフレデリカとユキナが入ってきた。

「そろそろ二階解放のお祝いに移ろう!」

 一瞬忘れていた。一階にはお菓子やら飲み物やらが並べられ、二階解放お祝いパーティーの準備がしてあるのだ。

 セイラと同じようにフレデリカの言葉で思いだしたのか、隣のベッドではラフィが目を輝かせそそくさと一階へ降りていく。それに続くようにハンナが。

 セイラとサイカも一階に移動し、それぞれ席に着いてからフレデリカの音頭で乾杯が行われた。

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