第33話予定調和の戦い3

 何戦かして、だんだんと戦い方に慣れてきた。

 今まで実践不足だった、そう思わされるほどに実践の中での成長を感じる。戦いが終わればハクアが的確なアドバイスをくれるのも作用しているだろう。

 ゴブリン、コボルト、スケルトンなどの弱いモンスターは冷静に倒し。

 オークやバンシーなどの初めて戦うモンスターは弱点を教えてもらいながら戦う。

「疲れた~」

「我のこの身体も休息が必要だと言っている」

「そうですね~、私も二人ほどではないですがへとへとです」

 数々のモンスターを倒し、いったいどれだけ【追憶の森】にいただろうかとわからなくなるほどに森中を駆け回った。

 一人余裕そうな微笑みを浮かべるハクアが「お疲れさまでした」と声を掛けてくれる。

「ハクア、今日はありがとう」

「うむ、貴様は我が認めるに値する実力を持っている」

「本当にありがとうございました」

「いえいえ、私はみなさんのサポートをしたに過ぎません。頑張ったのはセイラさんで、ラフィさんで、ハンナさんです」

 今日一日で得たものは大きい。

 レベルが上がった。RPも大量に取得できた。ステータスも上がり新しいスキルや魔法も習得できる。

 けれどそれ以上の、今日ここでハクアとパーティーを組んで得たものは、数値上の経験値だけではないことは間違いない。

「ハクアからはたくさんのものをもらったよ。本当は私たちからも何かお返しがしたいんだけど――」

「気になさらないでください。私も少し暇を潰していたに過ぎないので。それと、ちょうど私もパーティーメンバーとの約束の時間が近くなってきたのでこの辺りで抜けさせていただきますね」

「うん、ありがとう。またどこかで会ったらお礼させてね」

「はい。またご縁があれば一緒に戦いましょう」

 【追憶の森】を抜け、最後の別れを告げる。

 何度目かになるありがとうを口々に交わし、最後は飛行魔法で飛んでいくハクアを手を振りながら見送った。

「私たちもいい時間だし終わろっか」

「そうですね、このまま街に戻ってログアウトしましょう。それにしても想定していたよりも随分とゲームしてしまいました。こんなにも興奮した状態で眠れるでしょうか」

「我はこの興奮冷めやらぬうちに真の力を開放する儀式を行わなくては!」

「ラフィちゃんは早く寝る準備をしてください、じゃないとまた授業中に先生をママって呼んじゃいますよ」

「そんなこと言ったことないもん!」


  ***


 とある豪雪地帯。

 轟々と嵐にも似た雪が降り注ぎ、現実ならば南極クラスの寒さを誇るその場所は、九つの世界の一つ、氷の国「ニヴルヘイム」だ。

 ここには寒さによる強いフィールドダメージがあるはずだが、ハクアは何食わぬ顔で待ち合わせ場所に向かっていた。

「お待たせしました」

「おっそーい!」

 待ち合わせていたのは一人の少女。

 身長が一四〇センチ程度しかない童顔のその人物は幼女とすら形容できそうだが、実際の年齢はハクアよりも上だ。

 そんな彼女が珍しく時間通りに、ハクアよりも早く待ち合わせ場所に現れたとあってかこれ幸いとわざとらしく頬を膨らませ怒って見せる。

 しかしこれに窮するハクアではない。

 ハクアが少女に無言で「貴女がそれを言うんですか」とばかりにジト目を向け続けると、だんだんと少女は居心地が悪くなったのか「それじゃあ行こっか」とすいすいと歩きだす。

 しばらく歩いていると、少女がどうして遅れたの?と訊ねた。どうやら糾弾したいわけではなく、純粋な好奇心のようだ。

 ハクアが今まで少女との待ち合わせに遅れたことはなかったからだろう。実際は少女どころかゲームの中では誰との約束にも遅れたことはなかったかもしれない。

「少し後進を育てていました」

「後進?」

「はい。【始まりの街】でたまたま出会った方々と、外部募集を経由したパーティーを組んで」

「え、大丈夫だった?ハクアちゃんなんて有名じゃない?」

「さすがに【始まりの街】の子たちだったので私のことは知っていませんでしたよ。レベルも50に満たない方たちばかりでしたので」

「へえ~。何人くらい面倒見たの?」

「三人です。一人、オーダーの才能がある子がいました。あと一人は貴女に性格がよく似た子もいましたね」

「ハクアちゃんに才能があるって認められるって凄い子だね。ちなみに私に似てる子はどうだったの?」

「似ているのは性格だけですよ。ポジションも後衛火力担当ですから貴女と比べても仕方がないでしょう」

「なんだそっちか。で、ハクアちゃんが才能あるって認めた子って、どんな子?なんてギルドの子なの?」

「確か《Valkyrja Wyrd》というギルドのパーティーだったと思います」

「ん?」

 雑談のつもりで話していた内容だったが、ギルドの名前を聞いた途端、少女が反応を見せる。

 一般的に聞いたことがあるような大手ギルドではないためあっさりと流すかと思っていたのだが、少女が何か呟いているのを聞いて今度はハクアから訊ねた。

「聞いたことがあるのですか?」

「ええと、聞いたことがあるというか、妹が所属してるギルドなんだよね」

「じゃあラフィさんは妹だったということですか」

「そっちじゃなくて、セイラちゃんの方が妹……」

「えっ」

 聞き間違いだろうか、セイラという名前はオーダーの才能があると思った女の子だ。決してラフィではない。

「ていうかなんでセイラちゃんもハクアちゃんもなんでラフィ?っていう子と似てるとか言うかなあ」

「少なくともセイラさんとイリアでは天と地ほど違うように思いますが。嘘は吐いてないのですよね?」

「吐いてないよお」

「性格も才能の部類もゲームへの廃人度も違うとなれば、貴女の妹と疑うのも当然でしょう」

「セイラちゃんは父親似なだけ。イリアちゃんはお母さん似なのです」

 それから幾つかセイラのエピソードをイリアから聞かされたが、本当にセイラが妹であるような具体的な話がいくつもあった。明らかに作り話としては彼女の性格に合ったエピソードが出来過ぎている。

「なるほど、また会えたらいいと思いつつこれっきりの縁かとも思っていましたが、そんなことはなさそうですね」

「ハクアちゃんに認められるとか我が妹ながら最強か?」

「やっぱりラフィさんが妹ではありませんか?」

 イリアがプンプン頬を膨らませ怒っているのを横目に、ハクアはまたセイラたちと出会える未来に思いを馳せた。

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