第32話予定調和の戦い2
数戦オーダーの補助をもらいながら戦って、ハクアという人間の異常さを垣間見た。
脳が二つ以上だとか、目が後ろについているだとか。
見えていないはずのものを把握していたり、セイラたちのスキルクールタイムまで把握していたりする。
そういう技術は、把握できるだけでも片手では数えられないほどあって。
それをミスなくやり続ける。
まったく、ため息ものだ。感嘆のため息であり、追いつけない絶望のため息でもある。
そんなハクアの高度過ぎるプレイングを見た後の現在、セイラは一〇〇%、完全にオーダーを任されていた。
セイラのオーダー力が向上することを阻害するのは嫌だから、と。そう言ってハクアは笑みを浮かべる。
完全な厚意だから断れない……。
ありがたい話であると同時にプレッシャーが身体に大きくのしかかる。誰が好き好んで優秀な人の後に同じことをやりたいだろうか。
初戦に遭ったのは【追憶の森】で稀に見ると言われるレイス。
レイスは過去にこの森で死んだプレイヤーのスキルや魔法を使うとされている。そのためレイス一体一体がそれぞれ違う戦い方をするのだ。
すなわちレイスの攻撃パターンには定石が少ない。
共通点としては光を避けるように動くことくらいで、戦い方はそれぞれまったく異なってくる。
レイスがどんな動きや戦い方をしてくるかわからないプレイヤー側は、その場で即座に対処法を考えなければならない。初心者オーダーには厄介な敵だ。
「『ライト』!」
初級光属性魔法『ライト』。杖の先に片手サイズの光の球をだす魔法だ。
本来この魔法は松明代わりに使う魔法で、普段は暗い森の中の道を照らすのに使用している。
しかし今回は前衛となっているハクアとハンナが松明で道を照らし、セイラがレイスの動きを操るという役割分担になった。
ちなみに最初はハクアにレイスを操ってもらおうと考えていたが、当然却下された。敵を思い通りに動かす練習ですよ、と。
お蔭で今、セイラは光を灯した杖を片手に逃げ回るレイスをダッシュで追いかける羽目になっている。
何が難しいって、単純明快、飛び回るレイスを思い通りに動かすことができないのだ。
「レイスの行動パターンは三次元機動になるので多いように思うかもしれませんが、実はプラグラムじたいはそれほど多くないんです。ですからよく見極めて、ある程度行動を制限してあげると思い通りに動いてくれますよ」
「それがっ、できるならっ、やってるっ」
ずっと走っているから息も絶え絶えだ。
ハクアの言っていることはすでに理解していた。行動パターンは多くなく、ある程度制限すると行動パターンが読める範囲になる。
しかし読めるからと言って、想定した動きにするのはまた別。
オーダーとして、セイラは一つの作戦を立てていた。それは事前にやることをすべて決めておくということ。
当たり前のように見えて、戦況が常に変わり続ける実践では事前の作戦通り動く・動かすというのは困難を極める。
そして現実に、とても難しい。
最初に指定した位置にレイスを持っていくことすらできない。
行動パターンの予測はつくようになったが、行動を操ることまではなかなかできない。
ほとんど運で、ようやく最初に指定した位置にレイスを持ってくると合図を出してから待っていたハクアに引き継ぐ。
正面にハクアが見えたレイスはスキルを使用して攻撃。使用したのは剣戟系のスキルだ。剣を持っていないのに剣戟系のスキルを使うとはこれいかに。
ハクアが杖で冷静に受け止めると、セイラは追い打ちをかけるように光をレイスに近づける。
レイスは正面のハクアと後ろから迫るセイラの光から逃げていく。
このときセイラは僅かに右後ろから、ハクアは攻撃を左に反らすようにしたためレイスは想定通り左側に逃げた。
その位置はちょうどラフィが魔法で待ち構える位置だ。
ハクアに引き継ぐ前に出した合図から始めた中級魔法の短文の詠唱がちょうど終わり、レイスが左に飛び出した瞬間に魔法が発動する。
以前のリッチ戦で聖属性攻撃を持っていなかったハンナが少しでもその欠点を補うためにと習得した初級聖属性魔法『トランジション:聖』を付与していた効果により、ラフィの魔法は闇属性魔法から聖属性魔法へと転換。
本来闇を纏うはずの魔法は聖属性の象徴である白に変化し、発動する。
小規模の爆発にも似た音。直撃だ。
一瞬の静けさの後、聖属性を弱点とするレイスは一撃で光となってはじけた。
パチパチ、と光になったレイスに合わせて拍手の音が聞こえる。
「おめでとうございます。とてもいいオーダーでしたよ」
「私が追い掛け回す場面がもっと少なければそれなりにいいオーダーだったんだろうけどね」
「そんなことはありません。私も相手の情報が少ない段階だと自分の想定した局面に持っていくまでに時間がかかることはよくありますから」
本当にそうかな。今までの動きを見ていると、ハクアならどれだけ情報が少なくても的確に最速で対処して見せる気がする。
もし本当に時間がかかるのだとしてもレベル帯が大きく違うだろう。敵の動きだってもっと複雑なはずだ。
フォローがなんだか心に痛い。
「失敗もゲームの醍醐味です。失敗を笑って済ませられて、なおかつ糧にすることができるものはそう多くありませんよ」
楽しみながら強くなれる、そう言いたいのだろう。
返す言葉もなく、「そうかも」と消沈気味のまま同意する。
「大丈夫です。次、成功できればいいんですから。私がいる間は決して貴女たちを死なせることはありませんから、いくらでも失敗してください」
ハクアの言葉が頼もしく眩しすぎて、思わず微苦笑が漏れた。
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