第30話外部募集2
セイラにとっては二度目となる、ギルド総本部。
ギルド創立や新メンバーを募りたいときの募集条件の提示、ギルド解散や無所属者のギルド探しなど、主にギルド関係の手続きを行う場所だ。
そしてもう一つ、【始まりの街】の一番大きな総合ギルド施設として、外部募集システムによるパーティー募集を行うことができる。
セイラがギルド総本部を初めて利用したのはまだ《Valkyrja Wyrd》に加入する前、姉に言われて加入したいギルドを探していた頃だ。
そのときはよくわからない用語の羅列などで早々に諦めてしまったが、攻略サイトを見るなどして以前よりも理解は深くなっている自負がある。
セイラは「外部募集システムはこちら」の案内に従い、ATMのような端末に辿り着く。
「これ?」
「おそらく。私も初めて使うのでわかりませんが、端末の案内に従えば大丈夫でしょう」
早速端末のタッチパネルをタッチ。ブラックアウトしていた画面が明るく表示され、「外部募集システムへようこそ」の文字が大きく表示される。
その後自動で画面が移り変わり、自分たちの人数、レベル、役割などを入力する画面に切り替わる。
入力を終えると次に求める条件を入力していく。
「前衛、女性限定……レベル帯は上限下限なしでいい?」
「そうですね。私たちのレベルがもはや下限に近いレベルですし」
「ふっ、我の魅力に誘われて強き者が来るかもしれぬな」
「強い人はそれこそ下限決めてるよ」
なんてだらだらと話しながら入力を終え、検索にかける。
しばらく端末の読み込みを待つと、「現在条件にヒットするプレイヤーが見つかりません。待ち時間を設定してください」と表示された。
「前衛、女性がさすがに厳しいのかなあ」
「ですねえ」
「うぅ……」
近い条件の相手で探してみるも、やはりというべきか、女性プレイヤーはかなり少ないようだ。かなりいい条件に思えるプレイヤーはレベルの問題上こちらが条件で排されている。
「もともとゲームなんて女の子少なめですし、私たちのレベルに近いライトユーザーは高頻度のログインはしていないでしょうから自然と合致する人は少ないとは思っていましたが……」
「なんか見る感じ厳しそうだなあ」
「我の案、無駄だった……」
学生や社会人が帰宅後な時間帯であることを考えれば募集でヒットするプレイヤーは多いはずなのだが、やはり条件が厳しいか。
とは言えハンナのこともあり、また一般的な女性プレイヤーという立場からしても「女性」という条件は除外しにくい。マッチングシステムタイプは出会い目的で利用しているプレイヤーが少なからずいる可能性があるのだ。
少し気楽に考えすぎていただろうか。
まったく条件にヒットしない、条件に近いプレイヤーもいないということは予想していなかった。
思わずになるため息を、あからさまに落ち込んでいるラフィを見て止める。
とは言えどうしよう。そう考えていた矢先だった。
「あの、女性プレイヤーを探しているのですか?」
後ろから、鈴を転がしたかのような綺麗な声がした。
こちらを気遣うような優しげな音に振り返ると、そこには端麗な顔立ちをした同い年くらいの女性が立っている。
ユキナと似た白の髪。だがその髪の持つ輝きはユキナと違い銀の要素が含まれている。
目鼻立ちはよく整っていて、いわゆる黄金比で構成されているのではと思うような本物の美人。
少し物憂げな表情は思わず目を離せなくなる魔力を秘めていて、セイラが男性なら一目惚れしてもおかしくなかっただろう。
「ええと……」
女性が困ったように声を上げ、へにゃりと形の良い眉を下げる。
そこで初めてセイラは自分が女性に見惚れてしまっていたことに気づいた。
咳払いをして気を取り直し、セイラ同様見惚れてしまっている二人の代わりに答える。
「うん。女性プレイヤーを探していたんだけど、私たちのレベルだと一緒にやれる人全然いなくて」
「レベルはおいくつですか?」
「全員レベル50ないよ。一番レベルが低い私は27だし」
「なるほど、確かに募集ではなかなか人が見つかりそうにありませんね」
女性は思案した様子を見せると、一つ頷き、にこりと微笑む。
その笑みに思わずドキリと胸が跳ねるのと同時、女性は自身を示すように胸に手を当てて言う。
「良ければ私と臨時パーティーを組みませんか?みなさんのご活躍に水を差すような真似は致しませんので」
「そういうのはあんまり気にしないけど、私たちでいいの?」
レベルが低いことを気にしての発言だったが、女性はゆったりと頷いて見せる。
「ええ、私も少し暇潰しにこちらに訪れただけですので。幸い私のレベルはみなさんより高いので、充分なフォローをさせていただけると思います」
「それはこっちとしても願ったり叶ったりだけど」
これで女性プレイヤーという最大の条件がクリアされる。
前衛かどうかはこの際どうでもいいだろう。
レベルが高いプレイヤーと一緒なら前衛がいなくても攻略できる可能性はおおいに上がる。フレデリカが【追憶の森】で力押しできるのと同じ原理だ。
「今はどのようなプレイヤーを求めていますか?」
「私たち全員後衛だからできれば前衛をできる人が欲しいとは思っていたけど、この際後衛でも気にしないよ」
「いえ、私が前衛を務めましょう。普段は後衛ですが、レベル差のお蔭で前衛を務められると思いますから」
その言葉を聞いて、セイラは自分のステータスを思い返す。
セイラのステータスはお世辞にも前衛は務められない。いつかは前衛のようなプレイもしてみたいとは思っているが、おそらくレベル100を超えてからでないと他のメンバーの足を大きく引っ張ってしまうことになるだろう。
では普通の後衛プレイヤーが、前衛として戦えるステータスを確保するにはどれだけレベルがいるだろうか。
スキルの問題もある。前衛用スキルを使えないのでは、ある程度のステータスでは戦うことは難しいだろう。
「えっと、レベルいくつ?」
「私ですか?まあ、そうですね。ここは秘密、と言っておきましょうか。あまり気に病まれても困りますので」
――こっちが気に病むレベルなんだ……。
100~200、あっても300くらいを予想していたが、もしかしたらそれすら超えてくるのかもしれない。
ラフィとハンナもそれがわかったのか、ひそひそと「大丈夫なのか(なんですか)⁉」と問うてくる。そんなのこっちが聞きたいくらいだ。
女性は微苦笑を浮かべると、すっと右手を差しだした。
「ハクアと申します。属性は水と風、普段は後衛としてギルドメンバーのサポートをしています。敬語については普段の慣れなので、気にせずいつも通りで話していただけると嬉しいです」
「私はセイラ。属性は光、私もサポート要員かな。よろしくね」
「ハンナです。属性は聖、回復担当です。敬語はキャラ付けですので、ハクアさんとは少し違うかもしれません。よろしくお願いします」
「わ、我はラフィだ。属性は闇、魔法火力担当を担っている。き、貴様の力、我が見極めてやろう」
それぞれハクアと握手をし、紹介を終える。
最後に握手したラフィの口調を聞いて何か反応するかとドキドキしていたが、ハクアは感心したような表情を見せると、ラフィに母のような優しい眼差しを向けた。
「ぐはっ」
ラフィは大きなダメージを受けた。
どうやら中二病キャラとして今までの中でハクアの反応が一番心に来たのかもしれない。
「一度外部募集システムに登録して、そこから臨時パーティーを組みましょう」
「どうして?」
「外部募集システムを経由すると見られたくないものを隠すことができるんです。例えば『鑑定』は同じパーティーだと『鑑定阻害』で弾くことができませんが、外部募集を経由すると見えないようにすることができます」
セイラが『鑑定』によって見ることができるのは名前、レベル、現在のHPの割合だ。
ランクEのセイラでもこれだけの情報が見られるのだから、さらにランクの高いプレイヤーならもっと多くの情報を得ることができるだろう。
「こうすると不都合な部分をすべて隠すことができるんです。どうしても外部のプレイヤーになりますから、信用できるとは限りませんしね」
自分のステータス欄を確認し、臨時パーティー一覧にいる「ハクア」の名前をタップすると、確かに隠したいステータスを選択できるようになっていた。
「みなさんも私に見られて困るものがあれば隠してください。もちろんみなさんの情報を漏らすことはしないとお約束致しますが、口約束では信用できないでしょう?特に私はAランクの『鑑定』を持っていますので」
「私は今のところ見られて困るものも特にないかな」
「そうですね。私も情報戦以前の段階ですし」
「我はすでにあらゆる力を秘匿している。ゆえにわざわざゲームシステムを使って隠すことなどない」
ハクアのレベルがいくつなのか。
わからないが、少なくともセイラたちが普段かかわるレベル帯にはいないように思う。『鑑定』がAランクなこともからもそれが察せられる。
「では早速みなさんのレベル上げ兼戦闘訓練と参りましょうか。普段はどちらでレベル上げをしていらっしゃるのですか?」
「普段は【追憶の森】かな。とは言っても新参の私はまだ一回しか行ったことないんだけど」
「私もまだ三回とかです。うち二回は短時間になってしまいましたし」
「私も【追憶の森】は長らく訪れていないのであまり詳しくはないのですが」
「我は両手では数えきれないほど行っているから安心するがよい。だがあそこのモンスターはランダム出現だし、地形変化もないから気を張ることは何もないぞ?」
「ならよかったです」
むしろ初心者帯の多くはモンスターがランダム出現になる。臨機応変さが求められるのだ。
その代わり地形変化もなければあまりに強力すぎるモンスターが出現することもない。この辺りだと紅の館のような固定湧きは、ボス以外では珍しい。
「それよりも、私たちはこのままでいいけどハクアは準備とか大丈夫?近接系の武器とか防具とか」
「ギルドホームに帰ればあるでしょうが、今は持っていませんね。ですが今の装備で問題はないと思います。強いて言えば、私は前衛スキルを持っていないので前衛の役割をまっとうできるわけではない、ということはご承知おきいただきたいです」
「うん、それはもちろん。二人は大丈夫?」
「はい。強いプレイヤーから学ばせていただきます!」
「ふっ、我が詠唱する時間くらいは稼いでくれなければ困るぞ?」
ハクアは口元に柔らかな弧を描く。
「はい、みなさんのお役に立てるように頑張ります」
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