第29話外部募集1
「貴様らが我に見合う力を得たとき、再びまみえることとなるだろう。さらばだ」
どうやらラフィもウィンドウショッピングで済ますらしい。言葉とは裏腹に名残惜しそうに杖を見つめる姿は哀愁が漂っているようにすら見える。
「私たちはお金を無駄にできるほど強くないですからねえ。高校生だからゲーム内課金もあまりできませんし」
「その割にハンナは結構買ってたよね」
「実は私、実家が結構お金を持っているんですよね」
なぜだか今日はハンナのいろいろな追加情報が入ってくる。実は誰よりもリアルの属性が充実しているんじゃないだろうか。
商業地区に冒険地区、特に商業地区は長くいたせいか、ゲーム内時間で六時間ほど経っていた。
六時間と言うと長く感じるが、現実時間だと一時間になることを考えれば短いとも感じる。
「とりあえず今日の目的は達したけど、どうする?もう終わる?」
「う~ん。とても充実した時間でしたけど、現実時間で一時間だと考えるとまだまだできることがあるような気はしますね」
「我も同意だが、とは言え疲れた。下々のものに合わせて作り上げたこの身体は少々稼働時間が短いのだ」
ハンナの言うこともラフィの言うことも一理ある。まだ何かできる気もするし、少し疲れたというのも本音だ。
「じゃあインターバルでどうでしょう。一度休憩でログアウトして、そうですね、二〇時くらいに再開でどうですか?」
「うん、それがいいかも」
「我も異論はない」
「みんな宿屋は違うので、ギルドホーム集合ということで。一分でも遅れることは許されませんからね。特にラフィちゃん」
「我が遅れるとでも言うのか!」
「私と初めて遊ぶ約束をした日から遅れたじゃないですか」
「うぐっ、あのときは寝過ごしただけだ!」
なんともラフィらしいエピソード。
セイラもハンナに乗っかるように意地の悪い笑みを浮かべる。
「じゃあラフィはうっかり寝ないようにね」
「そないなこと言われへんでもアラームつけるもん!」
顔を真っ赤にしてぷりぷりと怒るラフィはセイラたちの言葉にとても不服そうだった。
「我が遅れたのではない、時が我の支配から奇跡的に逃れたのだ。くっ、我の力を一時的にとは言え掻い潜るとは、油断しておったわ」
「ラフィ、ごめんなさいは?」
「ラフィちゃん?」
「ごめんなさい」
ラフィの様子に既視感を覚え「ああ、やっぱりお姉ちゃんに似てるんだ」と一人納得した様子のセイラと、商業地区で新しく買ってきたカップを見つめ笑みを零すハンナ。
一応二人とも追及する姿勢は見せているものの、それぞれが別のことに意識を割いているためかラフィの遅刻に特に怒りは湧いてこない。どちらかと言えば、まあラフィだし遅れてくるかもな、くらいには思っていた。
「それはそれで不服なんやけど」
「え、なんか言った?」
「我、少し不服」
そんな二人の様子を察したラフィは頬を膨らませたが、セイラは面倒くさい姉を扱うときに使う奥義の一つ「とりあえず頭なでなで」を発動。姉によって鍛えられた異様に上手い撫で技術により、ラフィは気持ちよさそうに頬を緩ませる。
「それでどうする?このあと何するか決めてないけど」
「そうですねえ、私はこのまま新しく買った物たちの鑑賞でもいいですけど」
「私とラフィすることないじゃん」
セイラにカップを鑑賞する趣味はなく、ラフィも可愛いものより格好いいものが好きなタイプだ。
「とは言っても冒険するにしては後衛三人では適正ランク帯よりも遥か下で戦闘しなければいけませんし……まだこの街で見たい場所あります?」
「他にいい場所あるの?」
「単純に商業地区、冒険地区の見ていない場所と、あとはプレイヤーたちの居住区が私たちのギルドホーム近辺以外にもたくさんあるので、その辺りを見て回ることはできますが」
「人の家見てもね」
「そうですよねえ」
とりあえずノリで集まっただけなので特に予定は決まっていない。
ここに前衛メンバーか、あるいは多少は前衛をこなせるサイカがいればレベル上げや戦闘慣れのための訓練ができたが、後衛だけの現メンバーでは【始まりの森】以外を探索することも難しいだろう。
集まったはいいけどやることないなあ、本当に鑑賞会になる?と望まない結論しか思いつかず頭を悩ませていたそのとき、頭を撫でられっぱなしだったラフィがちょいちょいとセイラの袖を引っ張った。
「どうした?何か良い案でも思いついた?」
「そ、その……」
何か緊張した様子のラフィ。
良い案、という言い方がプレッシャーをかけてしまっただろうかと少し反省していると、ラフィがか細い声で言った。
「外の人とパーティー、組むのはダメかな?」
「可愛い」
「えっ」
ラフィが自信なさげに上目遣いで提案をする姿は、なんだろうか、姉にはない可愛さを感じる。
姉はラフィと同格にされることを不服そうにしていた。
しかし本来はラフィが姉と同格にされることを不服と思うべきかもしれない。セイラは何かに目覚めそうになっていた。
「セイラさーん、戻ってきてくださーい。そっちの道は修羅ですよー」
「はっ……危なかった。で、なんだっけ」
ハンナの声掛けによって戻ってきたセイラ。
何が危ないって、その道にはすでにフレデリカという先駆者が――。
「ラフィちゃんの提案は、外部の人とパーティーを組むというものです」
「外部?確かにそれなら前衛が集まるね」
「はい。外部募集システムという機能がありまして、大きな街のギルド施設に行くと、組みたいプレイヤーの条件が適合した人同士でパーティーを組むことができるんです。簡単に言えばマッチングシステムですね」
「なるほど」
今足りないメンバーを集めたいとき、ギルドメンバーやフレンドメンバーでは足りないことがある。
そんなときに活用したいのが外部募集システム。マッチングシステムの要領でそれぞれ条件に適合する人同士をAIが自動でマッチさせ、一時的にパーティーを組んで一緒に戦えるシステムだ。
「【始まりの街】だとギルド総本部にこのシステムがあります。でもラフィちゃん、いいんですか?知らない人ですよ?」
「あ、そうだよ。大丈夫?」
セイラはもともと知らなかったシステムではあるが、ハンナは知っていたシステムだ。
それでもラフィの口から「外の人と組む」なんて言葉がでてこなければハンナが口にすることはなかっただろう。
「わ、我は二人がいれば大丈夫、大丈夫、たぶん……」
大丈夫そうには見えないが、ラフィが外部の人と組んででもやりたいと言うのなら拒否する理由はない。
どうしても無理そうなら相手の人に謝ってやめればいいかと考え、二人はラフィの意思を尊重することに決めた。
「じゃあ行きましょう。善は急げです。あ、でも念のため相手は女性限定でお願いします」
「もちろん。ラフィも女の子に限定するからそこまで気負わなくていいよ」
「ふっ、我に気負うものなどあるものか」
震えるラフィの手をセイラとハンナでそれぞれ握りしめ、早速ギルド総本部にある外部募集システムに登録へ向かった。
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