第27話【始まりの街】を見て回ろう!2
ハンナについていくこと五分。
最初に訪れたのはちょっとレトロな雰囲気のある喫茶店。
店の前では「えいる」と丸文字の可愛い平仮名で書かれた木の看板。
扉を開くとリンリンと優しい音色のベルが女性店員の「いらっしゃいませ」の言葉とともに出迎えてくれる。
店内は明るい色と優しい木目の木で造られており、現代的なお洒落感と自然の中のような安心感を兼ね備えた様相だ。
ずっといたくなるような心地よさ。まさに女性の行きたい理想のカフェと言えるだろう。
店内にはすでに数組の女性客がいた。
本来のゲームの目的とは言えない喫茶店に数組の客がいるというのは驚きだが、この雰囲気の良さを考えれば女性人気が高いことにも頷けるだろう。
「三名様ですね、こちらのお席へどうぞ」
カウンターの向こうから現れたのは若い女性店員さん。
ぱたぱたと急ぎ過ぎない速足で出迎える姿に機械じみた規則性はなく、彼女がNPCではなくプレイヤーであることを伺わせる。
案内されるままに着いていくと、女性店員は三人組ということもあって四角テーブルではなく丸テーブルの席を選んでくれた。
日当たりもよく、いるだけでぽかぽかとして気持ちいい。
女性店員はセイラの横に立つと愛嬌のある笑みを浮かべる。
「うちは初めてですか?」
代表して答えたのは一番先頭に立っていたハンナ。この喫茶店を選んだのもハンナであることから前々から目をつけていたのだろう。
「はい。凄く評判がいいって聞いて気になっていたんです」
「ゲーム内ですから、敬語は結構ですよ?」
「あ、私はこういうキャラでやっているので気にしないでください」
「なるほど」
女性店員も喫茶店の店員というロールプレイをやっているからか、素直にハンナの敬語キャラを受け入れたようだ。
「それではどうぞ、メニューはこちらになります。注文の際には呼んでいただければすぐに参りますよ」
そう言って、女性店員は軽く会釈するとカウンターの奥へと戻っていった。
セイラは渡されたメニュー表を手に取り、中を見る。
「結構種類たくさんある……」
メニュー表にはたくさんの種類のメニューが載っていた。
見た限りでは少人数で経営している喫茶店のようだが、大きなお店と遜色ない種類の数だ。
セイラも料理をするからわかるが、時間がかかりそうなもの、仕込みが必要そうなものまでたくさんある。
しばらくあれにしようかこれにしようかとラフィと一緒にメニューを見ながら悩んでいると、ふふっ、と小さな笑い声が後ろから聞こえて振り向く。
「驚きました?」
いつの間にかセイラのすぐ後ろにいた先ほどの女性店員。
「あ、えーと――」
「敬語はいりませんよ」
「じゃあ失礼して。少人数で経営しているみたいだけど凄いメニューの数だなって」
いろいろと驚いていると、女性店員は苦笑を浮かべ答える。
「ゲーム特有のものですね。料理系のスキルを持っているとどんなものでもそれほど時間がかからずに出来上がりますから。材料が痛むこともないですしね」
『Nine Worlds』は味覚こそ現実に近い形まで再現されているが、さすがにお腹は膨れない。
そのため本格的な食事には向かないが、カフェのようなお腹を満たす以外の目的の食事にはぴったりだ。
廃棄問題がない、手間がかからない、というゲームならではの魅力もある。
ロールプレイとして楽しむなら現実で困難な経営を行うよりも気楽にやれる。ゲームだからこそ享受できるメリットだ。
セイラはメニュー表から目に留まった軽食を注文。遅れて悩んでいたハンナとラフィが注文をする。
「食後のお飲み物はどうなさいますか?」
カフェなのだからそういうシステムもあるのか。
豊富な種類の飲み物に再び悩んでいると、隣ではハンナが何やらラフィに耳打ちしている。
ハンナの悪い顔が見えた。まさかとは思うが――
予想通り、ラフィが緊張した面持ちで注文する。
「わわわ我はコーヒーで!」
「もちろん格好いい大人はブラックですよね!」
「もももちろんだ!」
そんな二人の会話を聞いて、女性店員は少し困ったような笑みを浮かべながら注文票にメニューを書き記す。
「お二人は何になさいますか?」
「ん~、じゃあ私は紅茶で。砂糖も入れてくれると嬉しいな」
「あ、じゃあ私はロイヤルミルクティーをお願いします。とびっきり甘くてマイルドなものにしてください」
二人の注文にラフィがぎょっと飛び上がった。
「格好いい大人はコーヒーのブラックではないのか⁉」
「え、だって私たちまだ一五歳ですよ?大人か子どもかで言えば子供の範疇じゃないですか」
突然梯子を外されたラフィが愕然。その身体はわなわなと震えている。ブラックコーヒーは苦くて飲めないのだろう。
「畏まりました。ただいまお作りしてきますね」
女性店員が微苦笑を浮かべ去り、それを見て机に伏せるラフィ。
「苦いのがダメなら私が頼んだ紅茶と交換しよ。私ブラックコーヒーも好きだし」
「セイラ~」
顔を上げたラフィは感涙して掠れた声をあげる。
「そんな。セイラさんにしてやられました」
「ハンナもリア友ならもう少しラフィに優しくしてあげようよ」
「セイラ~!」
ラフィがぎゅっとセイラの肩に抱きつく。
その後店員がコーヒーを持ってきたときに「よかったら」とシュガーポットを置いて行ってくれた。
ハンナは「あら、残念です」と呟いていたが、さすがのハンナでも最後にはラフィを助けていたと信じたい。
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