第15話仲間のキャラが強すぎる!8
有り余る体力で走るフレデリカに息を切らせながら追いついたセイラは、ギルドホーム内に着くとお茶を飲んでいる見慣れない三人組を見つけた。
一番に反応したのはゴスロリ服と眼帯を装備した真っ黒な女の子。
彼女はセイラの姿を確認するや否や覚束ない動きで座っていた椅子の上に立ち、その存在を象徴するかのように胸を大きく張って声高々に言い放つ。
「貴様が新たなる同胞、セイラか。我が名はラフィ、闇を司りし高貴なる漆黒の魔女だ」
ラフィと名乗る女の子は真っ白な肌の色以外は髪、服、目の色まですべて黒、あるいは濃紺色で統一されていた。
彼女が言うように漆黒の魔女、というのもあながち否定できない見た目だが、中二病的発言からして自称だろう。姉にもそういう時期があった。
「あ、私から紹介するよ。今の中二病の子がラフィ」
「ちゅ、中二病ちゃう!」
フレデリカの言葉に、ラフィが顔を真っ赤に染める。
なんだ、羞恥心はあるのか。セイラの後からゆっくり入ってきたユキナがよしよしと頭を撫でて落ち着かせていた。
「で、その隣にいるツインテの子がサイカでショートの子がハンナ」
フレデリカに紹介された二人を見る。
サイカはピンクブロンドの髪をツインテにしている女の子だ。
ツインテの先は脚まで届くほど長く、髪は初期設定で相当手を入れたであろうことがわかる。
加えて女性も思わず感心の息を漏らしてしまう大きな胸と引き締まったウエストは海外有名モデルと比べても遜色がなく、ラフィとは異なる一度見たら忘れない強いキャラ性を持っていると言えるだろう。
対してハンナはサラサラショートの栗色の髪を持つ、非常に落ち着いた印象の女の子。
身長は低く童顔だが、微笑みながら軽く手を振ってくれている様子は最も社会性があるように感じる。
「で、新メンバーがセイラ。さっき少しダンジョン潜ってきたんだけど、初めてやる
「ええと、よろしくね」
「フレデリカさん凄いです!さすが可愛い女の子を連れてくる才能はピカイチですね!」
フレデリカの紹介に少し恥ずかしさを感じながら挨拶をする。
そこに真っ先に駆け寄ってきたのは一番接しやすそうに思ったハンナだ。好奇心旺盛な瞳の輝きを向け、手を握ってぶんぶんという効果音が本当になってしまうのではないかというくらい激しい握手をする。
そんな親しみのある彼女の姿に、しかし一つの疑問を抱く。
「あ、あれ?ゲーム内って敬語は使わないんじゃなかったっけ」
セイラの言葉に、ハンナはどこか嬉しそうに胸を張った。
「あ、普通はそうなんですけど、私の場合キャラ付けと言うかなんと言うか。みなさんキャラが強い方々だったので私も何か特徴のあるキャラ付けをしようと思った次第です!」
ハンナの後ろにいるギルドメンバーたちを見て、理解した。
《Valkyrja Wyrd》のメンバーはみな特徴的な人物ばかりだ。
中二病っぽいラフィはもちろん、先輩上司感のあるフレデリカ、美人格好いいユキナ、派手で印象に残りやすい見た目のサイカと、それぞれ頭からは簡単に離れないようなキャラの強さがある。
以前にフレデリカが変わった人ばかりと言っていたが、なるほどこれならただ弓道に打ち込んできたこと以外には特に何もないセイラは印象が薄いというものだ。
そんなメンバーを見て自分もキャラ付けをしようと思ったハンナもその行動じたいもかなり個性のあるものだが、そう思ってキャラ付けしたくなる気持ちを理解できてしまうほどにギルド内は個性の主張が激しい。
「あー……」
そんな中、フレデリカが何か言いにくそうな微妙な声を上げる。
その声に呼応するようにラフィとサイカが赤面した。
彼女たちの様子を知ってか知らずか、ハンナはセイラのみを視界に映したまま満面の笑みで元気よく言う。
「セイラさんもキャラ付けするときはぜひ私にご相談ください!キャラ付けを失敗するととんでもない業を背負って生きることになりますから。あ、別にラフィちゃんとサイカさんの言っているわけじゃなくて」
――絶対ラフィとサイカのことを言ってる。
セイラが現れてからまだ一言も喋っていないサイカもキャラ付けというからには見た目以外にも何かしらしているのかもしれないが、その業はまだわからない。
しかしラフィの業というのは明らかにあの中二病だろう。ところどこと本人も恥ずかしがっていることからノリで決めてしまったキャラ付けということが予想できる。
ラフィの姿を再度確認して、確信する。
「私はキャラ付けとか、そういうのはいいかな」
「えー⁉印象薄くなっちゃいますよ?活躍しても、特にラフィちゃんに名前隠れてちゃいますよ⁉」
いいんですか⁉と言わんばかりのニュアンスをハンナが身体全体で表してくる。
だがセイラにその気はない。活躍して意図せず名前を売ったのは、中学時代にもう充分に弓道で経験したのだ。
何より自ら業は背負いたくない。
「こらハンナ、セイラを困らせないの。セイラもなんかごめんね?」
「私も何かキャラ付けした方がいいの?」
それがこのギルドのルールなら致し方ないけど。
「そんなルールないから。なんか素でキャラの強い初期メンバーの私とユキナを見て、他の子たちがそういうギルドだと勘違いしたらしくて……」
「特にほら、私は不本意ながらかなりデフォルトでキャラが濃いからね」
口を挟んだのはラフィを撫で続けているユキナ。
確かに見た目といい立ち居振る舞いといい、ユキナは物語の中の人物と言われてもおかしくない。
本人は「あはは」と苦笑いを浮かべている程度なのでそれほど気にしていないのだろうが、それが結果としてキャラ付けに入れ込んでいると見られてしまったのかもしれない。
「ふ、ふんっ!ア、アタシは別にキャラ付けなんかじゃないんだから。ラフィと違って」
「こ、これこそ我の真の姿!愚鈍なる人間どもが我の恐ろしさに気づかないのも無理からぬことだろうが、我の真の力を解放すればゲーム世界から現実世界まですべて支配することが可能なのだ!」
「ならやって見なさいよ!あんたにはそんなことできないでしょ!」
「わ、我の力は神々をも呼び寄せる強き力。神々との最終決戦まで我の力を解放するわけにはいかない!そういうサイカこそちゃんとデレないとツンデレとしてのキャラ付けが機能しなくなるぞ!」
「仮にアタシがツンデレでキャラ付けしているとしてもあんたにデレることは一生ないわよ!あんたこそやるからにはちゃんと中二病徹底しないと貫ききれてない感が余計に恥ずかしいわよ!」
「そないなことサイカに言われる筋合いあらへんもん!」
中二病のラフィにツンデレのサイカ。これはキャラ付けを間違えるとなかなか苦しい人生を送ることになりそうだ。
セイラの隣では敬語キャラという無難に失敗しないキャラ付けを選んだハンナがにこにこと笑っている。
「ラフィちゃんは
関西出身で普段は関西弁が出ることを恥ずかしがっているんですけど、どうして中二病は一時的にとは言え羞恥心を感じなかったのか疑問ですね。私がこのゲームを始めた頃にはもう中二病キャラをやっていて止めることもできなくて。
まあ今では揶揄いがいがあって前よりもっと仲良くなれたんで、私的には結果オーライなんですけど。
――なのでセイラさんもせっかくですから」
「後悔したくないからやっぱりキャラ付けはいいかな」
「ええ、もったいない。
ちなみにこのキャラ付けの流れをつくったのは三番目にこのギルドに加入したサイカさんなんでラフィちゃんの失敗はサイカさんのせいとも言えるんですけど、サイカさん以上に業を背負ったキャラ付けをしてしまったラフィちゃんは最初に変なことをしてしまったサイカさんと仲間意識があるらしくて仲がいいんですよね。羨ましいです」
「「仲良くあらへん(ないわよ)‼」」
「ほら、息ぴったり」
これは仲がいいのかな?
「さて、なんとなくお互いキャラも掴めてきたし、プレイスタイルも含めて改めて自己紹介していこっか。
じゃ、私から。名前はフレデリカ。属性は地。得意武器は槍。一応ギルドマスターやってます」
フレデリカ始動で始まった自己紹介。やはり属性と得意武器を言うのはギルドに加入するうえではこのゲームのマナーなのだろう。
フレデリカに続いたのはユキナだ。
「じゃあ次は私行かせてもらうね。私の名前はユキナ。フレデリカとはリア友だよ。属性は風。得意武器は刀。フレデリカと一緒にアタッカーとして前衛を務めさせてもらっているね」
初めて知るユキナの属性。風というのはとてもユキナに似合っているように思う。風に舞う長い白髪とか絶対に綺麗だ。
続いてぶっきらぼうにサイカが続く。
「名前はサイカ。属性は火。得意武器はナイフ。手数を武器に戦かったり、遊撃手として敵を攪乱したりするのが得意ね。本当ならリア友コンビに肩身が狭くなるところアタシのお蔭で寂しい思いをしなくて済むわね。感謝しなさい」
「感謝するのは貴様だろ。今まで肩身の狭く寂しい思いを感じてきたサイカよ」
「中二病に言われたくないわ」
「中二病ちゃうもん!」
どっちが寂しいとかの順番どうこうはともかく、確かにサイカがいなければ少し肩身が狭かったかも。
さすがにリア友コンビに挟まれるのは少し思うところがあるだろうから。
「サイカのお蔭で寂しくならずにゲームできるよ。ありがとう」
「ふ、ふんっ!そうやって私に感謝してればいいのよ」
サイカがうっすらと頬を染め口元を緩ませている。意外とサイカとも仲良くなれるかもしれない。
「次は我の番であるな!我が名はラフィ。属性は闇。高火力の魔法を得意としている。フレデリカから聞いているぞ?セイラも我と同じで魔法を使うとな。我は貴様の師だ。崇め奉るがよい」
「なんで師を崇め奉るのよ。あとあんたはいいとこ先輩よ」
至極まっとうな意見である。
「ハンナです。聖属性で回復を得意としています。ヒーラーのポジションですので得意武器は錫杖と言ったところでしょうか。別に物理で殴りはしませんけどね」
常ににこにことしているのがハンナだ。
容姿はほとんどセイラと変わらない年齢だが、周りと違って発言が大人っぽく聞こえる。なんか聖女できそう。
「じゃあ最後に。私はセイラ。属性は光。得意なのは……なんだろう?一応後方支援として魔法を使う予定だけど、いろんなことやってみたいと思ってるよ。最近始めたばっかりでまだまだレベルが低いけど、よろしく」
こう見るとなかなかバランスがいい。
セイラは初めてのゲームだが、それでもなんとなく前衛二人、遊撃一人、後衛魔法使い二人、ヒーラー一人というのは戦いに適している気がする。属性もみんな違って、それぞれ違った成長を見せて行きそうで楽しみだ。
全員の自己紹介が終わったところで、フレデリカがパンパンと二度手を叩いて注目を引く。
「今日はギルドメンバーみんな集まってくれて嬉しいよ。これからみんなでお金稼ぎプラス連携の練習に行きたいんだけど、時間ない人いるかな?」
セイラはもとから一日中でも付き合う気で来たのだ。もちろん大丈夫だよ、と答えると他メンバーも続け様に答えていく。
「アタシは大丈夫よ」
「我も問題ない」
「私も問題ありません。あ、ただラフィちゃんは宿題が残っていると思うのでお夕飯までで」
ハンナがあっさり告げた事実に、ギルドメンバー全員で笑う。和んだ空気の中、ダシにされたラフィが一人顔を真っ赤にした。
やっぱりこのゲーム顔の紅潮の再現率高いなあ……。
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