第14話仲間のキャラが強すぎる!7
ダンジョンのボス部屋。
そこには「ボス」と呼ばれる今までとは一線を画すような強力なモンスターが存在している。
細心の注意を払い、敵の行動パターンを読み、味方同士の連携があって初めて互角の勝負。
ボスはパーティーで力を合わせ、死闘を繰り広げてようやく倒せる相手だ。
そう聞いていたセイラは、あっという間に光となるボスを見て唖然としていた。
「早い、ね」
「まあ、そりゃねえ」
セイラが後方で『鑑定』を使いながら二人にオーダーを出し、度々セイラも一緒になって『ライトカッター』で攻撃していたところまでは予想通りだった。
しかしボスというからには苦戦しながら倒すものだと思っていたのに、実際は今までと変わらず。精々攻撃回数が増えた程度だった。
理由はフレデリカとユキナが適正レベル帯ではないことが一番の理由ではあるが、もう一つの理由としてフレデリカが槍を、ユキナが刀を握ったことだ。
ダンジョンというのは往々にして狭いものだが、ボス部屋はたいてい広くなる。
もちろんすべてがその限りではなく、適正レベルが高くなればなるほどフィールドにも何かしらの要素が入る。
だが、【始まりのダンジョン】は初心者用ダンジョンなだけあってとてもオーソドックスなボス部屋だった。
ボスはでかいコボルト一体。正式には「コボルトキング」という名前で、普通のコボルトよりも強くて大きい。
逆に言うとその程度だ。槍を持ち、本気で戦えるレベル80越えのフレデリカなら一人でも倒せる程度の敵。
いざ戦闘開始と身構え、『鑑定』を発動させ、しかし次の瞬間には我が目を疑った。
フレデリカが最初に放った技がボスにヒットし、HPを50%以上削ったのだ。
そこからユキナが放った一撃はさらに30%程度削り、一瞬のうちにボスの体力は20%を切った。
「いやあ、それにしてもごめんね。最初にHP削りすぎて私たちの通常攻撃がどれくらいHP削るのか見極めるの大変だったよね」
「別にそれはいいんだけど」
HPを20%まで削ったボスを倒すのは容易だ。あとはどうやってセイラに撃破ボーナスを入れるか。
フレデリカとユキナはボスに通常攻撃によってちまちまとHPを削り、そのあとは囮となりセイラが倒しきるのを待った。
セイラがボスを倒したのは残りMPギリギリ、『ライトカッター』の五回目を打ったときである。
「ボスってもっと難しいものだと思ってたよ」
「難しかったら初心者含めた三人パーティーで何も言わずに戦ったりしないよ?」
「うん、いや、そうだね」
フレデリカの言っていることは真っ当だ。だが身構えていた方としては拍子抜けで、なんだかあまり戦ったという気がしない。
消化不良な複雑な気分を抱え、重量感のある杖に体重を預け、小さくため息を吐く。
セイラを気遣うように苦笑いを浮かべる二人を置き、疲れのままに先に散ったボスの方へ首を向けた。
「二人とも。それよりもドロップアイテムがあるよ」
「え、ほんと⁉」
「ほら、これを見て」
ボスの倒れた場所。そこにはでかでかと光輝かくアイテム。
光に包まれ、そのままではアイテムの詳細が見えないのでユキナが一度インベントリにしまい、ドロップアイテムの情報を確認する。
「『コボルトの毛皮C』だね。運がいいよ」
「おお!Cなら結構いい値段になるじゃん!」
フレデリカがはじけるような笑みを浮かべた。
どうやらドロップしたものはいい金額になるアイテムのようだ。ギルドメンバーになったばかりのセイラにとっても嬉しい。
そこでユキナが何かに気づいたように指をスクロールさせる。
「ん?もう一つあるみたいだよ」
「え、なになに?」
フレデリカが目を輝かせる。
最初のドロップアイテムが良かっただけに期待しているようだ。
「これは……」
「どうしたの?」
ユキナが目を見開く。
セイラが声を掛けると、ユキナは恐る恐ると声を震わせた。
「銀の
「え、マジ⁉」
フレデリカが驚きと嬉しさの混じったような表情でユキナに近づく。
ユキナも困惑したように「そう、だね」と呟くのを見て、セイラは首を捻った。
「何か問題なの?」
「正直、大問題だよ」
「いい意味でも悪い意味でもね」
「?」
ユキナは顔を曇らせ、フレデリカはどこか楽観的に嬉しそうだ。
対照的な二人の様子を見ると、フレデリカの「いい意味でも悪い意味でも」という言葉が気になってくる。
深刻そうな表情のままユキナが答える。
「こんな初心者ダンジョンで銀装備がドロップするなんてありえないんだよ。銀装備のドロップする適正レベル帯は200前後だからね。つまりこれは誰かがロストした装備品がたまたま近くにあったってことになる」
装備品には特定の鉱石などが付与されていると価値が跳ね上がることがある。
有名なのは鉄、銅、銀、金、ミスリルの五つだ。
それらはそれぞれドロップする場所の適正レベル帯というものがあり、鉄はレベル50程度、銅はレベル100程度、銀はレベル200程度、金はレベル400程度、ミスリルはレベル600程度となっている。
セイラたちのいる【始まりのダンジョン】は適正レベル30~40、むしろ鉄すらもドロップしないような場所だ。
「えっと、誰かが間違えて落としたってこと?」
「まあそれもなくはないけど、一番はPKに遭ってロストすることが多いかな」
「PK?」
PK――プレイヤーキリング。モンスターではなくプレイヤーを対象に戦闘をする行為のこと。ゲーム知識の浅いセイラでも聞いたことがある言葉だ。
「そっ、PKに遭うと一部装備品がロストすることがあるの。低確率だけどね。さらにレアリティの高い装備品ほどロストする確率は低くなるはずなんだけど、きっとこの装備品をロスとしたプレイヤーは運がなかったんだろうなあ」
お気の毒様、と手を合わせるフレデリカは、本当に言葉の通りに思っているのか怪しい。
逆に本当に気の毒そうに、複雑な表情を浮かべるユキナが大きなため息を吐く。
「でもPKをした側も相打ちか何かで死んでしまったんだろうね。ロストした装備品を回収する人がいなくなった。そこに現れたのが第三者の私たちというわけだよ」
「じゃあ私たちが得?」
装備品をロストしてしまった人には申し訳ないが、落ちていた装備品を拾わない理由もこちらにはない。
もともとPKなんかがまかり通っている世界だ。落ちていた装備品を拾ったところでこちらに非はないだろう。
そうセイラは考えていたのだが、どうやらそれほど簡単な話ではないようである。
「もちろん、落ちている装備品を拾わない理由はないだろうね。私たちがこれを放置しても次に来た誰かが拾うだろうし。ただ、もしうっかりこの『レベル100にも満たないプレイヤーが持つはずもない』装備品を拾ったことがばれたら私たちがPKをしているギルドだと疑われてもおかしくないっていう問題はあるんだよ」
今回問題として大きいのはロストしている装備品があまりに高価すぎるということだ。
銀装備、という価値は非常に大きい。
そもそもそんなものがなぜこんな初心者ダンジョンでロストしてしまったのかという疑問はあるものの、銀装備そのものが「レベル100以上が誰もいないギルドのプレイヤーが持つに相応しい」と言えるような装備品ではない。
つまりこの銀装備を落としたプレイヤーが銀装備を拾ったプレイヤーを見て思うことは「こいつらがPKギルドの関係者だ」ということになる。
「PKをするプレイヤーっていうのは顔が見えないように姿を隠したり、隠密系のスキルを使ったりするし、弁解なんて聞いてくれないだろうねえ」
からからと笑うフレデリカ。
聞いていればギルドの評判にもかかわるような一大事に聞こえるが、フレデリカは深刻視していないらしい。
「大丈夫なの?」
「大丈夫大丈夫。私たちのレベルが足りないから使ったらばれやすいってだけだからね。私たちが適正レベルになるまでインベントリ内に保存しとけば、ばれることはまずないんだよ。そうすれば評判も悪くならないし、変な敵もつくらない」
自分のインベントリ内は誰かに覗き見られることはない。装備品として装備してしまえばこれが見つかる可能性が高まるが、インベントリ内を覗き見る術は存在しないのだ。
まるで他人事のようにお気楽なフレデリカ。
その様子を見て、ユキナが半眼になる。
「じゃあその管理はフレデリカがやってくれる?」
「え?もちろん最初にインベントリにしまったユキナがするべきだと思います」
「言うと思った。うっかり私がインベントリを開いているときに触れて表に出したらどうしてくれるの?」
「それは私も同じだよ。ならうっかり触れてしまいやすいのはどちらかを考えれば持つべきなのがどちらかも明白!」
別に周りに人がいるときにインベントリを開くことはそう多くないのだが、これは大金を鞄の中に入れて街中を歩くのと同じような気分なのだろう。
そしてどちらかと言えばうっかりやらかしそうなのはフレデリカ。二人の間でもその見解に相違ないらしい。
ユキナがわざとらしく大きくため息を吐く。
どうやらこの件に関してはため息が尽きないのはユキナのようだ。
「なんで私、フレデリカとの付き合い長いんだろう……」
お疲れ、ユキナ。
「ちょうどいいし、一回ギルド帰ろっかー」
フレデリカが気だるげに身体を伸ばす。
今回得た収入、『コボルトの毛皮C』は100万ゴールドという目標金額に大きく近づく一歩となった。
この調子が続くのであれば周回というのも一つの手であったが、所詮は「始まりの~」の名の付くダンジョン、今回は運が良かったがこれが続く可能性は低い。
また一番の稼ぎどころであるボスは、再戦できるまでの時間――リポップタイムが長く設定されているため、ボス周回も難しい。
「それにさっきギルドメンバーがログインしたみたいなんだよね」
たっぷりと伸びてすっきりしたのか、快活な様子のフレデリカ。たった今システムウィンドウの通知を確認したのか、手を空でスライドさせている。
「え、ログインしたらそういうの出るの?」
「ギルドメンバーだったら設定でログに出るようになるよ」
ログは、「ログ」の画面を表示しなければ見ることはできない。多数の情報が一気に流れてくることがあるため、戦闘などの重要な場面で邪魔になるからだ。
しかしながら一定数、ログを開かずともおおまかに重要な通知を知ることはできる。
例えばクエストであれば、システムウィンドウを開くアイコンに「!」が表示される。これは初期設定によるものだが、これら設定はすべて管理することができ、フレデリカは「ギルドメンバーのログイン情報の表示」という設定を行っていた。
初めての操作に感心していると、フレデリカが微笑ましそうに教えてくれる。
「それやったらいつみんなが来てるかわかるんだ」
「そうだね。ギルドに来たユキナを私だと早とちりすることもないよ」
フレデリカが初めてセイラと会ったときのことを思いだし笑っているのを見て、顔がほんのり熱くなる。
その様子を見て、ユキナも一緒に笑みを深めた。
……本当にこのゲーム、恥ずかしがっているところは詳細に表示してくれる。
「じゃあさっさとギルド戻ろっか」
「もしかして来た道戻るの?」
「そうしようかとも思ってたんだけど、メンバーが来てるなら急ぎたいし転移しよっか」
転移、という言葉に聞き覚えのあるセイラは疑問を感じる。
「転移?転移結晶って高価なんじゃなかったっけ」
「転移結晶は使わないよ。ダンジョンはね、ボスを倒すと入り口までも転移させてくれる異ステムを起動できるようになるの。ほら」
フレデリカに促されてボスがいたところよりもさらに奥、壁際を見る。
そこには水晶のような小さなオーブが置かれていた。
「あそこに五秒間手を置くと転移してくれるんだ。さっ、二人とも行こっ!」
「フレデリカ、あんまり引っ張らないでよ」
フレデリカに手を引かれ、オーブまで走る。
そのまま三人同時に手を置くと光とともに背景がぐるぐると回った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます