第13話仲間のキャラが強すぎる!6
ダンジョン攻略は順調に進んでいた。
セイラのオーダーにより対モンスターに対しては効率よく迅速に対処でき、セイラの知らない道順や罠はフレデリカとユキナのアドバイスによって楽々突破していく。
「あ、セイラそこ踏まないでね」
「?」
「壁から大量のスケルトンが湧いてくるから」
【始まりのダンジョン】はなかなかシュールな罠が多いというのも特徴のようだ。
「スケルトン多いね」
「まあ【始まりのダンジョン】だからね。ここで出現するのは八割がスケルトン系、二割がコボルト系になってるの」
セイラたちが倒しているスケルトンは、アンデット属のモンスターである。スケルトンはアンデット属の中でも最弱の部類に属し、非常に弱いモンスターだ。
それに対して攻略を始めて一度だけ遭遇したコボルトは二足歩行で犬型の、スケルトンよりも少し強いモンスターになる。
「さっきからスケルトンとかコボルトとかあるけどさ、どっちも北欧神話じゃなくない?」
セイラが口にしたのは、ずっと気になっていた出現するモンスターが北欧神話じゃないということ。
イリアとともにパワーレベリングをしたときも北欧神話ではないゴブリンが登場していた。
どれも民間伝承で、北欧神話は関係ない。
「そりゃ北欧神話に雑魚敵とかいないからね。どうやって最初の街に出すのって話になっちゃうし」
「いないの?」
「基本的にこのゲーム内で北欧神話にかかわってくるモンスターってどれも強力なのが多いよ。ドラゴンもこのゲームでは出てくるけど、そこら辺のドラゴンより北欧神話に関係しているモンスターの方が強いこと多いし」
北欧神話の生物はどれも強力なモンスターだ。ほとんどが神々やそれと戦うことができる相手であり、弱いモンスターは存在しないと言っても過言ではない。
ゆえにゲーム内でも神話に登場する生物の多くはボス部屋に配置されていたり、複数のパーティーで挑むレイドモンスターだったりすることばかりである。代わりに一般モンスターの枠は民間伝承などの弱いモンスターが採用されている。
「じゃあそのうち北欧神話の生物とも会えるの?」
「私たちもまだトロールくらいだから随分先かなあ。『ムスペルヘイム』とか『ヨトゥンヘイム』とか行けばもう少し出会えるだろうけど」
「それって九つの世界だっけ」
「そうそう」
今セイラたちがいる場所が『ミズガルズ』。それに対して『ムスペルヘイム』や『ヨトゥンヘイム』は北欧神話上における九つの世界の一つである。
北欧神話の戦いは多くが神と巨人の話になる。巨人たちが住む『ムスペルヘイム』と『ヨトゥンヘイム』はプレイヤーたちが最も戦いの中で北欧神話を近くに感じられる場所だ。
「他の世界か……。どれくらいになったらいけるの?」
「レベルで言うと最低でもやっぱり100は欲しいって言われてるかなあ。もちろんパーティーのメンバー次第にもなるけど」
「実は私とフレデリカも少しだけムスペルヘイムを覗いたんだだけど、まだ早かったかな」
「二人でもかー」
イリアと一緒に世界を旅して回るのはまだまだ先のようである。
セイラはがっくりと肩を落とす暇もなく、現れたスケルトンに辟易しながらも戦闘を再開した。
***
RPとは経験値に属する値の一つで、ステータスに振ることでステータスの伸びにプラス補正を掛けることができる。このRPは、ステータスを出す計算式の過程に補正値として組み込まれるため、振ったRPの値が同じならいつ振っても――例えばレベル5のときにATKにRPを10振った場合とレベル1のときにRPをATKに10振ってレベル5になった場合でも――同じステータスになる。
だからこそステータスの振り方やスキル・魔法の取得に悩んでいるのならRPの温存も一つの手だ。
しかし温存しすぎれば、より経験値効率のいいモンスター狩りへのステップアップができない。
将来を見越し過ぎて今が弱ければ意味がないのだ。
RPをどこに振るか、いつ振るか。
それはすべてのプレイヤーが頭を悩ませる、単純にして最難関の問題。
セイラもまた、先駆者と同様の道を歩んでいた。
ちょうどモンスターの来ないセーフポイントで休息に入ったセイラたち。一息ついて地面に座り込み、セイラは自分のステータス画面を見つめる。
随分とモンスターを倒したお蔭でレベルは3上がり、23になった。RPも増え、表示されているRPはそろそろどこかに振ることを考えてもいい頃合いだろう。
「ねえフレデリカ、RPどうやって振ればいいかな?」
セイラは固い地面を気にした風でもなく寝転がっているフレデリカに声を掛ける。
「前にお姉ちゃんがどこに振ったらいいか言ってたんだけど……」
正直言って、覚えていない。
そもそもが、まだ興味の薄かったゲーム。今ではフレデリカたちのお蔭もあって始めた頃よりも随分と楽しめているが、当時はそれほどでもなかった。
少し前の話ということもあってあまり記憶に残っていないのだ。
「セイラは光属性のサポーターだったよね」
フレデリカが横になったまま膝を抱え、セイラを見上げる。
だらけているようだが、下が岩盤なのに痛くないのだろうか。
そんな疑問はおくびにも出さず、セイラは首肯して見せる。
「だったらとりあえず魔法系のステータスに振るのはどう?」
「魔法系?」
「具体的にはMPとINTだね」
MPはそのまま魔法の使用回数に影響するステータスで、INTは魔法攻撃力に関するステータスだ。
「後衛だから防御系はそれほど必要じゃないかなあ。少しは振っておいた方がいいけど、余ったらくらいの気持ちでいいと思うよ」
フレデリカに言われて、セイラもだんだんとイリアに言われた言葉を思いだしてきた。
防御系はそれほど振らなくてよくて、魔法系ステータス中心。ATKは0でいいくらいだけどセイラが物理攻撃もやってみたいと言うなら無理強いはしないという内容だったはずだ。
フレデリカとイリアの言っていることは完全に一致している。
ならその言葉通りにRPを振るのが正しいだろう。しかしステータスのMPの消費量を見れば、ほとんどMPを消費していないのが現状だ。
セイラが使用している『ライト』は消費MPが少ないもので、『フラッシュ』も緊急時以外は使わない。
このままMPやINTを増やしても宝の持ち腐れになってしまう。
「じゃあ攻撃魔法覚えた方がいいよね」
「そうだね、何か覚えられる魔法ある?」
ウィンドウをステータス画面から魔法画面に切り替える。
魔法画面には自分が今習得している魔法と、その下に習得可能な魔法がグレー表示で並んでいた。
気になる魔法はいくつかある。
まず目についたのは『ライトレイン』という魔法。
『ライトレイン』……中級光属性魔法。光の雨を降らして範囲内の敵を攻撃する。高さ5メートル以上の空間がなければ発動しない。
効果は申し分ないが、高さ5メートル以上必要と言うのはダンジョン攻略をしている今は使いにくい。
さらに詳しく見ると消費MPも中級魔法というだけあって今のセイラには少し多めだ。
これは今考慮すべき魔法ではないだろう。
次に目に留まったのは『ライトカッター』という魔法。
『ライトカッター』……初級光属性魔法。光の刃を生み出し攻撃する。威力、飛距離はINTによる。
威力はそれほど大きくなさそうだが、詳しく見れば消費MPもそれほど多くはない。MPに補正を掛ければ充分連発できる手頃さだ。
あとはまだセイラには早い魔法だったりプレイスタイルに合わない魔法だったりと、期待するようなものはなかった。
なら『ライトカッター』を取得しようと魔法欄を閉じようとして、しかし最後に気になる魔法が目に付いた。
『スキルシェア』……中級無属性魔法。自身にかけられたスキルを一つパーティー内で共有する。ただしスキルシェアを受けたプレイヤーは、異なるスキルシェアを持つプレイヤーによってスキルを共有することはできない。またスキルシェアを受けたプレイヤーの取得スキル効果は、スキルシェアを使用しているプレイヤーのスキルランク、状態に左右される。
「ねえフレデリカ、この『スキルシェア』って魔法どう使うの?」
セイラの言葉に反応するようにぴょんと起き上がったフレデリカはにやりと笑った。
「それは対人戦で重宝する魔法だね」
「対人戦?」
見る限り、対人戦に特化しているような魔法の内容には見えない。ただスキルを共有するだけだ。
モンスター戦と対人戦でどう違うというのだろうか。
フレデリカが得意げに人差し指を立てて話す。
「別に対人戦に特化してるってわけじゃなくて、戦術の幅を広げるためにスキルを共有するのは対人戦の方が強いってことだよ。例えば『鑑定』を使用しているセイラが私に『スキルシェア』を使ったとする」
フレデリカの言葉の通り想像する。
『鑑定』じたいはそれほど珍しいスキルではないだろうが、RPを無駄にしないために持っている人はそれほど多くないだろう。
特に高ランクの『鑑定』はかなりのRPを食うようだし。
その『鑑定』をパーティーメンバーに共有することができたら――
「みんな『鑑定』が使えるようになるから情報の更新が早くなる?」
セイラが考えたのは情報の更新の速さ。
現在セイラたちのパーティーはセイラ中心の指示――オーダーによってフレデリカやユキナが攻撃している。
オーダーというのは、セイラが情報を得てその情報に合った戦術を考え、その戦術を伝えるまですべてが重要だ。それには相応の時間が掛かることになる。
もしも全員が『鑑定』を使えたなら、全員が自分で考えて行動することができる。特に人員が多くなればなるほど一人の鑑定持ちが戦闘中に戦術を伝えきるのは無理があるため意義が大きい。
セイラの言葉に、フレデリカはわざとらしく鷹揚に二度頷いた。
正解ではなかったのだろう、その予想通りフレデリカの回答は違うものだ。
「もちろんそれもメリットだね。でもそれはモンスター戦でも意味が大きい。対人戦に特化していると言い切る理由ではないかな」
セイラの考えは仲間が多くなればなるほど効果が大きくなるというもの。
しかしこれは対人戦にのみ言えることではない。
モンスター戦もパーティーで戦わなければ敵わないような強敵もいるし、中にはレイドモンスターなる複数パーティーを必要とするような強力なモンスターもいる。下手な対人戦より仲間の人数が必要になってくるだろう。
「もちろんレイド戦でも重宝されてるんだけどね。でも対人戦はその比じゃない。だって考えてみて?『鑑定』のデメリットって何かな?」
フレデリカに言われてデメリットを考える。
真っ先に浮かんだのはスキルタイムがあることだ。これはどのスキルにも言えることだが、スキルタイムが過ぎればクールタイムが経過するまで再使用ができない。
けれどこれは対人戦にのみ言えることではないのは確かだ。ならば答えは違う。
「ごめん、わからないや」
「答えは目視が必要なこと、だよ」
「あっ」
言われて、すぐに理解した。
『鑑定』の発動条件には目視が必須だ。隠れられては目視ができないし、そうすると当然スキルを発動することもできない。
もし他に『鑑定』を使える人がいたら。
隠れている人がいても他の角度から見れば目視できる可能性が上がる。他にも範囲外の離れた位置の相手も『鑑定』ができるだろう。
「そっ。この目視で鑑定するのは特に対人戦に必要なことだよ。だってモンスターは隠れて攻撃とかするやつは多くないし、そういうのはたいてい情報が出回ってる。情報を盗み見るまでもない」
モンスターは一般に、モンスターがこちらを目視してから攻撃をしてくる。
モンスターが目視できるということは、同じようにプレイヤーからも目視できるということだ。
隠れて戦うようなモンスターは厄介なモンスターとして特に情報は出回りやすく、攻略法も研究されやすい。わざわざ『鑑定』を使わずとも戦うことができる。
しかし対人戦はそうもいかない。情報が出回りづらく、一定のプログラムを持たない対人戦において、絶対に通じる攻略法などないのだ。
こうしてプレイヤー同士の戦いではどちらが先に多くの情報を得ることができるかも戦況を左右する重要な要素になる。
「まあ『鑑定』を『スキルシェア』するのは対人戦においてはまだまだ甘いんだけどね」
「そうなの?」
聞く限りでは『鑑定』を『スキルシェア』することは情報戦において大きなアドバンテージになるように感じる。特に拮抗した者同士なら情報の有無こそが試合を分けることがあることは情報戦に疎いセイラでも理解できる。
しかしそんな『鑑定』すらも『スキルシェア』の対象ではない。
「本当に共有すべきなのは『鑑定阻害』っていうスキルなんだよね。その名の通り、『鑑定』を阻害するスキル。対人戦特化ギルドでもなきゃこのスキルも全員持ってるわけじゃないから、特に問題がなければ普通はこっちを共有するんだよ。相手の情報を知っている利よりも自分たちの情報を知られている害の方が大きいから」
もしも自身のパーティーメンバーが一人でも『鑑定』されれば、そのプレイヤーを戦いの起点とされることは少なくない。
むしろ『鑑定阻害』は『鑑定』以上に共有が必要なスキルだ。
「『スキルシェア』を覚えるんだったら対人戦をするときだね。PKはどっちにしろ対策できないことも多いから、やるんだったらギルド戦かな。私たちのギルドは普通に冒険するギルドだから対人戦はそんなにやらないだろうし、今はまだ取らなくていいよ」
「うん。とりあえず『ライトカッター』を習得することにしたよ。そのうち対人戦とかもやりたいね」
「セイラのレベルがもう少し上がったらやろっか!」
「うん」
セイラは『ライトカッター』にRPを支払い、習得。その後MPとINTに残りのRPのほとんどをつぎ込んだ。余ったRPはHPに振っておく。
「さて、セイラは新しい魔法を覚えて、いい感じに休憩もとったし。ユキナ、そろそろ行くよ!」
近くで刀の素振りをしていたユキナがフレデリカの声に反応して刀を鞘にしまう。
刀身が一メートルほどある長い刀だ。なるほどこれでは狭いダンジョンでは使えない。
「冒険再開!」
フレデリカの掛け声とともに、セイラたちはダンジョンのさらに奥へと進む。
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