第12話仲間のキャラが強すぎる!5
ダンジョンとは、主に洞窟等に存在する無限モンスター発生地域のことだ。
『Nine Worlds』における一般的なモンスターの発生というのは、一定範囲内にプレイヤーの存在しない場所、すなわちプレイヤーとは無関係の所で生じる。そしてそれらがエリア内を移動、徘徊することで、プレイヤーと遭遇、戦闘が行われることになる。
しかしダンジョンではこれと様子が異なる。
ダンジョン内はプレイヤーの存在関係なくあらゆる場所でモンスターが発生するのだ。プレイヤーの目の前でモンスターが発生することも珍しくない。
他にも一般的なエリアよりもモンスター発生率が高く設定されており、罠やボス部屋があるところもあれば、宝箱が見つかる場所もある。
まさにダンジョンはハイリスク・ハイリターンがその名にふさわしい場所だ。
セイラたち三人はダンジョン内に歩みを進めていた。
セイラは姉からもらった魔法の杖Dをその手に持ち、姉に習得するように言われた初級光属性魔法『ライト』を使用し暗い洞窟内を照らして進む。
「セイラは今どんなスキルと魔法を覚えてる?」
「お姉ちゃんから覚えるように言われたのは『ライト』『フラッシュ』『鑑定』の三つだよ」
「ちゃんとサポーターに必要なもの揃えてるなあ」
セイラに習得しているスキル・魔法を確認したフレデリカが、その内容に感心する。
初級光属性魔法『ライト』は光を生み出す魔法だ。光源のない場所で役に立ち、効果こそ弱いが非常に役に立つ。光属性使いがいないパーティーは使い捨ての松明を使わなければならず、いるといないではコストに雲泥の差が付く。
初級光属性魔法『フラッシュ』は逃走専用魔法だ。強い光を放ち、直接光を目にした相手の視界を奪うことで時間をつくることができる。不意の強敵に遭遇したときにこの魔法を放てばパーティー全員が逃げられる確率はぐっと上がる。
スキル『鑑定』はサポーターには必須のスキルだ。スキルランクによって様々な情報を見ることができ、戦術の組み方や立ち回りに大きな影響を与えるスキルである。
フレデリカの言う通りこれらのスキル・魔法は何かと便利なものであり、さすがは最上位プレイヤーの手腕と言ったところか。
思わず口元が緩む。
イリアにパワーレベリングされているときはまったく役に立てなかったことが気掛かりだったが、今後少しは役に立てそうという展望が見えそうだ。
そんなセイラを微笑ましそうに見るフレデリカとユキナに気づき、セイラは緩む口元から気を紛らわせるように二人に目を向けた。
「フレデリカって武器は槍とか言ってなかった?」
目についたのは二人の武器だ。
まだ杖しか持っていないセイラは近距離で戦う武器も、使えるかどうかはさておき、憧れがある。
フレデリカは自分の得意武器が槍だと言っていたのを覚えていた。しかし今フレデリカが持っているのは刀身のそれほど長くない片手剣だ。
「あ~、それね」
フレデリカが苦笑いを浮かべる。
「ダンジョンって狭いところが多いからさ、槍遣いは思う存分槍を振れないんだよね。だからそういうときは片手剣を持つようにしてるの。剣術系のスキルは強いのを持ってないからあんまり使いたくはないんだけど、まあ私のレベルならここら辺のモンスターは剣でも簡単に倒せるからね~」
確かに、とセイラはあたりを見回し納得する。
洞窟内は狭ければ幅二メートルもなく、高さも低いところなら同じく二メートル程度だ。思う存分槍が振れるほど広い空間は多くない。
もちろん立ち回りを考え、広い場所のみで戦うようにすればフレデリカも槍で戦うことはできる。しかし自分の適正レベルより下のダンジョンであること、金策に走っているためなるべく早くモンスターを倒したいことを考えれば槍より剣の方がいい。
「だから、ここで本領を発揮できるのはセイラだけになっちゃうから」
「あれ、ユキナは?」
「私も普段の武器とは少し違うんだよ。フレデリカほどではないけどね」
そう言われて、セイラはユキナの武器に目を向ける。フレデリカが持っていたのと同じ、刀身の長くない片手剣だ。
「私が得意とするのは刀なんだよ。ほら、剣道をやっているって言ったでしょ?」
「そうだね」
「もちろん槍術スキルを習得しているフレデリカよりも同じ剣というだけで使えるスキルは多いんだけど、まあ、あまり得意ではないかな」
とは言えユキナもレベルは始まりのダンジョンの適正を超えている。得意な武器ではないからと言って手をこまねくなどということはないだろう。
「それにしても出てこないね。結構中まで来たけど」
「いや、来たみたいだよ」
フレデリカがぷらぷらと剣を振りまわして退屈しのぎをしていると、そこにちょうどよくモンスターが現れた。
いち早く気配を察知したユキナがその存在を知らせる。
「私、攻撃魔法は『魔力弾』しかないから。――よろしくね」
「それはつまり?」
「まだレベル低いから経験値多めに欲しいなーって」
「とどめはよこせってことね」
「手に入れたお金は全部ギルドに寄付するよ」
「よしその話乗った!」
戦闘開始直前に密約を交わしたセイラとフレデリカ。ユキナはそんな二人の様子に苦笑いを浮かべる。
ウキウキでスケルトンに切りかかるフレデリカを先頭に、戦いの火ぶたが切られた。
「右のはユキナが通常攻撃であと一撃。左のはフレデリカの『二段突き』でちょうどいい感じ」
「鑑定持ちと一緒はやりやすいっ!」
セイラは後方に控え、フレデリカとユキナに次々と指示を出す。新人とは思えない状況だが、その理由は『鑑定』にあった。
スキル『鑑定』。その効果は目視した相手の情報を見ることだが、それが『Nine Worlds』では他のゲーム大きな役割を持つのである。
理由はHPバーが見えないということにあった。
古今東西RPGゲームにおいて、相手のHPバーが見えるというのはもはや一般的とされている。自分、味方、敵、それぞれのHP管理、これは戦術の決定をより簡単にし、始めたばかりの人に優しいのはもちろん、そのゲームを視聴する立場の人間にもわかりやすいことが「HPバーが見える」というシステムを連綿と続かせてきた。
しかしながら、『Nine Worlds』においては自分以外のHPバーが見えないという他のRPG等のゲームにはない特徴があった。
もちろん戦闘慣れしてくるとだいたいの今のモンスターのHPがわかったり、ネットの攻略サイトを見たりと、情報を得ることは可能だ。しかし目まぐるしく変わる戦闘でそれらがすべてが正しく機能するかと言えば、言いきれないことは多々ある。
そこで必須となるのがスキル『鑑定』。このスキルは習得時のEランクで目視したプレイヤーやモンスターのHPバーが見えるような仕組みになっている。
『Nine Worlds』は『鑑定』を使用して作戦を考える後衛と敵の注意を引き付けて大きなダメージを与える前衛、最低でもこの二つの役割が必要となってくる、ある種の協力ゲーとして発売されたゲームなのだ。
セイラは後方に構え、決して自分がモンスターのターゲットにならないよう――ヘイトを買わないように注意する。そして『鑑定』を駆使して相手のスケルトンのHPの減り具合を見ながら二人に指示を出し、自分の『魔力弾』一発で倒せるように調整していた。
フレデリカのスキル『二段突き』で残りHPが僅かとなった最後の一体のスケルトンがセイラの『魔力弾』により撃破エフェクトとなる青い光を散らし、消滅する。
パーティー内で倒したスケルトンは五体。
そこに貢献度による経験値配分がなされ、すべての撃破ボーナスを得たセイラは大量の経験値を獲得した。
「『鑑定』があると戦いやすいのはわかってたけど、それ以上にセイラのオーダーが上手かったよ~」
「そんなことないよ。二人の戦い方が上手かったからだよ」
「いや、間違いなく上手かったよ。私も保証する。こんなに上手く調整して倒せたのは初めてだからね」
フレデリカとユキナの言葉にセイラの顔が思わず熱くなる。
ライトを使用して光源となっているセイラのその様子は二人からはっきりわかったのか、楽しそうに笑っていた。
——顔の紅潮まで再現しなくていいのに!
こんなにも感情的になるのは久しぶりだということには気づかず、無言でフレデリカの胸をポカポカと叩いた。
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