第4話新しい世界の始まり3

「パーティー申請届いた?」

 妹とプレイできることに浮かれていたのか、森に入ってから思いだしたようにフレンド交換とパーティー申請をした姉。

 そこで初めて姉のPNプレイヤーネームが見えるようになる。

「うん、来た来た。このイリアっていうのがお姉ちゃんだよね」

「結構いい名前でしょ」

「調子乗ってる感じだね」

「みんなこんな感じだよ⁉」

 セイラは多くのプレイヤーがこんな感じの外国名なことを知らない。

「いやあ、それにしても危なかった。これで経験値が分配されるようになるよ。パーティー組まないと経験値全部倒した人が持ってっちゃうからね」

「経験値ってこのEXPってやつ?」

「あとその近くにRPってやつあるでしょ?それも」

 セイラが見ているのは自分のステータス画面。

 HPバーの下にMPバー、さらにその下にEXPバーがある。その下にはずらっと五つのステータスの数字が並んでいて、その横にRPと書かれた横に数字の0が付いている。

「EXPがレベルにかかわる経験値。Experience、そのまんまだね。これがMAXになるとレベルが上がるのはセイラちゃんもなんとなくわかるでしょ?」

「うん」

 姉ことイリアと森を歩きながら説明を聞く。

 イリアは妹に大好きなゲームのことを教えられるのが楽しいのか、随分とご機嫌だ。今にもスキップをしそうな勢いで歩いている。

「RPはReminder Pointの略で、まあ自由度の高いポイントって思えばいいかな」

「自由度の高い?」

「そう。セイラちゃんはあんまりゲームやらないから知らないかもしれないけど、普通こういうゲームって職業みたいなのがあるの。剣士とか、魔法使いとか。RPG、Role-playing Gameだね」

「その職業があるとなんか変わるの?」

「例えば魔法使いはわかりやすいけど、魔法に関するステータスが上がりやすくなって、逆に近接戦闘系のステータスが上がりにくくなる、みたいなのがあるんだよ」

「へえ」

 一般的なRPGゲームは職業やクラスと言ったものが何かしらあるものである。それによってステータスの方向性が左右され、あるいは有利不利の相性まで決まってしまう。

 セイラのRPGの知識は所詮伝聞。意外と基本的な話や一般的な話は抜けていることばかりだ。

「で、その職業の代わりに『Nine Worlds』に独自に導入されているのがRP。RPは色んな用途に使えて、一つはステータスに振ることができる」

「ステータスに?」

「そう。ステータスに振ると振ったポイント分だけレベルアップ時にステータスが伸びやすくなるんだよ。計算式があって、そこにステータスに振ったRPをレベルに掛けたり割ったりすると今のステータスになるって感じ。自分の目指したいプレイによってこのRPをどのステータスに振るかはすごく重要なんだよ」

 経験のないセイラにもなんとなくわかる。

 見たことあるステータスがHP、MP、そしてよくわからない五つのステータス、合計七つにポイントを振り分けることでステータスが変わる。

 これはその人によってまったく独自のステータスになる、ということだ。職業よりもさらに個人間のステータスの差別化が図られることになる。

「で、二つ目がスキルと魔法。指定のRPを費やすとそのスキルや魔法を覚えることができるの。どんな条件をクリアしてもこのRPを支払わなきゃスキルも魔法も習得できないんだよ。極一部例外はあるけど、それ以外はRPなしじゃスキルも魔法も覚えられない」

「ていうことは完全にその人によってステータスとか覚えるスキルや魔法が変わるってこと?」

「その通り!同じステータスの人なんて故意に真似してない限りはいないんだよ!」

 それは楽しみの幅が増えると同時に、自分の選択が自分の責任になるということだ。

 自由度の高いポイントとイリアは言った。その通りだ。RPの振り方はすべて自分に跳ね返る。

 内心、ちょっと重い。楽しそうだけど、たまの暇つぶしに気軽にやるゲームではないように思う。

「参考までにお姉ちゃんはどんな振り方してるの?」

「お姉ちゃんは防御特化!前を張っていろんな攻撃を受け止める役割だよ!」

「そんなちっちゃいのに?」

「お姉ちゃんは逆張りオタクなのです」

 セイラはこのときゲームの本質を理解したのだ。このゲーム、すぐに飽きるか沼に嵌るかのどちらかだと。


  ***


「さて、次は戦闘の話だね。セイラちゃんゲームのステータスどこまでわかる?」

 セイラは自分のステータスを見る。

 HP、MP、そして今教えてもらったEXP、RPはなんとなくわかる。しかし他の五つのステータスはよくわからない。

「HP、MP、あとはさっき教えてもらった経験値関係かな。私の知るのと違わないならHPとMPは大丈夫」

「うん。HPはHit Point、体力。0になったらさっきの神殿送り。MPはMagic Point、魔法を使うときに使用するポイントだね。魔法を戦闘に使わないなら上げる必要はないけど、セイラちゃんは支援型だから間違いなく必要だよ」

「お姉ちゃんは?」

「お姉ちゃんはMPにはRPを振ってないって言ったらわかる?」

「魔法を使わないってこと?」

「その通り!」

 イリアは防御特化、その役割は前線に出て敵のヘイトを買うタンクの役割だ。

 魔法はとある使用上、最前線を張る役割には使いづらい。そのためイリアはRPによって魔法を一切取得しておらず、よってMPも必要ないというわけだ。

「一応対策側として魔法の知識はあるから教えられるけど、それなりに強くなってからはちゃんとした人に教えてもらうか攻略サイト見るかした方が早いかなあ」

「まあ、それは後で考えるよ。お姉ちゃんと一緒にできるときにしかログインしない可能性もあるし」

「それはない!このゲームは一度やったら嵌る――いや、沼るからね!」

 姉の異常なまでのこのゲームへの信頼はなんだろうかとセイラは苦笑いを浮かべつつ、自分のステータス画面に目を戻す。

「それでこのATKはAttack?」

「お、セイラちゃん頭いい。正解!」

 さすがのセイラもRPGをあまり知らないとは言えRPGに使うステータスでATKまで示されているなら「アタック」であることはわかった。

 しかし残りの他のステータスは、あまり確信が持てない。ただ、伝え聞くRPGよりステータスの数が少ないとは感じる。

「『Nine Worlds』は初心者もわかりやすいようにわかりやすい7つのステータスしかないのが特徴なんだよ。それがHP、MP,ATK、DEF、INT、MDF、AGIの7つ」

 姉の言った通りのステータスがセイラにもある。

 今のセイラのステータスはどれも二桁で、DEFとMDF、それにINTのところに括弧書きでプラス表示がされている。

「ATKはセイラちゃんの言う通りAttack、物理攻撃とかの魔法攻撃以外の攻撃にかかわるステータス。DEFはDefenseで魔法攻撃以外のダメージを軽減するステータス。INTはIntelligence、魔法攻撃にかかわるステータスで、MDFはMagic Defenseで魔法防御に関するステータス。AGIはAgility、素早さに関するステータスだね。隣の括弧は装備とかバフによってプラスになるステータス」

「あれ、割と簡単っぽい」

「うん。他のゲームだともっと違うステータスが使われてて、器用とか運とかあるんだけど、このゲームは初心者にはありがたいステータスだね」

 物理攻撃、物理防御、魔法攻撃、魔法防御、素早さ。

 日本語に置き換えたらすべてわかりやすくなる。数も少なく、これなら初心者のセイラでも覚えやすい。

「セイラちゃんの場合は援護系だからMPは必須だね。後衛だから少し防御方面は手薄くてもいい。AGIもあんまいらないかな。ATKに関しては0でもいいくらいだけど、セイラちゃんは剣とかも振ってみたい?」

 うう~ん、とセイラは頭を悩ませる。

 視野が狭くなる前衛はあまりしたくないというのはサポーターを選んだときから変わらない気持ちだ。

 しかしどうせやるならいろいろやってみたというのもある。強くなることは目指していないのだし、効率のいいステータス配分なんて別にする必要もない。

「剣を振るかはわからないけど、物理攻撃とかもしてみたいかも。効率のいい配分はあんまり考えなくていいよ」

「ガチ勢的にはもやもやするけど、セイラちゃんがそれでいいならいいかな。一番はゲームを楽しむことだしね!」

 ガチ勢のイリアだがセイラのやり方を否定はしない。ゲーム廃人と言っても、それを押し付けるような愚は犯さないのである。

 なんとも姉らしいなと思い、セイラは小さく笑った。


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