かさねる
浅海澄
かさねる
室内で甘く香る、嗅ぎ慣れたシャンプーの香りはいつもよりも強く感じる。
薄暗い部屋の中、男女が二人。それが何を示しているのか想像することはさほど難しくない。
するのか…?好きでもない、昔の知り合いと?
心拍数は高まり、ひょっとすると耳でも聞えるのではないのだろうか。
二人分の体重が掛かったベッドは深く沈む。
隣に座ったら、始まってしまうのか。そんな期待と不安を抱えながら華紗音の横に腰を掛ける。
シャンプーの香りは一段と強まった。彼女が動くたびに、髪を伝って、風に乗り鼻に届く。
私は為すがまま、華紗音の言葉に耳を傾けた。
ああ。まるで今から捕食される草食動物のようだ。
「…しぃ、よっか」
普段彼女から発せられるはっきりとした言葉は紡がれず、たどたどしいセリフにさらに心拍数が上がる。
あまりの緊張からか言葉が出てこない。何か言葉を発しないと…本当に…。
「…やさしくして」
半音上がった声色を聞いた彼女はニマリと淫靡に舌で唇を舐めまわすと、私をベッドの上に押し倒した。私を見下ろす彼女の瞳は私の瞳だけを見つめる。照明が彼女の身体で隠れて、彼女の表情は獲物を追い詰めた肉食動物のようだ。
「…ああっ」
「大丈夫リードするから」
「本当にするの、か」
「怖い?私に全てを預ければ、気持ちよくなれるから」
耳元で発せられる言葉の一つ一つが蕩けて脳に届く。
シャボン玉のように浮かんでは弾け、感覚を麻痺させてゆく。
限界を突破した心拍数で自分が何か別物にさせられる感覚を悟った。
唇に華紗音の吐息が届き、しばらくして柔らかい感覚が蓋をした。
「んっ…く」
「んむ…」
「んちゅ…」
華紗音との熱い
快楽は次から次に脳と身体の自由を奪ってゆく。
あーあ。奪われちゃった…。
かさねる 浅海澄 @librarian-A9
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