秋人編 第三話
「なんだ、こりゃあ...」
絶句するしかない。言葉も出ない。
異能が現れ、自然法則も何もありゃしない世界に変わった今でも。
それでも言葉にできない。それでも現実を疑う。それでも気持ちが悪い。
そんな景色だった。
それは、足元から2、3歩先から広がる紫の世界。
射程範囲外だったのか、森の中のなんの変哲もないところから広がっていた紫に輝く結晶の山。
それをあんぐり口を開けながら眺める刀を下げた中年の男..
丁度一日前程になんの変哲もない町が突然アメジストに包まれたらしいから調査してきてくれと言われ、最初こそ「アメジスト使いかなんかの[暴走]だろう」っておもっていたが...「計画」の礎になるだろう。と無理矢理行かされ今に至る。
...さっきはアメジストの山だと思っていた。だが...これは...
「アメジストなんて安いものじゃない...こいつはまるで...生きているようだ」
と、言うように、紫に光る巨大な結晶はまるで鼓動するように光っており、それには宝石の「綺麗」だなんて感想よりも「気味が悪い」のほうが何倍も似合っていた。
近くにあった身長大の水晶に恐る恐る触れてみる。
――もし、これが異能によって作られた物ならば...
...が、何もない。
触って見た感触、それは冷たいただの石で、怪しげな光とその鼓動がなければ、なんの変哲もない――何の変哲もないは違うが、そんな石だ。
――じゃあ、これは一体何なんだろうか...?
能力によって生み出される物というのは殆ど自然に存在するもである。自然法則もなにもない滅茶苦茶な異能ではあるが、それなり法則はあるのだ。
だが...だからといってこれがアメジストには全く視えない。これをアメジストだというやつは眼科へ直行か本当におつむが足りないかのどちらかだ。
...まぁ、うだうだ言っていても仕方がない。
取り敢えず、異能の[暴走]であることに変わりはないだろうから、その[暴走]した主を探さなきゃな。――死体でも
鬼月は足元に気をつけながら紫に染まった空間を進む。
「生存者は...まぁ絶望的か」
見渡す限りの紫。
どんな生成のされ方をしたかは知らないが、これほどの規模だ。逃げれるはずもない。
しかし――死体がない。
(逃げれるほどだったのか?しかし―難民の情報もないし、外にそんな痕跡はなかった...街の中でなにか逃れる術があったのか?それとも――)
――死体諸共消滅したか。
実際、あり得ない話ではない。紫に妖しく光るこの石も未知数だし、たとえ[暴走]だったとしても、これほどの規模は稀だ。
(何はともあれ、探索を続けるしかなさそうだな...)
そうして一時間程歩き、探索を続けたが、どこもかしこも紫の石に犯された建物ばかり。なんの進展もなかった。
「だめかもな...そろそろ切り上げるべきか...?」
その時。ふと、一本周りとは一回りも二周りも大きい水晶が視界に入る。
その大きさは、鬼月の身長で表しても優に3人は入るだろうし、わかりやすく言うなら三階建てくらいの豪邸と同じくらいの高さだろう。
俺はなんとなく、この水晶の奥になにかがあるように感じた。
いわば、要所を護る為立ちはばかる敵将のような、そんな存在に視えたのだ。
確証はない。
だが、これまで文字通り針の道を通ってきたんだ。正直もう藁にも縋る思いだった。
鬼月は腰にずっと下げていた刀を抜く。
その刀は
刀の銘は『暁』。
鬼月はゆっくり『暁』を構えるとそのまま大ぶりに水晶を切った。
あからさまに刀身の長さと水晶の大きさは合っていない。だが、たった一太刀で水晶はものの見事、真っ二つに成った。
切り離され、音も立てずゆっくり崩れてゆく水晶を眺めながら刀を鞘にしまう。
邪魔な水晶が切られ、開けた視界の奥には不自然に水晶が途切れている空間が存在していた。
「なんだ、ここは...?」
慎重に空間に足を踏み入れ、あたりを見渡す。
あたりにはこんな惨状になる前のものがかなり残っており、そこには倉庫のような灰色の建物(と、言っても半分ぐらい水晶に破壊されてるから推測でしかないが)があった。さらに建物の間には人が一人倒れていた。
(人間だ...よな?)
第一村人発見!!...と喜びたい所だが、此処まで歩いてもずっと死体にすら見なかったことから、正直人間かも信じられない。
――しかし、だ。
逆に言えば此処で唯一の人間。この現象の元凶かもしれない...
倒れてた人間に慎重に近づき、観察してみた。
遠目で見たときからなんだか不思議だな...とは思ってはいたが。
その人間は...その子は中学生くらいの子供で、仰向けに倒れていた。ただ此処で生きていたというだけでも異色だが、何より特異なのがその髪の毛だった。
まるで頭から石灰でも被ったかのような髪をしていて、あからさま怪しい雰囲気を醸し出していた。
一応、血筋等による地毛という線もないわけではないが、ただ俺のカンがその只ではない何かを感じているのだ。
「兎にも角にも、起こしてみるか」
倒れてる少年は特に外傷は見当たらない。少し乱暴しても問題はなさそうだ。
こういうときは――
鬼月は少年の胸ぐらをつかんで持ち上げる。
叩き起こすのが一番!!
そのまま腕をおおきく振りかぶって、少年の右頬に強いビンタを御見舞する。
バチン!!!と、とても気持ちのいい音と共に少年の頬によもやビンタとは思えない衝撃が走る。
あまりの勢いに胸ぐらをつかんでいた手が離れてしまい、少年はいい感じに吹き飛ぶ。
(...流石にやりすぎたかもしれない)
心のなかで少し反省しつつ、吹き飛ばした少年を覗きに行く。
が、除く暇もなく、少年はガバリと起き上がった。...右頬を抑えながら。
「痛い...此処は...?」
「ああ、おきたか」
鬼月は起きて一言目が「痛い」なのに対して少し申し訳ないと思いつつ声をかける。
少年は声をかけた鬼月に気づくと、ゆっくりとこちらを覗く。
「あなたは...?此処は...」
そう言ってこちらを覗いた少年の右の瞳は凄く異色な色をしていた。
その右目はどこまでも白かった。どんな物語でも、どんな漫画でも見たことがない、語られたことがない、白。
瞳孔の存在は一応確認できたが、ぱっと見ではわからない。そんな、真っ白。
少年の目は白と黒のオッドアイというまるで見たことのない目をしていたのだ。
鬼月はその目に魅入られ眺めていると、少年はこちらをゆっくり観察してくる。
そして、少年の目が刀に向いた瞬間...少年はカッと目を開くと、後ずさる。
「あ、貴方誰ですか!!!」
「あ、すまんな。怖がらせたか」
やはりやりすぎたかもしれない。少年は起きて直ぐ暴行を加えてきた人間に怯えきっている。
「すまんな、お前を起こすために少し乱暴な手をつかっただけで」
「あ、ああ、そうか...いや、それはそうと此処は...?」
そう言うと少年は周りをゆっくり見渡す。
「俺は...そうだ、
何を思い出したか少年はまた思いっきり周りを見渡す。
そして、また頭を抱えてへたりこんだ。
「俺は...何が起きたんだ?」
「...なんか思い出したのか?」
「...俺は、異能で...石を出そうと...そしたら突然光って...」
「成程。やはり案の定『暴走』か」
「『暴走』...?」
「ああ、そうだ。暴走。『覚醒』とも言うんだがな」
「異能というのは、異血とも言うように血の突然変異だ。ある日突然血が変異して不思議と異能が使えるようになるってのが異能の仕組みだ」
「しかしその時、血の突然変異の規模が通常より進んだり、その量が多かったりすると『暴走』といって、異能が自分の意思や想像以上に発動され、大きな災害をもたらす」
災害という言葉に少年はハッとする。
「まさか...災害ってのは、この有り様が...?」
そう言って少年は空間を囲んでる水晶を指差す
「話を聞く限り、そうだろうな」
「そんな...うそだ...」
「この様子じゃ学校は...ほぼ崩壊状態ですか...中にいた人は...もう...?」
鬼月は悩んだ。
学校は最早跡形も残っておらず、学校一つの規模ではなく、街一つの規模である、と伝えるべきか。
,...しかし、黙っていても、いずれバレる。いずれ気づく、か。
「...最早学校どころの話じゃない。お前の異能の『暴走』で街一つ、この水晶に飲まれていた」
「...っ!!」
「じゃ、じゃあ、街の人は...!!!」
「わからない。しかし、街には最早人の形跡はもう残っていなかった」
「あ、ああ...どうして...?俺は、ただこの力を...異能を望んだだけなのに...なんで...」
少年は頭を抱えうずくまってしまう。
鬼月は――俺はただそれを眺めるしかなかった。
なんとフォローしようと、やってしまったのは彼だ。たとえ彼の異能が彼の医師に反して暴走し、起こした事象だとしても、それは、結局は彼の力なのだ。
「...『暴走』は異能の『覚醒』とも言われる、といったな。それがどうしてそうとも言われるかと言うとな」
「『暴走』を経験した異能者はその災害の、破壊の対価に大きな力を得る」
「それは、元々の異能の大幅な強化。『暴走』を経験した異能は最早元々の異能に似た別の異能といってもいいほどの強化を受ける」
「お前の能力は、何だったんだ?」
「...願ったものに姿形を変える石を出す力。そこらにできてる巨大な石ですよ...」
「ほう。それなら、どんな力に成り代わっているかね」
少年は再び黙り込む。
まぁ、無理もない話だ...仕方がないのかもしれないな...
これからどうするか。少年の想いをどうにかしないと話は進まないな...
そう長考しているときだった。
「これは...!!」
「!?」
突然後ろから声がする。
声の方を向いてみると、そこには刀や剣等の、時代錯誤の武器を持ったスーツ姿の男女3人ほど立っていた。胸には「対異」と書かれたバッチもついている。
(コイツら...異能対策科か!!)
どうやら長居しすぎたかもしれない。
異能者対策戦闘隊。彼らはそう呼ばれる人間で、異能者をよく思わない組織が立ち上げた、対異能者の戦闘部隊。
どうやら、もう此処の有り様を嗅ぎつけて来たらしい。
三人のリーダー格の面をしてる大太刀を背負った先頭の女が、うずくまり、頭を抱えた少年を見ると、その異色な髪や瞳を見た瞬間、武器を抜いた。
「おおっと、そうは問屋がおろさないぞ?」
女が何をするか、最早説明も不要だろう。
俺は腰の刀に手をかけると女を止める。
「...貴方も異能者ですか?」
「いいや、俺はただの人間だ」
「じゃあ何故邪魔をするのですか?邪魔をするなら貴方も加担者として、斬り伏せますよ」
「...言っておきますが、後ろの二人もただの雑兵ではありませんよ」
「脅しかい。まぁいいけどね、俺は。ま、俺も俺でこいつに用があるんだ。殺されたら都合が悪い」
「...そうですか、残念です。罪のない人間を切る趣味はないのですが」
女が軽く指示を出すと、後ろの男もそれぞれ刀とメイスを抜いた。
「妨害行為で死んでもらいます。謝るなら今ですよ」
「その言葉、そのまま返させてもらうがな」
そう言うと、鬼月は腰に下げていた鬼の面を顔につける。
「っふ...まやかしですね」
女は大太刀をまるで重を感じないように素早く振ってくる。
それに対し鬼月は「暁」を抜き、攻撃を受ける姿勢を取る。
そんな鬼月に女は勝利を既に確信していた。
それこそ、怪しい妖刀のような剣に警戒はするが、この大太刀の大ぶりを刀一本で防げるわけがない。刀ごと吹き飛ばし、そのまま切ってやろう。
刀と大太刀がぶつかる瞬間。
女が想定していた結末とは、違う事が起こった。
その瞬間、女が持っていた大太刀が弾き飛ばされたのである。
「何っ!?!?」
力の差は歴然。それなのに何故!?!?
女がそう思った時にはもう、思考能力も何もかもがなくなっていた。
鬼月は飛んできた返り血を避けもせず、なんならわざと浴びるように受けた。
「!!!」
それをみた男二人も、鬼月に飛びかかってくる。
しかし、そのまま女と同じように男たちは猛攻しく、鬼月に軽くあしらわれ、そのまま斬り伏せられた。
「...なーにが腕が立つだ。ヤケクソの特攻しかしてこないじゃないか」
それがハッタリだったか、もしくはただそれが発揮できなかっただけか。最早それを知る手立ては此処にはない。
鬼月は血を浴びた鬼の面を外すと、いつの間にか再び気を失っていた少年をみやった。
「仕方がない。持って変えるか」
もう此処が嗅ぎつかれたのだ。いつ次が来るかもわからない。
仕方がないので鬼月は気を失った少年を連れて変えることにした。
To Be Continued――
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