第3話 忍び寄る影

「おーい、イチ」

 

 風呂場から一之介を呼ぶ声がする。


「どうしたの? 何か忘れ物」

「下に誰かいるみたいなんだ。風呂の窓から話し声が聞こえてくる。ちょっと見て来てくれ。俺もすぐ行くから、木刀忘れんなよ」


 遼平はバスタオルで体を拭きながら言った。


「うん」


 一之介は木刀を握り締めて階段を駆け下りた。

 ちょうど男子3人がフェンスの手前にいて、それを乗り越えようとしていた。


「何してる。不法侵入だぞ」


 遼平が顔を見せると3人ともたじろいでいる。

 騒ぎを聞きつけたルナが、


「あっ、田辺君」

「知ってるのか?」

「ルナのクラスの男子」


 田辺たちは頭を下げた。


「目的は何だ?」


 田辺が消え入るような声でゴニョゴニョ言っている。


「えっ、何て?」


 一之介が小さな声で通訳する。


「はあ? こんなメリハリのないボディを見たいのか」

「何よ、それルナのこと?」


 レイとオトも騒ぎに気付いて2階の部屋の前から見下ろしている。


「何かあった?」


 遼平がルナにうまく取り繕えと小声で言う。


「学校の友だち」

「もう遅いから帰ってもらいなさい」

「はーい」


 門扉を開け、ルナは早く行ってと犬を追い払う仕草をした。


「オトも早く入りなさい。風邪をひくわよ」


 ヘックション。


「兄ちゃんも頭乾かさないと風邪ひくよ」

「そういえば警報機鳴らなかったな」

「あっ、この間、誤作動で鳴りっぱなしでうるさかったからスイッチを切ったままだった」

「スイッチってどこにあるんだ」


 クッシュン。


「兄ちゃん、もう一回シャワーで体温めたら。僕がやっておくから」


 ウイックション。


 遼平はくしゃみで一之介に返事した。





 翌日、ヨッシーが訪ねて来た。

 部屋の中から、門扉のロックを解除して下に降りようとしたら、ヨッシーとオトが話をしていた。

 急に血相を変えたヨッシーが駆け出した。


「だめ、ヨッシー、待って」


 階段を駆け下り後を追うルナ。あと2段というところだった。


「痛い、ヨッシー、痛いよう」


 門の扉に手をかけていたヨッシーが振り向いた。


「いたあい、階段から落ちちゃった」

「ルナちゃん、大丈夫? 病院行く?」

「そこまでじゃない。ちょっと擦りむいただけ」


 ルナの膝小僧から血が滲んでいた。

 おぶってしてくれるというのを断って、ヨッシーの肩を借りて2階の階段を上がった。

 その様子をオトは無言で見つめていた。


 ヨッシーは部活に行くのも忘れて、ルナに甲斐甲斐しく付き添った。

 冷蔵庫にジュースを取りに行ったり、ティッシュペーパーを取りに行ったりと忙しい。








 







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