第2話 牛丼

「あっ、紅生姜入ってない。お兄ちゃん、お店の人に言うの忘れたでしょ」

「あれっ、入ってないか」

「ごはん半分、お兄ちゃんのに移したらいいの?」


 遼平は慌てて茶碗を取りに行く。


「ルナちょっと待て、これに入れてくれ。そんなつゆだく、よく食べられるな」

「えっ、美味しいのに。ぶぶかけみたいで」


 一之介はそんな二人をニコニコと眺めていた。

 

「イチ、どうした?」

「早く食べないとお兄ちゃんに食べられちゃうよ」


 ルナは立ち上がって、冷蔵庫の中をあさり始めた。


「ルナ、何探してるの?」

「お漬物。遼平兄ちゃんが生姜忘れたから」

「それなら真ん中の段の左端」

「あったー、すごいな、イチ兄ちゃん記憶力いい」


 大騒ぎをして昼食をとっているところに、顔なしとモンキーが現れた。


「おお、青少年諸君、貧しい食生活に終わりを告げようじゃないか。晩飯はもつ鍋を食いに行こう」

「もつ鍋? 食べたことない」

「それならいい機会だ。社会見学といこう」


 どうしたんだろう、珍しいな。声を潜める遼平に、一之介が4名以上でないと予約出来ない店なんじゃない、とこれも声を潜めた。


「ピンポーン、ご名答。さすが名探偵一之介」

「オトちゃんたちは行かないの?」

「オトのレッスンが終わったら、出かけるらしい。最近よく3人で外出している」

「ふーん」


 どんぶりコロコロどんぶりこ🎵


 ルナが突然歌いだして、発砲スチロールの白い容器を両手で回しだした。


「ああ、食べるの飽きたんだな」

「でも、上の具は全部食べたよ」

「えらい、えらい。晩飯はもつ鍋にありつけるから、腹を減らしとけ」

「それまでにお腹空くかな」

 

 木刀を引っ張り出してきた遼平が、


「ルナ、下に降りて素振りするぞ」

「え~、パパは女の子が痣だらけになったら痛々しいからやめてくれって言ってたよ」

「そこまではしない。竹刀しないだけに」


 遼平は一人でうけクスリと笑った。


「わあ、持ち上げるだけで大変」

「ルナ、体力なさすぎ。本ばっか読んでいるからだ」

「お兄ちゃん、隙あり」


 ルナは遼平の脇腹を切る真似をした。


「だからそういうことは、やらないの」


 調子に乗ったルナはもう一度、遼平を切る真似をした。


「えいっ」

「兄ちゃん、本気出してもいいのか?」


 遼平に木刀の先で小突かれたルナは悲鳴をあげた。


「きゃー、ごめんなさい。もうしません。大五郎はまだ3つなんだよ」

「何の話だよ」


 しとしとぴっちゃん、しとぴっちゃん、しとぴっちゃん🎵


 目に涙をため歌い始めたルナに素振りをさせるのを諦めた遼平だった。


「ちゃん」

「ちゃんじゃない、兄ちゃんだ」

 







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