第16話 矛と盾と防御魔法と無力化魔法
「シリウス様が大鎌を投げてきたので、てっきり狩られるんだと思いました」
「狩られなくて良かったな」
「はい、本当に」
私が木から落ちた瞬間に、シリウス様が大鎌を私の下に投げてベッドの骨組みに変形させその上に葉を敷き詰めた、というのが先程の出来事だったらしい。
どうして地面に葉を山盛りにするだけではなく、わざわざベッドを作ったのかは謎だが、シリウス様のやることにいちいち疑問を持っていたらキリが無いことは何となく分かってきた。
「シリウス様は無詠唱で魔法が使えるんですね。魔法陣も無しに」
「この程度の魔法なら可能だ」
大鎌をベッドの骨組みに変えてその上に葉を敷き詰めることが「この程度」なのだろうか。
魔法についての知識はほぼ無いが、さっきの魔法が「この程度」では無いことくらいは私でも分かる。
「もし防御魔法の腕輪が発動していたら、どうなっていたのですか?」
「そういえば腕輪を渡していたな。忘れていた」
忘れていたって、渡されたのは数時間前なのに。
私は腕に付けた二本の腕輪を眺めた。
「腕輪と言えば、気になっていたんですが」
物のついでで、疑問に思っていたことを聞いてみることにした。
「これ、片方は防御魔法の掛かった腕輪で、片方は魔法を無力化する腕輪なんですよね?」
「その通りだ」
「魔法の掛かった腕輪と魔法を無力化する腕輪を同時に付けたら、おかしなことになりません? こういうのなんて言うんでしたっけ。矛盾?」
防御魔法と無力化魔法は同時に存在することは出来ないはずだ。
魔法を“掛ける”と“消す”は対極のはずだから。
私には魔法の原理は分からないが、おかしいことだけは分かる。
「そこに気付くとは、勉強の成果が出ているようだな」
私の発言にシリウス様はご満悦の様子だった。
「馬鹿にしないでください。勉強をしなくても、二本の腕輪がおかしいことくらい分かります」
帝国の歴史を知らなくても、社交界のマナーを知らなくても、その程度の知恵はあるつもりだ。
シリウス様は、そなたを馬鹿にしているわけではない、と軽くフォローを入れてから二本の腕輪の謎を明かしてくれた。
「実はその腕輪には仕掛けがある。無力化の腕輪には森の幻惑魔法を無力化する強さの魔法が掛けられている。そして防御魔法の腕輪には無力化魔法を上回る強さの魔法が掛けられている。同時に発動した場合、無力化魔法で打ち消せなかった分の防御魔法が効果を発揮する」
「それって、仕掛けと言うか……力業ですよね?」
仕掛けも何も、単純な魔法の強さの話だった。
幻惑魔法より強い無力化魔法が勝つ、無力化魔法より強い防御魔法が勝つ。
「ふむ。『私をつかまえてごらんなさ~い、ウフフアハハ』には思わぬ収穫があったな。そなたには木登りの技能と、腕輪の矛盾に気付く知恵があることが分かった」
「私は懲り懲りです。人生で初めて腰が抜けました」
歩くことの出来なくなった私は、シリウス様に担がれて城へと運ばれている。
密着しているのは嬉しいが、どうしていつも俵担ぎなのだろう。
運んでもらっている分際でお姫様抱っこが良いなどと要望を出すわけにもいかず、私は心を俵にすることにした。
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