第3話 いざ死神の住む城へ
長時間狼車に揺られてうとうとし始めた頃、目的の城に到着した。
狼車から降りて見上げる城は、侯爵家とは比べ物にならないほどの大きさだった。ただし城の周りには蔦が絡まっていて、最初に受けるのは不気味な印象だけれど。
「ここが……」
死神さんが暮らす場所。
そして、これからは私も暮らす場所。
狼車を引いていた一匹の狼が、器用に城の門を開け中へ入って行った。私もその後に続く。
「すごい……!」
見れば見るほど立派な城だった。
蔦が絡まってさえいなければ、王族の暮らす城と言われても信じてしまいそうだ。
「開けるッスよ、クレア様」
狼の言葉に頷く。
さあ、鬼が出るか蛇が出るか……それ以上である死神が出てくることは確定しているのだが。
とにかく覚悟を決めるしかない。
クレア・クランドル、勇気の見せどきだ!
狼が扉をゆっくりと引いた。
そして扉が開くとともに、パーンと大きな音が鳴った。
大きな音に思わず瞑った目を開けると、目の前では色とりどりの光が花火のように舞っていた。
「ようこそ!」
「…………へ?」
「…………あれ?」
私は扉の前に立っていた男と目を見合わせて固まってしまった。
男は銀髪碧眼の細身で、若干顔色が悪いものの超絶美形と言っていい。どんな女性からも好かれる整った顔立ち……というか私の好みど真ん中ストライク。油断すると美の圧で鼻血が出そう。
そんな美しい男が、色とりどりの花火をバックに陽気な様子で両手を広げている。あまりにもアンバランスであり、私が硬直するには十分すぎる光景だった。
男も私の反応に驚いたのか固まっている。
「あの、これは一体どういう……」
「…………今のはナシで」
そう言って目の前の男は、急いで城の中へと引っ込んでしまった。
そして姿の代わりに慌てた声が聞こえてきた。
「どういうことだ。硬直したではないか」
「だから、そういう変な歓迎はやめてくださいと何度も申したではありませんか。陰気なシリウス様に陽気な歓迎なんて無理なんですよ」
「もっと強く止めないか。気まずいであろう」
「知りませんよ。それより玄関に立たせたままでいいのですか?」
しばらくして、先程の出来事を無かったものとしたのだろう済ました顔の男が再び現れた。
しかし耳まで真っ赤にしている。
「中に入るがいい」
「あ、はい。お邪魔します」
城に上がろうとした私は、自分の靴が血で汚れていることを思い出した。そして自身の膝を見る。時間が経ったため当初よりは血の量が減っているものの、狼車から降りて歩いたことにより、傷口からは新たな血が流れ出ていた。
「そなた、怪我をしているではないか」
「申し訳ございません。このまま城に上がっては血が付いてしまいます。何か拭くものを……」
頭を下げる私を無視して男が城の中にいた使用人に合図をすると、使用人はすぐに救急セットらしきものを持って来た。
救急セットを受け取った男は、中から水色の液体の入った瓶を取り出し、惜しげもなく私の両膝に液体を掛けた。
「わっ」
冷たいと思った次の瞬間、傷口がふわっと温かくなった。
何事かと膝を見ると、一瞬にして傷口が塞がっていた。
「他に怪我は?」
「両の手のひらにも怪我があるのです」
私の代わりにカラスの使用人が答えると、男はすぐさま私の両手にも先程の液体を掛けた。
膝と同じく手のひらの怪我もみるみるうちに消えていく。
傷が塞がると同時に痛みも消え失せていた。
「他に痛むところは」
「ありません」
「待て。鼻血が出ている」
「……うそ」
どうやら私は、男の美の圧に耐えられなかったようだ。
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