17 睡余の後の片言隻語 - 4 -

 ルアードは人間ではない。

 そう告げられた時、驚きというよりはだろうなという感想が先にあった。この世界では人間には魔力がなく魔法が使えないという事、それなのに使われた石術という魔法のようなもの。魔石ではないと言っていた、宝石を触媒にして精霊と交信するのだと。では竜人なのかと言えばそうではないという、人間でもなく竜人でもない。第三の人種が存在する事となる。

 アーネストは人間ではないと言ったものの詳しい説明は自分ではしにくいからと、武器屋の店主に二人で礼をして宿屋へと戻ってきていた。

 ……宿へと戻る道中のアーネスト話をまとめると、彼の村を襲った『赤の神』は赤の大陸を支配していた炎を司る竜人の事を指すのだという。『銀の神』が竜人達の頂点であり王であり、その下に赤、青、黄、緑と続く。皆一様に人とは違う色彩の髪と瞳をしているという、『銀の神』なら銀髪に銀の瞳、『赤の神』なら赤い髪に赤い瞳といったように。

「戻りました」

 宿の扉を開けると、からからと扉についた木製のドアベルが鳴る。奥から女将のおやおかえりという出迎えの声。そうして、朝出ていった時に座っていたカウンター席から動いていないルアードの姿。

「調子はどうでしょう」

「大分ましになったよお……」

 まだ若干顔色の悪いルアードではあったがひらひらと手を振って問題ないと告げる。他にもいた二日酔いの客達も回復したのか、ロビーのソファに座っていた冒険者達はまばらになっていた。よいしょ、軟体動物の様にカウンターの上で融けていたルアードがようやく体を起こす。

「アーネストどうだった? ちゃんとお使いできた?」

 まるで幼子に対するかのようにこちらへ問うてくる彼を、アーネストが馬鹿にするなと肘で小突く。あーまだ頭ふわふわすんだよお、泣き言を口にしながら再びぐんにゃりしている彼のその綺麗な金の髪、緑の瞳に自然と目が行った。一見どこにでもいるような人間と同じように見える。竜人は人とは明らかに違う色彩をしているという、けれど魔法もずば抜けているらしく、色彩を変える擬態能力も段違いだという。あれだけ派手な見た目をしているのに目撃情報が出にくいのは恐らく身を隠しているからだ、と。

「アーネストさんには大変良くしていただきました。衣服はこれからですが、一通り」

 腰に下げた長剣を見せれば、ルアードはにんまりと満足そうに笑った。

「よかったよ、じーさんは元気そうだった?」

「ええ、とても」

 思い出されるのは小柄な老店主。

 扱っている武器も確かだが、実に人の動きをよく見ている。まさか人間ではないと見破られるとは思わなかった。これからは少し、身の振りを考えるべきなのかもしれない。

「口悪いけど腕は確かなんだよね、俺も行く度にどやされてる」

「それはお前がちゃらんぽらんだからだろう」

 どこまでも興味なさそうにさっさとカウンター席に座ったアーネストがぼそりと口にする。何か注文するのだろう、メニュー片手にこちらを見向きもしない。

「アーネストだって毎回刃こぼれで叱られてんじゃん」

「俺は生活態度に文句を言われてない」

「お前はそれ以前の問題だろ。無口で不愛想な、」

 びたん、と白いものがルアードの顔に張り付いた。いつかの夜の様におしぼりが投げつけられている、ほかほかと湯気を立てるタオル、ぴい、ルアードのどこから出たのかやたらと可愛らしい声。

「うるさい」

「いやもうほんと手が早いったら……」

 眩暈でもするのか、ふらふらしながらルアードは顔に張り付いたおしぼりを取った。二日酔いという感覚はよく解らなかったが、頭痛や吐き気、眩暈が主な症状らしいとアーネストから聞いている。

「大丈夫ですか……?」

 未だ頬の白いルアードが心配になり、覗き込めばさらりと己の金の髪が流れ落ちた。髪紐が必要だった、そんなことを考えながらゆっくりと流れる己の髪を掻き上げればルアードの綺麗な緑の瞳とぶつかる。

「ま、まあいつものことなんで!」

 これくらいへーきへーきと声色を明るくしてはいるものの、ルアードは挙動不審に視線を彷徨わせた。そうしてテーブルの上に投げられたおしぼりを丁寧に広げ、畳みなおし、またいじいじと何やら弄っている。

「道を踏み外すんだわ」

「え?」

「いえ何こちらの話」

 なんでもないよと言葉を濁しながら、女将がほれ、と出してくれたコップに入った水を飲み干している。いつまでも側に立っているのも気が引けたので自分もルアードの隣の席に座った。

 人はまばらで、暖かな日差しが窓から差し込んできていた。奥からはいい匂い、軽やかな音。生活音とその時時で変わるキッチンの香りは不思議と心躍る。人間の生きている光景。

 ぱたぱたと階段を下りる音がして、目をやれば柔らかな栗色の髪をしたリリーがいた。

「あ、ヨシュアさん、アーネストさん、おかえりなさい」

 にこにこと上機嫌である。

 何かいい事でもあったのだろうか。

「あんたもう休憩はいいのかい」

「はい!」

 満面の笑みで女将に返事をするリリーは、さくさくとカウンター奥へと進むと白いエプロンをつけていた。仕事を再開するらしい。かわいいねぇ、ルアードがその様子をじっと目で追っている。

「ああそうだ、」

 はいよ、とどんと女将がアーネストの前に置かれた大盛のミートパスタを前に、ふと思い出したかのように突然アーネストはぽつんと呟いた。呟きはしたものの手の動きは止まらない、銀色のフォークを無遠慮に皿の中に入れ、くるくると回しながら、本当に。なんでもないかのように。

「悪い。ばれた」

 一言である。

 臆面もなく飄々と口にした後、豪快に真っ赤な麺を口に運ぶ。

「……どれが?」

「俺の傷とお前の出自」

「全部じゃーん」

 口の端についたミートソースを親指で拭いつつもパスタから目を離さないアーネストに、ほらもう投げつけるからと甲斐甲斐しくルアードは丁寧に畳みなおしたおしぼりを返そうとするが。

「顔に張り付けたもの渡してくるとか……」

「誰のせいなんですかねぇ!」

 いらん、と手に取りもしない。受け取り拒否されたそれを、ルアードはやや声を荒げながらもひっこめていた。そうしてテーブルの上で再びなにやら形作り始める、器用に指先が踊り、三角へと畳まれていたそれが最終的に兎の形となった。わ、と。思わず声を上げる。

「まあさ、俺の集落に戻るつもりだし。お二人さんにも知っててもらってもいいのかもね」

 ばれたというからには口外するつもりはなかったのだろうが、けれどアーネストがこちらに告げたのは全くの想定外というわけでもないらしい。へにゃへにゃ笑いながらルアードは驚いた様子も慌てたような様子もない。傷と出自、……ばれたというか、気にはなったのは確かに自分だったがあれは自らばらしたの間違いでは。ルアードが作ったおしぼりの兎をつつきながら、ちらとも思ったがヨシュアは黙っていた。

「俺は戻らんぞ」

「そういうわけにもいかないんですぅ」

 余程村に戻りたくないらしい、嫌だと言うアーネストにルアードはぷうと頬を膨らませる。ちらとそれを見た黒髪の青年はパスタを食べていた手を止め、実に不快に顔を歪めた。

「グロいからやめろ」

「グロいはひどくない!?」

 二日酔いの頭痛もどこへやら、流石にルアードは声を荒げた。

「いやだって、お前もいい歳だろう……はしたない」

「口の周り汚してるやつに言われたくないんだけど!」

 給仕として仕事場に戻ってきたリリーがくすくすと二人のやり取りを笑っていた。そうしてどうぞ、と新しいおしぼりをアーネストへと手渡す。ありがたく受け取った彼は丁寧に口元を拭う、白い布地にオレンジとも赤ともつかない色彩が移り、まるで血のようだと思った。

「ともかく! 俺らの部屋に集合! 出発の確認!」

「おい俺はまだ食べてる」

「んもぉ!」

 待っててやるわこの困ったちゃん! どこまでもマイペースなアーネストにルアードは文字通り頭を抱えて唸るように言った。誰が困ったちゃんだ、文句を言いつつも食べる手は止まらない。というか、本当によく食べる、感心するほどだ。

 こちらと視線が合ったルアードは困ったようにへにゃりと笑った。二日酔いも相まってか疲労の色が濃い。

「悪いんだけどさ、あとでルーシェルさんも呼んできてもらえるかなあ」

 ぐったりとしたルアードに了承するが、あの魔王が素直に来てくれるかどうかはなかなかに未知数であった。

 

   ※

 

 二階の奥まった先にある一室。窓からさんさんと光が入る渡り廊下の先は影になってほんのりと薄暗くなっている。日当たりの良くない小さな一人部屋を前にヨシュアは訪れていた。

 やや年季の入った木製の扉は柔らかな色彩をしている。

 とんとん、と。

 ルーシェルの泊っている部屋の扉を叩いた。

 しかし返ってきたのは沈黙である。しん、と何ら返答がない。

 もう一度叩いてみる、先程よりも少しだけ強く。人の気配はするのにやはり彼女は出てこない。

「ルーシェル、私です。ヨシュアです。出発について話し合いをしようとルアードさんが呼んでいます」

 そう扉の向こうへと語りかけると、ややあってほんの少しだけ開いた。覗く黒髪、じとりとした赤い瞳。だが顔の半分以上見えない。

「あの娘は」

「あの娘?」

「宿屋の……」

「……リリーさんの事ですか?」

 名を口にすれば、そこいるのか、と返ってきた。

 何を警戒しているのかと思ったら、人間の娘の有無を確認ときた。……自分がいない間、何かあったのかと身構えたが何のことはない。竜人という存在にやや傾倒しているようだが、心優しい人間の娘ではないか。なんだろう、悪魔は善人も苦痛なのだろうか。やはり知らない事ばかりである。

「彼女は一階でお仕事されていますよ」

「私が行く必要などないだろう」

 被せるように言われぴしゃんと扉を閉められた。ある意味想定通りである。

 悪魔は得てして単独行動を取りがちだ、上級悪魔に指示された下級悪魔も集団で動いている様子を見た事がない。孤高の王たる彼女からすれば行動を共にする事など、ましてや自分となど冗談ではないのだろう。それに、だ。

「……大丈夫です、ルアードさん達のお部屋は二人部屋で広いそうですし、薄暗くもないですよ」

「そんな事を心配しているのではない!」

 扉の向こうから聞こえる怒声。

 勝手に開けられないようにする為か扉の前にいるのがわかる、はっきりと聞こえる声は苛立ちにまみれている。

「現状の確認です。彼らの事もお話ししていただけるようですので是非」

「あいつらの事なぞどうでもいい」

 取り付く島もない。どうしたものだろう、無理に引きずり出すわけにもいかないしと考えていたらややあって、ほんの少しだけ扉が音もなく開く。そうしてにゅ、と出てくる細い腕。

「……貴様の持っている魔石を貸せ、私は行かん」

 ここに渡せと言いたいらしい。せめて出てくればいいものを。

 突き出されたのは色の白い細い腕だ、一度ルアードに平手を食らわせていたのでとっさに掴んだことがあったが、そこらの木の枝の方が太くないだろうか。ルーシェルは相変わらず滅多なことをでは食事をしない。食事を必要としない我々ではあるが、それにしても彼女はあまりにも細い。女将さんも女の子はちゃんと食べた方がいいと言う、身体をしっかり作らないと。いやに含みのある言い方ではあったが、当然のように言われた本人は何を意味しているかは解っていない。そういうものなのか、と納得したに過ぎなかった。

「やはり貴女は何か食べたほうがいいですよ」

「今そういう話をしていたか!?」

 突然怒声と共にばん、と扉が開く。

 わなわなと肩を震わせて、怒りに燃え上がる真紅の瞳はきらきらと。長い黒髪、白い肌、こちらを見上げる彼女とは頭一つ半は違うだろうか。ああほら、彼女はあまりに小柄で華奢だ。よく食べたほうが成長するのだと言う、言われてみればアーネストも背が高い。上背はともかくもう少し肉をつけたほうがいいのではないだろうか。

「木偶の棒よりかはマシだ……!」

「ですが、その体躯でしたらあの大鎌に振り回されるのでは?」

「ご心配感謝する、問題ないんでな……ッ」

「それは霊力が使えていた時でしょう? 今はもう少し重心を、」

「喧嘩を売ってるつもりならいつでも買うが?!」

 噛みつかんばかりに吼える彼女に、そんなつもりはないと告げようとして。

「なに? 痴話喧嘩?」

 第三者の声が飛んでくる。

 騒いでいたからだろう、宿泊客がちらちらとこちらを見ている。あれ昨夜の、とか、何をしたんだとか。怒ってる姿も美人だなあとか好き好きに飛んでくる言葉に昨夜のことが思い出されたのだろう、ルーシェルはもう顔を赤くしたり青くしたり忙しないことこの上ない。

「何だ、もう離婚の危機か?」

「嫁さん怒らせちゃ駄目じゃん」

 にやにやとなんとも形容しがたい表情で声を掛けられる。もうすっかり祝言を上げるイコール夫婦扱いである、いや言葉の上ならそうなのだけれども実態がこの状態なのだから正しくはないわけで。

「あ、いえ、そういうのではなくて」

 平手が飛んでくる前に訂正しようとするが、それよりも先にルーシェルが爆発した。

「〜〜〜行けばいいんだろう行けば!」

 向けられる視線や会話に耐えられなくなったらしい。

 ばたん、と大きな音を立てて一度部屋に戻ったかと思えば再び乱暴に出てくる、その手には彼女の上背よりも大きな黒い大鎌。名に聞くばかりのナハシュ・ザハヴ。怒り狂っているように見えて刃が扉に引っかからないように高さを見て出てくるあたり、意外と冷静なのかもしれない。

 苛立ちのまま冒険者達を蹴散らしながら、部屋はどこだと言うので案内する。ルーシェルはここに来てからほとんどを宛がわれた部屋で過ごしている、陽の光を苦手とし、しかし夜は一人で出歩くには危険である。少し、窮屈だったかもしれない。

「魔石!」

「解りましたって」

 持って来いという事だ。

 毛を逆立てた黒猫のようにこちらを威嚇する彼女に、ふ、と。笑みがこぼれた。癇癪を起こしてる様は幼子のようですらある。これがあの天にも地にも恐れられた魔王様だろうか。

「何を笑っている……ッ」

「いえ、少し待っててくださいね」

 ぎりぎりと睨みつけてくる彼女に一言告げ、自室へと一度戻る。テーブルの上に並べたままの増幅装置を一通り回収し、ルーシェルと共にルアード達の部屋へと訪れた。扉をノックすればどうぞーと軽い声。先に戻ってきていたらしい。

「ずいぶん賑やかだったねぇ」

 ここまで聞こえてきてたよと、ルアードがにこにこしていたがルーシェルが大鎌を持っていることに気付くとうん、と。口を引き結んだ。剥き出しの刃は触れずとも視覚的に原始的な恐怖を呼ぶからだろう、そう考えていたのに。

「女の子と巨大武器っていいよね」

 しみじみと呟かれた。どうやらこちらの思惑とは随分違うらしい。ルーシェルは完全に無視して二つあるベッドの出入り口側にどっかと座る、不機嫌さを隠しもしない彼女を尻目に丁寧に扉を閉めた。

 自分達が泊まっている一人部屋を二つ並べたような室内は、そこそこの広さがあるとはいえ大人四人では少し窮屈だった。テーブルが一つに椅子が二つ。ベッドが二つと鏡台が一つ。テーブル前の椅子に座ったルアードが地図を広げていた。窓際にはアーネストが腕を組んで壁に寄りかかっている。満腹になっただろうか、窓の外を見ながら穏やかな日差しを浴びていた。

「えっと。アーネストから聞いてる通り、これから向かうのは俺の故郷であるエルフの里なんだけど。お二人がいた森を抜けた先にあるんだよね」

 言いながらルアードは地図の上を指すので向かい合うように自分も椅子に腰かけた。地図に書かれている文字はまだよく読めなかったが、現在地がここね、と指された先には赤い丸が一つ。街のマークらしい、現在地から少し離れた場所に城のマーク。城から反対側を指先がなぞり、森の上を通り過ぎ、その先の何も書かれていない山を指さした。

「目的地はここ。うーん、一週間もかからないと思うけど」

「ここがエルフの里、ですか?」

 初めて聞く名前だった。

 エルフ、自分がいた世界には存在しない種。

 こちらの反応に何かしら感じとったのか、しばし目をしばたかせたルアードがアーネストに怪訝そうに問う。

「……俺がエルフだって言ったんだろ?」

「人間じゃないとしか」

「なんで?!」

 文字通り飛び上がった。蹴倒された椅子が派手な音を立てるがそれどころではないらしい。流石にルアードの様相に面食らったらしいアーネストだったが、いやだって、と。珍しく言葉を濁した。

「エルフってなんだと言われたら説明できん」

「嘘でしょ十五年一緒にいたのに!?」

 未だかつてない形相でルアードは叫んだ。

 信じられない! 叫びながら矛先が何故かこちらへと向かう。

「じゃあなに、ヨシュアさんも黙ってついてきたの? こんな中途半端な情報だけで?」

「せ、説明が難しいとおっしゃるので、それなら仕方がないのかなって」

「ば…………っ、素直にも程がある!」

 頭を抱えのけぞった。それはもう見事な反り返り。

「馬鹿と言おうとしたな今」

 ルーシェルの独り言のような呟きが転がり落ちる。ルアードは否定も訂正もしない。身体をこれでもかと言わんばかりに反らし、天を仰いだまま呻き声の様に嘆くその姿はいっそ懺悔のようですらあった。

「勿体ぶるようなことじゃないんだよ! ナニコレこの状態で俺説明するの!? 俺のことを?! 羞恥プレイもいいとこじゃん!」

「私にはさっぱりだがな」

「それはそう!」

 だって情報共有できてねーもん!

 最早絶叫である。

 綺麗な金の髪をこれでもかと言わんばかりに掻きむしり、ああもう! と。一際大きく叫んだかと思うと顔を上げてきっとこちらを見た。既に表情は半泣きである。

「俺は人間じゃなくてエルフ、森と共に生き表舞台に出ない種族! 人間寄りでも竜人寄りでもない! というかどちらとも関わらない! 人間と違い魔法使えます! 以上!」

 一息に言い切った。

「あと人間の三倍の寿命だろ」

「そこは覚えてんのね……」

 アーネストの忘れてるぞとばかりの発言にがっくりと肩を落とす。蹴倒した椅子をのろのろと戻し、人間ではなく魔法の使えるエルフという種族の青年は萎れた花の如くテーブルの上に突っ伏した。あまりの剣幕に気おされた此方をちらりと見上げる表情はいっそ絶望に近い。

「もうさ……何から喋ったらいい?」

 やさぐれた声色で、それでもなおも説明を続けようとする彼の気概に返す言葉もなかった。

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