10. ミルク味の約束

 一時間ほど回ったところで、空いている音楽室で休憩することとなった。

「この校舎、思ってたより広いんだね」

 予想以上に広かったため、見て回るだけでも疲れてしまった。日ごろ運動しないツケだろうか。

「うん。うちはね、生徒数は少ないけど、土地が安いから結構ゆとりのあるつくりになっているんだ。こういうところは、田舎の利点だよね」

 そういって控えめに笑う奏さん。一緒に校内を回っている時に気が付いたが、彼女の仕草一つ一つにおしとやかさを感じられる。まさに『理想のお嬢様』という感じだ。


「うちの学校はどうでしたか?やっぱり、前にいた学校とは違うかな?」

「そうだね。公立と私立の違いはあるけど、それ以上に凄さを感じたかな・・・」

 奏さんの質問に、苦笑いで返す。

 そう。なんでもこの学校は最近改装工事があったらしく、中はかなり近代的な構造となっていた。ガラス張りの食堂や、シャンデリアのような近代ヨーロッパを彷彿とさせる集会場などもあったから驚きだ。もはや学校というより、ちょっとしたテーマパークを回っていた気分だ。一体ここの理事長はどこに力を入れているのやら。


「あはは、やっぱりそうだよね。私も初めて見たときは驚いちゃったもん。でも、こんな素敵なところに通えるって思うと、すごく嬉しかったな」

「確かに。こんな学校なら退屈せずに楽しく過ごせるだろうな」

 前の学校は狭いうえに生徒数も多かったため、購買で買い物をするのも一苦労だし、どこに行っても人がおり落ち着ける場所は無かったかもしれない。その点、この環境ならのんびりのびのびと高校生活を満喫できそうだ。


「食堂とか、場所取り合戦にならないのはありがたいよ」

「あ、そこは安心し大丈夫だよ。競争率の高いメニュー以外は、まず混むことは無いだろうから・・・」

「何か人気のメニューとかあるの?」

「うん。島の牧場でとれた新鮮な牛乳で作ったジェラートがあるんだ。でもジェラートは入荷されても極わずかで、搬入されるタイミングもランダムなの。だから、運と食堂までのダッシュ力が必要なんだよ」

「なるほど・・・。でも、そんなに人気ならいつか食べてみたいな」

「だよね。でも、実は私も食べたことないんだ」

「え、そうなの?」

「うん。発売されるってことは事前に分かったこともあるんだけど、何より私は足が遅いからね・・・」

 そう言って苦笑いをする奏さん。そんな彼女の表情を見ていると、いてもたってもいられなくなってしまった。


「そっか。なら、俺が買えそうなら奏さんの分も買っておくよ」

「えっ、いいの?」

「ああ。奏さんにはお世話になりっぱなしだから、少しでもお礼させてほしいな」

「別に気にしなくていいよ!私がやりたくてやってることだから」

 奏さんが一瞬言いよどむ。

「でも・・・そうしてくれると、嬉しいな・・・なんて・・・」

 奏さんがそう言った瞬間、机に腰掛けた彼女を夕日が照らす。赤みがかった長髪が輝きを増し、その姿はとても美しく、思わず見とれてしまう程だ。

 ああもう、可愛すぎるだろ⁈そんな顔されたらより一層喜ばせたくなるじゃないか!


「? どうしたの?」

 優しい笑顔を向け、首を傾げた奏さんが問いかけてくる。

「あ、ああ、何でもない。期待しといてくれ」

「うん!」

 ふむ、これはますます頑張らねばだな。

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