5. 新しい高校へ
翌日。
島暮らし初めての朝、そして新しい高校生活初日を迎えた。
「ううーん。6時起きはやっぱキツイな」
布団の上で伸びをし、意識を無理やり覚醒させる。
今日は転校初日のため、早く登校して手続きをしなくてはいけない。制服はまだ届いておらず、前の高校は私服通学だったため、私服での登校となる。ただ、せっかくの転校初日だ。シャワーを浴びて気分を晴れやかにしておこう。
そうして普段は絶対にしないシャワーを浴び、身支度をする。そんなこんなしているとあっという間に時間となり、急いで菓子パンを食べ、家を出る。
外へ出ると、いつもより朝日が輝いて見えた。田舎の朝は、都会にいた頃よりすがすがしさを感じる。やはり空気が澄んでいるからだろうか、早朝特有のけだるさが全くない。そのせいか足取りも軽く、想定していたより早く着いてしまった。
ここが今日から通う、私立桜ケ丘高校だ。学校に続く一本道の坂の両端には、数百メートルにわたり桜の木が植えられている。新年度に咲き誇る桜並木は見るものすべてを圧倒し、島でも有名な花見スポットとなっているようだ。まさに今が桜萌ゆる最盛期であり、学校の名前にふさわしい景観となっている。
「天の川を背景に夜桜の撮影ってのもよさそうだな」
また天体写真を撮影したい場所が増えてしまった。一人感動している中、朝練中であろう学生が不思議そうに横切っていく。島の人からすれば見慣れた光景だろうが、俺みたいなよそから来た人間にとっては小さな感動の連続だ。
そんなことを考えながら校門をくぐり、校内へと足を運ぶ。物陰から俺を見つめる生徒がいたことに気付かずに。
「本当に・・・帰ってきたんだね。紡くん」
校舎に入りしばらく進むと、職員室が見えてくる。
「第一印象は大事だからな。真面目モードで行くか」
自身の中で気持ちの切り替えを行い、職員室の扉を開け中に入る。
「失礼します。空見先生はいらっしゃいますでしょうか?」
大きな声で元気よく声を出す。すると、窓際に座っていた一人の女性が振り向いた。
「はい、私が空見ですが・・・。あっ、もしかして星川君?」
そう言って、手にしていたコーヒーカップを置きこちらへやってくる。
「おはよう、時間通りね」
肩くらいまである栗色の髪を後ろでまとめたポニーテールがよく似合う女性だ。新人なのだろうか、顔には少し幼さが残っている気がする。
「電話でも話したけど改めて。私が1年間、あなたのクラスの担任になる空見です。よろしくお願いしますね」
見た目とは違いしっかりとした対応に少し感心する。
「あっ、今見た目の割にちゃんとしてるなと思ったでしょ⁈」
「えっ、いや、そんなことないですよぉ⤴」
思っていたことをズバリ的中され、動揺して変な声が出てしまった。
「ああー、やっぱりー!声が上ずってるもん。もうっ、みんなに可愛い可愛いってばっかり言われるから、大人な印象を与えておきたかったのにー!」
いや、その拗ねて頬を膨らます姿とかも影響してるんじゃないかと思ったり思わなかったり。
しかし、我ながら猫を被るのは得意だと思っていた。
都会では多くの人と接する半面、ひとりひとりとの関係性は薄く感じる。中学の頃は毎日遊ぶ仲だったのに、少し離れた高校に通い始めると一切音沙汰がなくなる、なんてこともよくある話だ。そのため、前の学校では猫を被り、当たり障りのない人間を演じていた。今回その仮面が一瞬で剥がされるなんて、この先生ただ物じゃないな、と感じた。
「まあ、いいわ。どうせ数日もすればバレちゃうんだから」
秒だったけどな。
「あ、今また失礼なこと考えたでしょ?」
「いえ、そんなことありませんよ(キリッ)」
うん。この人は要警戒リストに入れておこう・・・。
「はあ。いろいろ言いたいことがあるけど、時間もないしサクッと説明しちゃうわね」
その後、空見先生からこの学校について、規則や設備の説明があった。大まかなことは元の学校とは変わらなかったが、自然に囲まれた環境ならではの授業なんかもあるらしい。山に登ったり海に出たり、一見小学生の自然探索に思えるが、まだ見ぬ場所を散策できるのならこちらとしては大歓迎だ。
「一通りの説明は以上だけど、何か質問はあるかしら?」
「いえ、今のところは大丈夫です」
「わかったわ。生活する中で疑問は出てくるでしょうから、その時は気兼ねなく聞いてね」
「はい、ありがとうございます」
十分ほど話しただけだが、この人がすごい生徒思いなことが伝わった。子供っぽいといじられることもあるらしいが、それも生徒たちがこの先生のことを信頼し、認めている証拠なのだろう。
「あっ、そうそう。うちのクラスの委員長がもう教室にきているはずだから、その子に会ってみて。クラスになじめるように、軽くあなたのことを話しているの」
「わかりました。何から何までありがとうございます」
ほんと気の利く人だ。俺もこの人ほど気が利けば、少しはモテたりするのだろうか。そんなことを考えつつ先生に一礼し、俺は職員室を後にした。
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