4. はじめての夕食は

 日が傾き始めた頃、ようやく家についた。直線距離は大したことないと思っていたけど、島なので起伏が激しいため想像以上に時間がかかってしまった。

「今後は自転車やバイクが必需品になりそうだな」


 これから住む家は二階建の一軒家で、昔ながらの木造建築になっている。小さな庭には何本か木や植物が生えており、どこか趣を感じる。正直、高校生一人で二階建は大きすぎる気もするが大は小を兼ねるから問題ないだろう。

「おじゃましま~す」

 誰もいない家に向かって挨拶をし、中に入る。これからしばらくお世話になる家だ。返事はないとはわかっていても、最初くらいきちんと挨拶をしたくなるものだ。


 廊下を進みリビングに入り、荷物を置いて部屋の中を見渡す。長いこと住んでいなかったと聞いたが、部屋の中は想像以上にきれいだった。庭の方もきれいだったため、定期的に掃除をしていたのだろうか。


 リビングの他には小さな和室や、洋風の個室が何個かあった。物置として使われているようだったが。どの部屋もきちんと手入れがされていた。

 そして嬉しいのは、生活するうえで最低限必要であろうレンジや冷蔵庫、洗濯機などが揃っていたことだ。これなら、初めての一人暮らしも何とかやっていけそうだ。

 一通りの確認が終わったころには、六時になっていた。


「少し早いけど飯にするか」

 一回横になってしまうと、そのまま深い眠りについてしまいそうなのでササっと家を出る。今後は自炊もできるようにならねばだが、今日くらいは楽をしていいだろう。


 そう思い、家の物置にあった古びた自転車にまたがり飲食店を探しに出る。

 自転車を数分こいだところに、定食屋を見つけた。小さな古民家を改造したような、いかにも田舎にありますと言ったたたずまいだ。自転車を止め、期待を高めて中に入る。

「いらっしゃい!」

 中に入ると元気な挨拶が飛んできた。


 見ると、気さくそうなおっちゃんとおばちゃん(四十代くらい)が二人で切り盛りしているようだ。夫婦だろうか?

 店内を見渡すと扇子や木彫りの動物などが飾られており、和を感じる内装となっていた。お客さんは俺以外に学校帰りであろう制服の女の子が一人いた。さっき通った学校の子とは違う制服だ。


 席についてメニューを見る。メニューの数は意外と多かった。これなら週に何回かお世話になっても飽きなさそうだ。ただ、メニューの内容は独特でなもので、

「お子様ランチ・・・?」

 ファミリーレストランなら普通にありそうだが、こんな田舎の定食屋で用意しているとは珍しい。こんなの頼む人はいるのだろうか。


「はい、お子様ランチお待ち」

 いたよ。もう一人のお客の女の子が注文していた。見てみると、オムライスの上にどこかの国の国旗が刺さっていた。島暮らし初日から、定食屋で制服の女の子がお子様ランチを食べるという超激レアなシチュエーションに遭遇してしまった。


「・・・・・・・・・・・・」

 女の子は運ばれてきたものをじっと見ている。その表情はどこか幼さを感じた。体はなかなか成長しているのに。


 結局俺は焼き魚定食にした。出てきた魚は大きく脂ものっており、味はなかなかのものだった。島には漁港もあり、とれたて新鮮なおかげだろうか。値段も良心的で大満足だ。

 ふと先程のお子様ランチの子が気になって見てみると、既にいなくなっていた。食べているうちに帰ってしまっていたようだ。


 帰り道、外はすっかり暗くなっていた。見える明かりは民家からもれる光か、数十メートル毎にある街灯くらいだ。

 そんな暗闇の中自転車をこぎつつ、ふと空を見上げる。

「さすがは離島の空だな」


 見上げるとそこには、こぼれんばかりの満天の星空が広がっていた。季節は春のため、アークトゥルスやスピカをはじめとした『春の大曲線』もはっきり確認できた。ちなみに春の大曲線とは、みんなも聞いたことがあるであろう北斗七星と、一等星であるアークトゥルスとスピカという星をつないでできる曲線のことだ。都会でもいくつかの星は見れるが、やはりここの夜空は桁違いだった。


「ははっ。これから毎日この空を見れるんだな」

 そんな胸の高まりを抑えつつ、俺は岐路についた。

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