第27話 先走りの快斗 呆れの高谷 不安のルーネス 憤慨の原野
「…………は?先走りすぎだろ。快斗。何やってんの。」
「これは、かなり不味いことになりましたね。」
「ホントに何やってくれてんのよ快斗君‼」
「きゅ、キュイ……。」
『怒羅』の店にて、高谷達はキューから渡された紙を読んでいた。三人の感情はそれぞれ。高谷は呆れ。ルーネスは不安がり、原野は怒り始める。3人の反応に、キューが少し怯える。
「作戦は、かなりリスクがあるが……」
「監視されていると考えたら潮時なのかもね。」
「快斗様が助け出した人々は王城に向かっております。ここに紛れていくべきでしょう。」
「じゃあ、急がないと……‼」
「そうだな。全く、朝にヒナが言ったことだけでここまで計算できるなんてな。取り敢えず、行くぞ‼」
「う、うん‼」
「ええ‼ヒナ、あとは頼みましたよ‼詳しくはこれを読んでください‼」
「え?え?なんですか⁉」
風呂から上がって、たった今合流したヒナに言い残して、高谷達は外へ飛び出す。ヒナが「え?え?」と言いながらメモを読み、キューは申し訳なさそうに鳴いている。
「よし‼ほっ‼」
「やっ‼」
「ふ……‼」
3人はそれぞれの武器を持って屋根に飛び乗って、王城に向かう貧民達を探す。
「いたっ‼あれ‼」
「おお‼あっちか‼行くぞ‼原野‼」
「うん‼」
「では、私はあちらへ‼」
「ああ。頼みましたルーネスさん‼」
3人は、メモに書いてあった作戦を遂行するため、二手に別れた。
高谷と原野は貧民達を追い、ルーネスは採掘場へと向かう。
高谷は、貧民達を追いながら、懐からベリルの右手を取り出して、その手から滴る血に干渉。一時的に、止血をし、腐敗を防ぐ。
「フゥ……よし‼」
大きく息を吐いて、これから起こる出来事に覚悟をきめて、高谷は屋根の上を移動していった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「ギィイ‼」
「オオォォオオ‼」
高速で振るわれる鉄剣。それは赤い火を纏い、敵を焼き払わんと、真上から快斗に迫る。快斗はそれを真剣白刃取りで真っ向から受け止め、手が炎に包まれる。
灼熱から成る痛みに耐えながら雄叫びを上げ、その剣を押し返し、脇腹に蹴りを入れる。しかし、鋼鉄のような硬さの肉体は、快斗の打撃攻撃を易々と防ぎ、無かったことにされる。
「くそっ‼やっぱり刃物がじゃねぇとキツいのか‼」
蹴った反動で後ろへ飛ぶ快斗。普通の魔物なら、そのまま追いかけてくるが、
「ギィア‼」
ケンタウロスは腕を前に突き出し、快斗の足場に石の槍を作り出す。
跳んで回避。起き上がったと同時に『炎玉』を放つ。しかし躱され、快斗の想像以上の速度で蹴り飛ばされる。
「うぐっ⁉」
前から、横から、後ろから、あらゆる方向から高速で蹴り飛ばされ、内臓が傷つき、吐血。
「くそっ‼『魔技・巨獣の……」
快斗は一瞬『魔技』を放とうとしたが、それだと街を巻き込みかねないと考え、途中で辞める。そして、
「なら、『
快斗は固有能力、『
「ラァ‼」
「ギィ⁉」
身体能力と反射神経が大幅に強化され、素早いケンタウロスの動きが視認できるようになり、後ろから迫ったケンタウロスの足を『剛力』発動中の両腕で掴み、プロレス技のように後ろへ倒れて、地面に叩きつけた。
そのまま空中へと跳び上がり、
「『ヘルズファイア』‼」
赤黒い炎の塊をケンタウロスに叩きつけた。そのまま全身を焼かれ、朽ち果てていくと思われたが、
「ギィィィ。」
「そう簡単には行かないか。」
全身を燃やされながらも、特に何もないといった様子で、ケンタウロスが獄炎の中からゆっくりと出てきた。
「魔術耐性に打撃攻撃無効。剣技に魔法に知能に速いって考えたら、お前、かなり強いな。」
「ギギギィィ。」
「でも、『魔技・怨念の濁流』」
「ギギ⁉」
快斗が目を瞑ってから、『魔技』を放つ。快斗の足元から大量の腕が現れ、ケンタウロスを飲み込もうと殺到する。
未知の攻撃方法に、ケンタウロスは瞠目するが、すぐに冷静になり、自身の前に大きな土の壁を生み出して、一時的に、腕の大群の進行を阻んだ。そして、
「ギギィ‼」
「そう来るか。」
その壁を足場にして腕の大群を飛び越えて、炎を纏った鉄剣を快斗に振るう。快斗は紙一重で体を傾けて躱して地面を打った鉄剣を上から踏み付けて砕く。
剣が動かなくなると気づいたケンタウロスは、すぐさま剣から手を離し、快斗から距離を取った。
「オラァ‼」
快斗は砕けた剣を拾い上げ、思いっきり足で蹴り飛ばして、ケンタウロスを狙うが、腕でキャッチされ、意味がなくなる。しかし、ケンタウロスが剣を掴んだ瞬間に快斗も『瞬身』で接近し、『剛力』発動中の右腕で腹パンを食らわせた。
背後に壁にケンタウロスがのめり込み、少なからずダメージを負う。そこに追撃で、
「『炎槍』‼『炎槍』‼『炎槍』‼」
3つの『炎槍』を作り出し、眉間、上半身の心臓部分、馬の体の心臓部分を攻撃する。
見事に命中し、爆発が起きる。
「ギィィィイイイ‼」
初めてここでケンタウロスが悲鳴を上げ、快斗の腹を後ろ足で蹴り飛ばした。なんとか留まり、顔を上げて快斗は笑う。
「やっとわかったぜ。弱点はそこな。なんとなく察してはいたけどよ。やっぱり確認って大事だろ?」
「ギギィィィ……」
ケンタウロスは苦虫を噛み潰したような顔つきになり、我武者羅に快斗に『炎玉』を放ってきた。
「そう怒るなよ。お前の攻略方法は分かった。全部壊さないといけないってのもな。あとは……」
『炎玉』を余裕を持って躱した快斗は、笑いながら採掘上の入り口から飛んできたビンを掴む。
「すみません。少々遅れました。」
「いや、ちょうどいいタイミングたぜ。ルーネスさん。」
続いておしとやかな女性の声。ゆっくりと歩いてくるのは、『怒羅』の元店主のルーネスである。そして、背中には、
「それ、高谷の脇腹ぶっ刺したやつだろ。」
「ええ。昔から愛用している私の『
ルーネスは背中に背負っている『
「さて、頼んだ物はちゃんと届いたし、高谷達も、今頃は貧民達に合流しているだろうな。」
「快斗様が先走りましたから、随分と憤慨しておられましたよ?特に、原野様は。」
「あーあいつは短気だからな。後でしばかれるの覚悟で行くしかねぇか。」
「そうですねぇ。」
ルーネスは『
「では、私も助太刀するといたしましょう。」
「頼んだぜ。」
快斗はビンの蓋を開けて、
「ここからは、お前の頭脳でも知らねーことを教えてやる。魔術でも技術でもねぇ。科学だ。」
「ギィィィ‼」
ケンタウロスは大きな『炎玉』を作り出し、快斗とルーネスに放つ。
「『ヘルズファイア』‼」
「『四散連槍』‼」
快斗が相殺し、その瞬間にルーネスがケンタウロスに連撃を食らわせる。
素早い速度でケンタウロスはルーネスのこうげきをすべて躱し、地面から槍を出現させようとするが、
「させねぇ‼」
「ギィイ⁉」
快斗が先読みして、ケンタウロスの腕へビンの中の液体を少量振りかけた。
すると、肌が焼け焦げたような痛みが走り、皮膚が溶けていく。
「ギィイ‼」
「こんなの知らねぇだろ?」
「ギィア?」
痛みに悶絶して、ケンタウロスが致命的な隙きを曝け出す。その隙きを逃さず、快斗はケンタウロスの横っ面を蹴り飛ばす。その先には、
「『金月光・斬』‼」
「ギィィィイアアアア‼」
金色に輝く『
「ギィィィ……」
「んじゃ、痛みを思い出させたところで、全力で行くぜ‼『獄怒の顕現』‼」
「私も、久々に本気で行きましょう。『金閣』。」
快斗が黒い魔力に包まれ、ルーネスは金色に発光する。そして、
「しゃあ‼行くぜぇ‼」
「ええ‼刺殺して差し上げます‼」
真っ黒の髪に、右目を中心に、十字架が描かれた快斗と、金髪に金色の瞳、そして、反対側も刃へと化した『
「ギギギィィ……。」
「怯んでんじゃねぇぞケンタウロス。フゥ……ルーネスさん‼パス‼」
「ギィア⁉」
「はい‼」
「ギィウ⁉」
快斗は『剛力』発動中の右足で、思いっきりケンタウロスを下から蹴り上げた。今までの三倍以上の力で蹴られたお陰で、馬の体の骨が軋む。
そして、『
そして、
「くらいな。塩酸‼」
「ギ‼ギィア‼」
快斗がビンの中の液体、塩酸を投げかけるが、その効果を覚えているケンタウロスは、紙一重で全ての塩酸を躱す。
「まだまだぁ‼」
「ギィィィ‼」
ケンタウロスが走り回る中、快斗は続けざまに塩酸をビンから振りかける。躱された塩酸は、地面に転がっている鉄細工にあたってジュウと音を立てる。そして、すべての塩酸が投げられたあと、
「ギィア‼」
「くっ‼」
その時を待っていたと言うように、ケンタウロスが快斗に近距離で『炎玉』を放つ。それを、溢れ出る黒い魔力で防ぐ快斗。カウンターで『炎閃』を心臓部に放つ。
それなりの威力はあるものの、ケンタウロスの肉体を貫くことはできず、火傷を負わせるにとどまる。
「チィッ‼」
「ギィアギィア‼」
「はぁ‼」
ケンタウロスが馬足を高速で快斗に叩き込む。快斗も、『瞬身』を使って足を高速で動かし、迎え撃つ。
「はぁ‼」
そして、快斗の足の速度がケンタウロスを上回り、その体を蹴り飛ばす。
すると、ケンタウロスの気配が、一瞬でガラリと変わった。
「ッ⁉」
「ギィアアア‼‼」
途端、先程とは比べ物にならないほどの速度で、ケンタウロスが拳撃を快斗に放った。
「なっ⁉」
五六発の思い攻撃が、ほぼ同時に、それが連続で快斗の体中を破壊せんと迫りくる。ケンタウロスの身体強化の魔法、『
「くそ……が‼」
両腕に『剛力』と『瞬身』を発動させてもなお、拳撃の速度が上回る。その攻撃は、防ぐ一方の快斗を徐々に地面へ埋めていく。
「チイッ‼ゥルアァ‼」
快斗は、ダメージ覚悟で全身に『剛力』と『瞬身』を発動し、回転。ケンタウロスの方向を見るたびに『炎玉』を放ち続ける。
その魔術すらも拳撃で掻き消し、快斗の全力の拳撃を突き抜ける。快斗の体中の骨が悲鳴を上げ、ぶつかる腕がボキボキと音を立てる。
しかし、それを片手で行うのは、かなり無謀なことであり、長時間続けるなど不可能。
「ギ、ギィ……。」
魔術や快斗の全力の攻撃を抑え込んだことにより、負担が爆発。ケンタウロスの片腕が弾けた。
「死んどけ雑魚‼」
快斗はすぐさま起き上がり、ケンタウロスの腹に手のひらを叩きつけ、そのまま、
「『風華』‼」
「ギギギィィ‼」
大きな爆風でケンタウロスを吹き飛ばした。至近距離から放たれた数多くの風の刃は、硬いケンタウロスの体でも耐えきれず、切り傷を大量に作った。
血が滴り、吐血が収まらないケンタウロス。そこに追撃を入れようとするが、
「ぐ……ふ……」
『
「ハァ……ハァ……ルーネスさん‼」
「ええ‼準備はできました‼」
ルーネスが金色に輝く『
だが、いくら弱っていると言っても、ただ、槍で突くだけで貫けるとは思えず、ケンタウロスは保険で『土盾』を作り出す。そこへ吸い込まれるように『
「『金色の雷牙』‼」
通常の『雷牙』よりも威力の高い、金色の雷をまとった『雷牙』が発動。『土盾』を安安と突き破り、音速でケンタウロスの心臓を貫いた。
「ギ?」
あまりに早すぎた攻撃のせいで、ケンタウロスが気づくのが遅い。そして、
「ギィィィアアアアアア‼‼」
自分の心臓が貫かれたと知ると同時に壮絶な痛みがケンタウロスを遅い、大きな悲鳴を上げ、採掘場が揺れる。
「よしっ‼離れろ‼」
「はい‼」
快斗とルーネスは入り口に向かって思いっきり跳び、ケンタウロスから距離を取る。
「おい。ケンタウロス。これが何か、分かるか?」
「ギギィ?」
快斗は、自分の後ろに出来上がっている、半透明の緑色の魔力の壁を叩いて示す。
「これはな。ただの魔力の壁だ。ルーネスさんに作ってもらった。」
「『
ルーネスがそう答える。ケンタウロスはそれを理解したようだが、それがなんのためにあるのかは分からないといった様子だ。
「まぁいいけどよ。」
そう言って、快斗とルーネスは天井へと映る。快斗が浮かび、ルーネスがお姫様抱っこをされている様子だ。
「あらあら、こんな抱かれ方も悪くはないですね。」
「美女だからよけい様になるな。」
「ふふ。お上手な事。」
「世辞じゃねぇよ。」
そう会話して、快斗はルーネスに問う。
「知ってるか?塩酸ってのは、鉄を溶かしたときに、新しい気体を発生させるんだぜ?それがなにか知ってるか?」
「いえ、存じ上げません。」
「それはな。水素だ。」
「水素、ですか?」
「そ。でな、水素と酸素か混ざり合っているところを熱するとどうなると思う?」
「どうなるのでしょうか?」
「それはな。」
快斗はそこで一旦きると、手のひらに『炎玉』を発動して、ゆっくりと下に落とした。それを見て挑発ととったケンタウロスが駆けてくる。
それを見て、快斗が「ふ……」と笑って、ルーネスに言った。
「答えは、爆発だ。」
「…………はい?」
途端、下から大きな爆発音と爆風が快斗とルーネスを襲う。上へ上へと飛ばされるが、快斗が手をついて体を支え、ルーネスがそこへしがみついて事なきを得た。
しかし、下にいたケンタウロスはそうとは行かず、全身がボロボロになり、内臓が剥き出しになり、何故生きているのかが不思議になるくらいだった。しかし、内臓がむき出しになったおかげで、硬い皮膚で防がれることはない。つまり、
「今が」
「チャンスって訳だ‼」
そう言って、快斗とルーネスが天井を蹴りとばして下へと勢いよく落ちる。
「ギ、ギ、ギギィ……」
丈夫だったのが仇となり全身が痛むのをこらえながら、ケンタウロスは上から迫る死の気配に怯えて、走り出す。既に目は見えていない。
「行きます‼…………『金月光・円』‼」
「ギィア………」
ルーネスが空中で逆さに回転し、ケンタウロスの顔と同じ高さになった所で、広範囲に斬撃を放つ『金月光・円』を発動。ケンタウロスの首が、刎ねられた。
「ハァ‼」
そして、ルーネスが宙を舞うケンタウロスの頭の眉間に向かって、『
そのことに更に焦ったのか、前が見えないからなのか、我武者羅にケンタウロスの体が走り出す。しかし、
「逃がすかよ‼行くぜぇ‼ハァア‼」
快斗は空中で分身体を5人作り出す。そして、
「オラァ‼」
一人目に着地した分身体が、ケンタウロスの進行方向に移動して、上へと蹴り上げる。
そして、続けざまに上から残りの分身体が、ケンタウロスの足をそれぞれ掴み、
「「「「『魔技・魔剣斬手』」」」」
全員が手の指を揃える。その腕が一時的に魔剣と化し、それぞれのケンタウロスの足を切り飛ばす。完全に身動きが取れなくなったケンタウロスは無様に地面へと着地。そして、
「これで終わり‼久々の〜『貫手』‼」
「ッーーー‼」
黒い魔力をまとった指の揃った手を、馬の体の心臓部分に突き刺した。そして、
「いただくぜ‼お前の魂ィ‼」
手を引き抜くと同時に、ケンタウロスの魂を引き釣り出し、そのまま口へと運んで、飲み込んだ。
「ハァ……しゃあ‼食ってやったぜー‼」
「ハァ……なんとか、勝てましたね。」
魔力と怨力が回復し、全身の傷が少し言えた快斗が雄叫びを上げ、それを歓喜として受け取るルーネス。
二人共疲労でそのまま座り込み、『
「サンキュな。ルーネスさん。塩酸持ってきてくれて。」
「ええ。いきなり言われて驚きましたが、まさか塩酸にはあんなに強い効果が……。ただ溶かしていくのみだと思っていたした。」
「まぁこの世界の人々はまだ気づいていないだろーな。」
「やはり、快斗様は天才のようですね。」
「前世だと、これは常識だったけどな。」
そう言って快斗が立ち上がり、ルーネスに手を伸ばす。
「立てるか?ルーネスさん。」
「ええ。ありがとうございます。」
ルーネスは快斗の手を取って立ち上がる。
「じゃあ行くか。結構早く終わったから、休憩できるかもな。」
「そうだといいですね。」
二人はフラフラになりながら、ゆっくりと歩いていった。そして、
「ところで、快斗様?」
「なんだ?」
「足が少々痛みます。着地するときに少し捻ったようで……先程のように運んでいただけますか?」
「まぁ……いいけどよ。美女を抱っこするって結構勇気いるな……」
「では、よろしくお願いします。くれぐれも落とさないでくださいね。」
「落とすわけねーだろ。ルーネスさんみたいな美女を落としちまったら、男が廃るぜ。」
「あらあら、ふふふ。」
こうして、十二支幻獣『午』の討伐者二人は、楽しげに会話しながら、採掘場を跡にしたのであった。
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