第26話 十二支幻獣『午』

「うーし。戻ったぜー‼」

「快斗お兄ちゃん‼」

「キュイ‼」


快斗が奥から舞い戻ると、リンとキュー、が快斗の帰還を喜んだ。


「大丈夫だった?」

「ああ。クソ見てぇな性格の鍛冶職人は追い出したぜ。管理人は全員縛り付けたし、お前ら全員で国に言えば、あいつは時期に見つかって捕まるだろうよ。」

「良かった。これで大丈夫なんだね……ここにいる人たちは。」

「ああそうだが………。どうした?なんかあったのか?」


少し不安そうな顔で言ったリンを見て、快斗が心配そうに聞く。リンは少し黙ったあと、他の人々を見回して口を開いた。


「何人かいない。ここに来るまでは一緒だったのに、ここについたら消えてる人がいる。ちなみに、鍛冶職人も来ていない。」

「…………何?」 


快斗は予想外の発言に眉をひそめ、管理人たちを見る。


「だってあいつ等は縛り付けてあるし、まさか他にもいるのか……」

「んん。男の人がさっき聞いてたけど、管理人達はこれで全員だって。」

「ほー。ホントかよ?」

「ひぃっ…ほ、本当です……」


快斗は近くにいた管理人の顔のすぐ横に左足を突き出して、脅す。表情からして、管理人が嘘をついていないと判断した快斗は、考えついた次なる質問を聞く。


「この採掘上の中に、魔物はいるか?」

「「「ッ……。」」」


助け出された人々が固唾を飲み込む。管理人達は少し話したあと、


「あ、あまり信憑性はないのですが……」

「早く吐きやがれクソ野郎。」

「ひぃ……は、はい。実は……この採掘場は……」

「この採掘場は?」

「じゅ、十二支幻獣の……『午』が現れる場所なのです……。」

「「「えぇっ⁉」」」

「んあ?なんだその『午』ってやつは。」


快斗が疑問に思っていると、リンが教えてくれる。


「十二支幻獣って言うのがいてね。毎月ランダムの場所に特別強い魔物が出現する。今は6月だから、『午』がでるはず……それがここになった。」

「そうなのか……。え?それってヤバくね?」

「そう。ヤバイ。王都に出現したから、早く伝えて討伐体を組まないと……。」


リンの言葉に、管理人や他の人々が焦りだす。子どもたちは泣き始め、大人たちは逃げ出そうとし始め、管理人達は汗をダラダラとかきまくる。


「特別強い魔物かぁ。…………そういや、俺も先月にめっちゃ強い大蛇倒したぜ。瀕死になっちまったけどな。」

「「「…………え?」」」

「んあ?なんだよ?」


快斗の呟きを聞いてその場の全員が疑問の声を発した。


「し、失礼ですが、それはどちらで倒されたのですか?」

「んあ?えーっと、確か……セルス街だっけ?その近くの森の奥で倒したのさ。俺の全力と互角だったな。」

「おおぉ、これは……。」

「ああ。間違いない。」

「なんだよお前ら。」


管理人達が歓喜に近い声を発し始めたので、訝しんで快斗が聞くと、管理人の一人が言った。


「実は、十二支幻獣の出現場所は、エレスト王国の占い師が場所をある程度言い当てることができるんだが……」

「その場所と、俺が大蛇を倒した場所が一致すると?」

「ああ。しかも、その占い師は蛇が倒された。何者かに、殺された。と言ったそうだ。まさかとは思うが……」

「それが俺である、と。ふーん。道理で強かったわけだ。あいつ、そんなカッチョイイ幻獣の一匹だったのか。」


快斗が納得していると、今度はリンが快斗に聞く。


「快斗お兄ちゃん。『巳』と戦った時、毒に触れた?」

「え?ああ。毒針刺されたぜ。キューのこの耳も、あいつの毒のせいだ。」

「キュイ‼」


キューが自慢げに耳を見せる。


「じゃあ、どうやってその毒を克服した?」

「克服っていうか、その近くにあった解毒作用のきのこ食って、その後、よく分かんない蛇に回復魔術かけられたな。」

「やっぱり。」

「?」


リンが小さく頷いて、


「十二支幻獣が出現したときは、その近くに対となる別の魔物が出現する。その魔物は幻獣を倒した者の前にしか現れず、そのものを癒やす役割を担っているんだって。」

「なるほど。確かに癒やしてもらったな。あの蛇は期間限定の超絶レア魔物だったって事か。」

「ん。」


リンが頷く。快斗は、


「まぁ、そんなのはどうだっていいけどよ。お前らの仲間がそいつに連れ去られたかもって話だろ?うーむ。これは、想像以上に大きな問題になったな。ま、貧民達を助けてる時点で大事だけどよ。」

「どうするの?」


リンが心配そうな顔で、快斗を見つめる。快斗はニコッと笑って、頭を撫でて、


「取り敢えず、まずはこの採掘場からでて、まぁ城にでも向かってここの鍛冶職人のことでも報告してろ。俺は公に出たら不味いから、そこまではお前らで行けな?途中までは俺の分身体でもつけ……ん?」

「キュ、キュイ?…………キュイキュイ。」

「ああ。分かってるよキュー。」


快斗は皆への言葉を途中で切り上げ、採掘場の奥の方を見つめながら、キューに答える。

キューは『瞬身』を使って管理人を縛っている縄をすべて斬り裂いて解いた。


「悪ぃ。俺の分身体をつけられねー。こっちに集中するわ。皆‼全力で走れぇ‼」

「え⁉どうしたの⁉」

「いいから走れ人間共‼死にたくなけりゃあなぁ‼」


貧民たちは言われるがまま、快斗の本気さに気付いて走り出す。出口まで分身体が援助し、そして、全部の分身体が一気に消えた。


貧民たちは急に分身体が消えた事に不思議がって止まったが、それを感知した快斗は、


「城に伝えてこい‼魔神の駒が、『午』と採掘場で戦ってるってなぁ‼」

「い、行くぞー‼」


その声を聞いた貧民たちが駆け出していく。快斗は自分の感知できる範囲から全員が抜け出したのを確認したあと、


「キュー。高谷達に、渡してほしいもんがある。」

「キュイ?」


快斗はズボンのポッケから取り出した1枚の紙とベリルの右手をキューの背中に紐で結びつけた。


「一応取っておいたメモとあいつの右手だ。たった今考えた作戦だけど、上手くは行くと思う。このチャンスを逃すわけにはいかねぇ。」

「キュイ。」

「頼んだぜ。」 

「キュキュイ‼」


キューは威勢よく返事をしたあと、『瞬身』を駆使して去っていった。


「さて、肩の荷が下りたところでお出ましだ。」

「ゥゥゥ。ううぅうぅぅうう。」


快斗が見た方向から、下半身が馬、上半身が人という、地球で言うところの、


「ケンタウロス。」

「ギィィイイィイ‼」


ケンタウロスは左手に普通の鉄剣を持っており、右手には、


「おいおい。鍛冶職人死んじゃってんじゃん。」

「ギィイ。ギィイイイイ‼」


ベリルの頭が握られていた。首から下は存在しておらず、ケンタウロスの口が血塗れであることから食われたと考えられる。


「チッ。面倒だなぁ。でも、作戦のきっかけにはなってくれるからな。感謝よりも殺意のほうが勝るけどよろしく頼むぜ?」

「ギィ……ギィィイイィイ‼」


快斗から発せられる強大な殺気に、ケンタウロスは一瞬怯むも、雄叫びを上げて、ベリルの頭を投げ捨て、快斗に鉄剣を振るう。


「殺ってやるよ。」  


快斗は余裕でその剣撃を跳んで躱して回転。蹴りを顔面に繰り出す。


そらされて回避。真上から鉄剣を叩きつけられる。


「ホイ。」


間一髪で魔塊で防ぎ、鉄剣を横に弾く。そのまま回転して、胴を『剛力』発動中の腕で殴るが、 


「えっ⁉硬すぎだろ‼」


鋼鉄のような硬い腹筋で、その拳撃を耐えられた。そして、


「ギィイ‼」

「おわっ⁉と。」


『炎玉』を放たれた。『瞬身』で躱したが、その後、回避先に回り込まれて横凪に振るわれた鉄剣が、快斗の頬をかすめ、傷を作る。


すぐに場所を離脱して大勢を整える両者。


「クソッタレ。蛇のときは『魔力遮断』と毒で、今度は硬い体に知能かよ。十二支幻獣ってのは、それぞれ特殊な奴らなんだな。」

「ギィイ‼」


ケンタウロスが鉄剣を前に構える。快斗も爪と牙を剥き出しにして睨みながら、


「いいじゃねぇか。頭脳プレイだ。斬り刻んでぶっ潰して焼き尽くして、何もかも無かったことにしてやるよ。お前の存在ごとな。」

「ギ。」


互いに睨み合う両者。その間で天井から小石が落下する。緩やかに真っ直ぐ落ちたそれは、戦いの火蓋を切る引き金となった。


「行くぜぇ‼」

「ギィイ‼」


十二支幻獣『午』と魔神の駒が、頭脳的戦闘を開始する。さて、どちらが、天才で天災なのだろうか。

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