第25話 草薙剣の在り処

「ホイホイホイ。」

「よぉーし。こっちに来てくれー。みんな、ゆっくりでいいからなー。」

「おいおい。少年よ。無理すんな。これは俺が持ってやるから、お前は母ちゃん探してきな。」 

「こっちの子に回復薬と林檎プリーズ。」

「あいよー。」

「こっちの管理人共に睡眠薬プリーズ。」

「了解。」

 

現在、採掘場の中は歓喜の念に満ちていた。理由は簡単。快斗が分身体で貧民たち全員を救出したからだ。


もちろん、管理人たちが抵抗したが、力が分散しているとはいえ、快斗の大群に叶うこともなく、ほぼ秒殺されていった。


「快斗お兄ちゃん。ありがとう。」

「ああ。リン。これは俺のためだから気にすんな。たまたまお前らの事情と重なっただけだ。」

「ん。本当に、ありがとう。大好き。」

「あれ?この短時間で俺ここまで好かれるようなことしたっけ?」

「した。私の事、助けてくれた。私の名前、付けてくれた。だから、大好き。」


小さな少女に自信満々に告白されて、頬を掻く快斗。リンは快斗の膝の上を陣取って離れない。その光景に、他の少女が羨ましそうに見つめて、他の分身体快斗にねだり始める事態が発生。全員親に叱られて沈黙することになった。


「でも、お前の親がいねぇんだよな。」

「うん……。」


次々と採掘上の奥から連れ出される貧民たちを見回して、リンが悲しそうな表情をする。快斗はそれを見て、リンの頭を撫で回す。


「心配すんな。俺がいる。俺がついてる。」

「…………ん。分かった。」


まだまだ作り笑いだが、それでも最初よりはマシになった笑顔を見て、快斗は満足する。

そして、


「さて、そろそろ本命を叩くか。」

「ん。大丈夫?門番は強いよ?」

「俺のほうが強ぇから大丈夫。心配すんな。」

「ん。でも……」

「じゃあ、この兎でも見てろよ。こいつを可愛がってる間に帰ってくるさ。」

「ん。分かった。可愛がる。」

「キュイ?」

「行ってらっしゃい。」

「あいよ。」


本体の快斗は、『瞬身』を使いながら、奥へ奥へと進んでいった。キューは、最近自分が戦いではなく癒やしに使われ始めていることに少し落ち込んだのだった。


「フゥ……まだいたのか。」


最奥まで行くと、まだ助けていなかった人々が、そこで働かせさせられていた。最奥というのもあって、光はほとんど無く、電灯のようなものもない。そのため、ここの人々は真っ暗の中で仕事をするのだが、当然、完全に見えるはずもなく、


「いたっ⁉」


間違えて自分の指を無くしてしまうことが多々ある。


「酷いな。こりゃ、国のためと言ってもやりすぎだろ。」


リンのことを思い出して怒りながら、多数の気配の中で、管理人と思われる気配だけを魔塊で打って気絶させ、


「『炎玉』」


空中に炎のたまをいくつか作り出して明かりにする。久々に明かりを見た人々は目を瞑り、暫くして目を開けて、倒れている管理人たちを見てぎょっとした。


「もう大丈夫だ。お前ら、こんなブラック企業よく耐えられてたな。ほら、ここから出たいやつから、俺の分身体についていけ。」


快斗は分身体を五人程作り出して、サッと奥へ移動する。


働かせさせられていた人々は少しの間唖然した顔で止まっていたが、分身体の快斗たちが呼びかけたことで、ようやく救われたことに気づいて泣き叫びながら出ていった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「さてさて、あの門番はなかなか強いなぁ。」


本体の快斗は、ベリルがいると思われる部屋が見える通路の角に隠れていた。その部屋の前には、見張りのような門番のような手練が一人、仁王立ちで立っていた。


「魔塊は、尽きたな。どうするかな。普通に戦ってもいいけど、それだとつまらないな。」


快斗は少し考えたあと、


「とりま、あいつの能力を知るのが先かな。」


『瞬身』を使って門番の背後に移動。シュッと首筋を爪で切り裂く。かなり浅く傷を付けた。


「づっ⁉な、なんだ?」

「ふ……っと。」


快斗は先程いた場所に戻り、門番は首筋を抑えて、血が出ていることを確認して少し驚いた顔をしたが、すぐに冷静さを取り戻し、回復薬とおもられる液体を首筋にかけ、


「『敵感知サーチ』」


と呟いた。途端、門番はなにかに気づいたような顔をして、腰の剣を抜いて、


「そこかっ‼」

「うえっ⁉」 


快斗がいた場所に移動して斬りつけてきた。予想外の出来事に情けない声を放つ快斗。しかし、持ち前の反射神経で、スレスレのところで躱す。


「なんでバレたんだ。」

「言うわけがなかろう‼」


門番は、確かな剣技で、快斗を斬り裂こうとするが、不思議な動き(ブレイクダンス)をされ、逆に翻弄される。


「くっ……何なんだ貴様‼」

「天野快斗だ‼」

「なにっ⁉まさか、お前、悪魔だと⁉」

「あーもういいや。なんで俺の場所が分かったのかは知らないけど、魂喰えばわかるしね。あと、あんま騒ぐなよ。」

「な…ぶっ⁉」


快斗は横凪に振るわれた剣を跳んで躱したあと、逆さに回転して踵で門番の顔を蹴り飛ばした。そのまま、側転の容量で体勢を整え、鳩尾に『剛力』を発動した右手をねじ込んだ。


内蔵に骨が突き刺さり、吐血をする門番の頭に踵落としを繰り出し、四つん這いにさせたところで右腕を踏みつけてへし折る。そのまま剣を奪い取り、


「死ね♪」

「うぐ……」


心臓を一突きした。一瞬で命を刈り取られ、小さなうめき声だけしか挙げられないまま、門番は絶命した。そして、


「久々の魂食だな‼」 


門番の死体から魂を抜き取って喰らう。魔力と怨力が補充され、そして、


「うーむ。なるほど。『敵感知サーチ』か。これで俺の場所がわかったわけだな。」


能力と剣技を少し奪い取って、快斗は部屋に向き直る。


「せっかくだから、幼稚園の頃のお化け屋敷風に登場するか。」


快斗は部屋のドアの前の天井に立つと、逆さまのまま、


「『魔技・不審の静寂』」


部屋の中から門番の死体までの範囲に、『魔技』を発動する。周りの音を奪い、それにより不安が生まれるのを援助するという地味な『魔技』である。


意味があまりないように思えるが、快斗は前世で高谷から、人間は集団で行動するとき、一人の不安が、全体に広がると、必ず暴行や争いが起こるという話を聞いたことがある。


つまり、この『魔技』は集団で効果を発揮するものなのだが、一人に集中すれば、それなりの不安となる。この機会には適している『魔技』なのだ。うまく行けば、中のベリルが出てくるはずである。


そして、その目論見は成功し、


「な、なんだ?おい。どこにいったのだ?」


ベリルがのこのことドアを開けて出てきた。そして、ニヤリと快斗は笑って、


「よっ‼違法鍛冶職人。こんなとこに隠れてたのか。」


と、ベリルの目の前に現れた。


「な、何だお前は‼」


ベリルは驚いて、すぐに後ずさる。その足の動きが素人なのは丸わかりで、戦闘能力はないと思われる。


「ぃよいしょっと。お前が法を犯しているのは既に分かってんだぜ。貧民達を働かせて、自分はボロ儲けってか?別にそれは良いけどさ、俺、あんたに聞きたいことがあるんだよね。」

「な、何を言っているのだ‼おい‼リード‼リードは何処だ‼」

「リード?あの門番リードって言うのか。あいつなら死んだよ。魂も俺の中さ。」

「な、何?リードは獄値800超えの手練だぞ‼そんな簡単に死ぬわけが……」

「じゃあ、あれなーんだ?」

「な……」


快斗は笑いながら、自分の後ろにあるリードの死体を指差す。それを見て、ベリルが絶句しながら、へたり込む。


「さてさて、」

「ま、待て‼金ならやる‼いくらでもやるから‼命だけは‼」

「まぁ待てって。俺の質問に答えたら、殺さないこともない。」

「な、何だ?」

「先ず、この王都に黒紫色の刀は届いたか?」

「あ、ああ。草薙剣と書かれた刀が、セルス街のメサイアから届いた。」

「それは何処にある?」

「し、城の中の保管庫のなかだ。」

「そこにはどうやって行くんだ?」

「お、俺が知っている情報では、そこには王族と王宮鍛冶職人の三人しか入れない。入り方は、城から入るルートと鍛冶場から転移するルート。」

「城を破壊すれば取りに行けるのかな?」

「いや、あそこは魔術師達がかけた『絶対障壁』で守られている。壊すことはとてもではないが不可能だ。」

「じゃあ、どうやって入んだよ。」

「た、確か……王族と王宮鍛冶職人には、特別な紋章が左手の甲に描かれるんだ。それを石版にかざすと『絶対障壁』が一時的に解除されるんだ。」

「なるほどねぇ。その紋章は誰が描くんだ?」

「人ではない。エレメンタルストーンという緑色の石に翳すと、紋章がいつの間にか描かれているんだ。それは、城の王の間の中にある。」

「なるほどな。それを奪えばいいのか。」

「だが、それを奪うのは困難だ。」

「何故?」

「簡単な話だ。四大剣将の一人、エレジア・グレイシャール、その他の猛者たちがそれを守っているからだ。」

「半端なく強い壁ってことか。」

「も、もういいだろう‼そろそろ私を逃してくれ‼」

「ああ、いいよ。でも、その前に。」


快斗は立ち上がって逃げようとしたベリルをひきとめて、先程奪った剣の柄を握る。ベリルは一瞬訝しんだが、すぐに何をされるか検討が付き、逃げようとしたが、


「逃さないって。」

「ッ⁉があああ‼」


目に見えない速度で剣が振るわれ、ベリルの右手が切り取られた。その腕を掴み取って、快斗は回復薬を乱暴にベリルの腕にかけると、


「この紋章は使わせてもらうぜ。じゃあどっかに行きな。」

「く、クソっ‼クソおおお‼」


ベリルは叫びながら、情けない走り方で快斗の視界から消えた。

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