第28話 高谷の作戦&お姫様抱っこの賭け

「あれ、かな?」

「多分な。緑色で王の間の中にある石。それを守ってる兵士が2人。間違いないと思う。」


高谷と原野は、セシンドグロス王城の王の間の入り口の前に立っていた。見張りたちは、王城に押しかけた貧民達の相手をしに外へ出ている。


「どう入るか……。それが問題なんだよな。」

「そうだよね。」


現在、王の間の中の様子は、高谷の『血眼ブロディアイ』という魔術で観察している。王の間の中は、奥に行けば行くほど段が高くなり、一番高い所に巨大な椅子があり、その上に全身を鋼鉄の鎧で固めた屈強な男が一人、肘を付きながら座っている。


その前で礼儀正しい格好をして、何かを報告していると思われる細い男性と、それを腕を組みながら見ている、大剣を背負い、硬めを眼帯で隠した露出の激しい服装の女性と、武装しながらも、長い髪をそのまま垂れ流し、少しやる気のなさそうに見える女性。


計4人が王の間の中にいる。そして、武装した女性2人の後ろには、


「エレメンタルストーン」

「保管庫の鍵。あれを取れれば……」


緑色の光を淡く放つ、正六角形のエレメンタルストーンが、台座のような場所の上にのっている。


あれを取ることさえできれば、保管庫へは余裕で行けるのだが、


「どうしよ……。中に入っても……。」

「簡単に気づかれる。あの兵士の2人はかなり強いはずだ。入るにしても、この入り口と奥の窓しかない。仮に気をそらして入れたとしても、その後すぐに見つかってアウトだ。」

「じゃあ、どうするの?」

「うーん……。」


高谷は、近くの窓の外を眺めながら、ゆっくりと考える。自分の能力、原野の能力、前世のアニメ知識。そして、今こちらに近づいてくる気配に気がついて、思いついた。


「原野、耳貸せ。」

「う、うん。」


高谷は、思いついた作戦を原野に伝える。そのあまりに単純すぎる内容に、うまく行くのか不安になる原野だったが、高谷が「きっと、多分まぁまぁ行ける‼」という曖昧な言葉を聞いて、更に不安の念が爆増するのだった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「ほら、ルーネスさん。飲めよ。」

「ありがとうございます。」 


快斗とルーネスは、休憩を取るため、王城へ向かう途中にある飲食店で食事をしていた。勿論、変装済みである。


「ここのステーキ美味いな。」

「でしょう?ここに住んでいた時に気に入っていた店なんですよ。」


出されたステーキをガツガツと食いながら、快斗が評価を口にする。ルーネスは微笑みながら、窓から見える王城を眺める。


貧民達が押しかけたことにより、王城は混乱状態。今なんとか治まったようだが、早めに快斗の姿を見せなければ、また騒ぎ出すかも知れない。


それに、一番の心配は、高谷と原野が無事かどうかである。


「大丈夫でしょうか?」

「まぁ上手くやるだろ。そんなに心配しなくても、あいつらなら出来るって。」

「そうですかね。それにしても、ヒナの話を聞いただけで、よくあそこまで推理できましたね。」

「ああいうのを想像するのは得意なんだよ。妄想って言ったほうがいいのかな?正直、ここまで順調に進むとは思ってなかったよ。」

「ふふ。人生何があるか分かりませんね。」

「ホント、それな。」


快斗がこの作戦を思いついたのは、今朝のヒナの話が元になっている。


「この前、貧民達全員を雇ってくれるっていう鍛冶職人が現れたんですよ。その話に貧民達は即決でのっかったそうなのですが、最近の貧民達の様子がおかしくて、なんでも常に空腹でボロボロなのだとか。巷じゃ寝ずに働かされてるっていう話ですよ。」


朝の雑談の中、ヒナが言ったこの一言。その話を聞いて、快斗は一瞬で最低鍛冶職人の姿を想像した。そして、鍛冶場へ向かうときにずっと考えていた。そして、鍛冶場への入り方を知った時にピンときた。


そこからの進展はめまぐるしいものだ。善は急げ、思い立ったが吉日。まさに言葉通りのことを、快斗は実行してしまったのだ。


「快斗様はすこし、急ぎ過ぎだと思いますよ。」

「そーかなー?」

「ええ。そんなに急いでいると、自分の大切なものを見落としても、気づきませんよ?」

「気を付けるよ。」


そんな会話をして、会計をしませてから外へと出た。快斗は大きく背伸びをして、


「さて、これで空腹も満たされて魔力全回復‼傷も癒やされて生命力も全回復‼今なら何が来ても負けねぇぜ。」

「食べてすぐに運動すると、脇腹を痛めますよ?」

「正論すぎるな。」


快斗は頭の後ろで手を組んで、王城を見る。


「さて、今あいつらはどっちにいるかな?」

「私は王城に賭けます。」

「お‼じゃあ俺は鍛冶場に賭ける。罰ゲームは何にしようかな?」

「では、負けたほうが、一日中、勝ったほうが移動するときにお姫様抱っこで運ぶというのでどうでしょう?」

「ルーネスさん。そんなにお姫様抱っこ気に入ったの?」

「ええ。とても。」

「じゃあそれでいっか。さて、どっちが勝つかn……。」


快斗がどちらが勝つか散策しようとしたところで、ドーンと大きな音が響いた。急いで屋根に跳び上がり、音がしたの方向を見ると、土埃を盛大に上げている鍛冶場が見えた。


「こりゃ、俺の勝ちっぽいな。」

「では、この作戦が成功したら、お姫様抱っこはよろしくお願いしますね。」

「ルーネスさん。自分がされたくてわざと王城を選んだだろ。あとその言葉、死亡フラグ。」

「あらあら、すみません。」


お互い軽口を言い合ってから、息を合わせたように真剣になり、そして、


「んじゃ、もう一戦行きますか‼」

「ええ。私も全力で行かせていただきます‼」


快斗とルーネスは、屋根をえぐる程の勢いで跳び移り、超高速で鍛冶場へと向かった。

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