第23話 原野のせいじゃんね?

「あ……あれ?…ここは……」


ベッドがいくつも並べられた真っ白の部屋の中の端、そのベッドに寝ていた少年、渡辺は目を覚ます。


「おう、起きたな。渡辺。」

「ッ……内田か。」


隣からかけられた声に一瞬驚きながらも、それが友であるとわかり、安堵する。隣の内田は、渡辺と同じように足に包帯が巻かれ、釣り上げられている。


「大丈夫か?」

「ああ、なんとかな。でも、クズは殺せなかったな。」

「ッ……。」


渡辺は、もう少しと言うところで裏切った高谷と原野を思い出し、苛つき始める。


「俺達が倒れたあとどうなった?」

「クレイムさんが応戦したって聞いた。」

「そうか。…………長と宮澤は?」

「死んだだろ。あの怪我で助かるわけない。即死だったしな。二人共。」

「クソ……あの強さは反則だろ‼」

「それな。マジで死ね。」


渡辺と内田か、快斗の愚痴を言い合っていると、他のクラスメイトもだんだんと目を覚まし始めた。


そして、復活の時のように賑やかになっていくと、


「みんな起きたかな〜。朝ごはんだよ〜。多分もう足治ってると思うから歩いてきてね〜。」


ドアを勢いよく開けて、もう一人のメサイア幹部、アシメルが元気に言い放った。


クラスメイト達はぼんやりとしながら、アシメルの後について行き、食卓へと付いた。既に酒井と柳沢と加賀が座って食事をしていた。


皆が雑談混じりに座り、目の前の食事に手を付け始めた頃、その前にアシメルが立って話し始めた。


「さて、みんな。悪魔はどうだった?強かった?想像以上だった?」

「…………。」


全員が静かにうつむく。それを見て「やっぱりぃ……」とアシメルが声を漏らし、何人かが心の中で言い訳を口にする。


「だから言ったじゃん。油断するなって。どうせ多勢に無勢で余裕で勝てるとか思っちゃったんでしょ?それで二人も亡くして、挙げ句の果に裏切り者まで現れて……君達の絆は浅いようだね。」

「そ、そんなことは……」


内田が反論しようとするが、アシメルが放った殺気にも近い気配に怯えて引っ込む。


「まぁ、みんなは普通の人たちよりも強いし、強くなりやすいから調子に乗りやすいってのもあるし、クレイムもついていたから勝てると思ったんだよね。アタシたちの修行のレベルも低かった事もあるかもだし。」

「うぅ……」

「でも、みんな納得してないでしょ?」

「…………。」


アシメルの問にその場の全員が鋭い眼光で頷く。その反応に満足したように笑って、


「じゃあ、みんな。まずは街の復興に手を貸してもらうよ。そこで基礎運動能力を底上げして、その後、世界の中心地、エレスト王国のメサイア本部で力をつけてもらうよ。ここより厳しいだろうけど、そんなことで折れる恨みじゃないだろう?」

「ああ。」

「殺してやる。」 

「当たり前じゃない。」

「苛ついたぜあいつ。」

「やってやるぜ。」


全員の士気が高まったところで、西野がアシメルに聞く。


「あのー、クレイムさんは何処にいるんですか?」

「あー、クレイムね。クレイムは死んだよ。」

「「「…………え?」」」

「だぁかぁらぁ、死んだって言ってるの。悪魔に全部壊されて死んだよ。肉体も魂も全部ね。」


全員驚愕していた。自分達が全員でかかってやっと同等と言えるほどの力を持っていたクレイムが、自分達がある程度体力を減らした快斗に倒されていると知れば、そうなるのは必然的である。


「え?嘘……あのクレイムさんが?」

「じゃぁ……天野って、かなり強くない?」

「俺達が全員でかかっても、結局は勝てなかったんだな………。」

「もう、みんなみんな‼今話したばっかでしょ‼その無力さを実感した上で、これからもっと修行していくんでしょ‼ほら、食べ終わったなら片付けてからアタシについてきてね‼先に外に行ってるから。」


アシメルは、そう言い放ってから、くるりと背を向けて食堂を出ていった。


その後は、クラスメイトと大人3人が静かに朝食を取り続ける時間が続き、食べ終わった人が食器をどんどん重ねて片付けて出ていく中、


「…………クソっ‼」


渡辺だけが苛つきながら朝食を放棄したのであった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「あれが鍛冶場か?」

「多分な。」

「でも、入り口が見当たらないね。」


セシンドグロス王国の鍛冶場の前の茂みの中、その中に潜んでいるのは快斗と高谷と原野である。


「周りも見てみたは見てみたけど……」

「それらしい入り口はなかったな。」

「やっぱりあの青い魔法陣が怪しいよね。」


鍛冶場と思われる建物の前には、武装したメサイアの兵士と思わしき人間が二人、姿勢正しく立っていた。大きな青色の魔法陣が描かれており、その中央には大量の文字が書かれている石版があった。そしてそれを見た快斗と高谷は完璧なハモリと共にこう口にした。


「「モノリスかよ。」」

「へ?」


なんの事か分からない原野が間抜けな声で聞き返すが、何でもないと快斗が言ってから、再び思案に戻る。


「ぜってー何かあるはずなんだが……」

「うーん。見てるだけじゃ分からないな。」

「もう少し近づく?」

「いや近づいたところで分かることは無い。せめてあれを利用する瞬間が見れれば……」

「んあ?あ、頭下げろ。誰か通るぜ。」


高谷が推測を口にしていると、快斗が通路から歩いてきた人物に気付いて隠れさせる。


その人物は、兵士に何かを話してから、魔法陣の中心に移動し、石版に右手の甲をかざした。すると、その人物が一瞬で消え去った。


「いっ⁉」

「あぁ、なるほど。あれで転移して鍛冶場に行くのか。」

「だから入り口がねぇのか。」

「あれを見て冷静に分析できる二人の感覚についていけないよ……」

「アニメ見ればこうなる。」


高谷と快斗が納得して、原野が驚く。その後の会話で少し声量が増した。そのため、


「おい。そこに誰かいるのか?」

「ヤバ…‼」


兵士が快斗達が潜んでいる茂みにゆっくりと近づく。


「ど、どうする?」

「逃げるか?」

「いや、そんなダサいことしなくてもいい方法がある。」

「なに?」


快斗が人差し指と親指と小指を立て、ウィンクをしながら、


「あいつが来てる方向と逆の方向に全力で走ればいい。」

「それを逃げるっていうの‼」

「ッ‼誰だ‼」

「あ、バレた‼」

「あーあ。原野少し静かにしてくれよ。」

「私のせい⁉」

「ツッコミが好きなのは分かるけどさ。自重しよう?」

「た、高谷君まで……‼」

「待て貴様らー‼」

「取り敢えず逃げんぞー。」

「分かった。」

「なんでそんなに落ち着いてるのー⁉」


前世の学校での会話のように気軽に話しながら、三人は兵士からすたこらと逃げ出すのだった。

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