第22話 一目惚れしたのは武器

セシンドグロス王国王都の裏路地。『怒羅』の前の道にて。快斗は高谷に魔神因子を入れようとしていた。


「シャー行くぞー。」

「何するつもりだ?」

「まぁそのままでいろって。」


快斗は10mほどの距離から高谷をじっと見つめていた。高谷が訝しんでいると、


「いでよ、魔神因子。」


快斗の手のひらに小さな魔法陣が出現し、そこから黒く丸いものが飛び出した。


「なんだそれ?」

「まぁすぐ分かるって。」


快斗は魔神因子を引っつかんで足に力を集める。姿勢を低くし、走り出す体勢へと変化。


あるれ出てくる謎の気配に、高谷が猛烈に嫌な予感を感じるが、とき既に遅し。


「入れる時は……こうだ‼」

「え……ぐほぉ‼」


凄まじい勢いで、快斗が高谷の腹に魔神因子を入れ込んだ。くの字に曲がったまま、高谷は数m吹き飛ぶ。口からは少なからず血が出ている。


「げほ……げほ……」

「大丈夫か〜?」

「ごほ……死にそうなんですけど……うぐ……」


先程の衝撃と、魔神因子が入り込んでくる痛みと違和感で、口からの吐血が止まらない。


「朝から何やって……て、え⁉高谷君⁉何で血吐いてるの⁉」

「いや、ごほ……大丈夫だ……げぼ……すぐ…治るから………ぐふ……」

「全然大丈夫そうに見えないけど⁉」


店から寝巻き姿で出てきた原野が高谷の体の心配をする。高谷は原野の肩を借りてなんとか立ち上がり、吐血も少しずつ治まってきた。


「どうせまた快斗君でしょ。」

「何でもかんでも俺のせいにすんなよな。まぁ今回は俺だけど。加減できなかった。」

「加減とかの問題じゃないでしょ⁉ほら、高谷君に謝って。」

「ああ。済まねえ高谷。もう少し加減すべきだったな。」

「ああ。生きてるから問題ねぇよ。因子は、入ったぽいな。」

「そうだな。」

 

高谷の腹を触って、快斗がそれを確かめる。


「でも……俺ほどしっかりとくっついてないな。」

「なんでだ?」

「分からん。まぁでも、これで少しは強くなっただろ。」

「そうか。」

「原野もやるか?」

「やらないよ‼そんな痛そうなこと。」


原野がプンプン怒りながら反論する。それを笑って流して、快斗は店に戻る。


「んじゃ、朝飯アンド変装のため、店にもどんぞ。」

「分かった。」

「うん。」


店に入ると、カウンターの奥で、ルーネスとヒナが睨み合っていた。


「朝食はパンが普通だと何度言えばわかるのですか。」

「いーえ‼朝食は白米です‼これは譲れません‼」

「平和だな。」

「本当に追われてる身なのか分からなくなるよ。」

「よく俺の両親も同じような事で喧嘩してたな。」


ルーネスとヒナの光景を、自身の両親と重ねて、快斗は懐かしく感じる。休日になると、必ず朝食の件で口論を交わしていた父親と母親。毎回くだらない、と無視していた光景が、こんなにも懐かしく感じるとは、快斗も思っていなかった。


「快斗様方はどう思われますか?朝食はパンですか?白米ですか?」

「白米ですよね⁉」

「う……えっと…」

「俺はパンー。」

「私は白米ー。」

「高谷様は?」

「ええと、」


高谷は悩んだ末、ルーネスとヒナを交互に見て、


「パンにしよう。」

「やはりそうですよね。」

「ええ⁉なんで⁉高谷さん、裏切ったんですか⁉」

「もともとヒナの仲間じゃないよ俺は。」

「なんて酷いことを‼」

「おーい早く準備してくれーぃ」

「そうだそうだー。」

「はい。今準備いたしますね。それと快斗様、快斗様がくださった果物で新しいお酒が出来上がりました。お飲みになりますか?」

「お‼マジで⁉飲みたい飲みたい‼」

「朝から飲酒?」

「いいだろ?法律で決まってねぇんだから。」

「いや、快斗この世界だとまだ未成年だけどな。」

「え?そうなの?」


この世界の法律を知らない快斗は、出された新酒をグビグビと飲み干す。アルコール度は少し高めだが、その耐性が強い快斗は全く影響がない。


「はーうめー‼やっぱルーネスさんのつくる酒はうめぇな‼」

「あらあら。有難うございます。」


ルーネスは快斗が空にしたコップに更に酒を追加する。そしてそこに朝食が登場し、テーブルの上が賑やかになった。


雑談を交わしながら朝食を終え、変装をかけ直してルーネスが言っていた鍛冶場へ向かう。


王都は以前の街と同様、方角どおりの大通りが4つあり、その真ん中に城がある。そしてその城の前、そこに4つのギルドがあり、冒険者達が行き来をしている。


城に近づくにつれ、建物が豪華になり、貴族のような人々が出歩いている。


そして、北通りの最奥、壁に触れる寸前に白い大きな建物があり、大きく『救』と言う文字が書かれた旗を掲げている。王都のメサイア神殿である。


「趣味悪ぃな〜。」

「快斗。あんまりそういうこと言わないほうがいいぞ。メサイアは世界的にも大きな団体で、人々から厚く信仰されてるからな。」

「そういう言葉を聞いて暴行する人も少なくないって聞いたよ?」

「マジかよ。どんだけだよメサイア。」


悪態をつきながら、街の中を歩いていく。すれ違う人々は皆、それぞれの挨拶を快斗達に言い、それに「こんちわ〜」と返していく。


なんにもすれ違っているというのに、誰も快斗達だと気付いていない。この世界の人の探し方は、容姿ではなく、色で判別しているようだ。色と声を少し変えただけで、住民は誰も気が付かない。


「お、高谷。武器屋があるぞ。」

「マジで?おおー‼リアル武器屋‼夢にまで見た武器屋だぜ‼」

「武器屋の夢を見たの?」

「取り敢えず、入ってみるか?」

「行こうぜ行こうぜ‼」


快斗が発見した武器屋に入って行く。


「いらっしゃ〜い」


武器屋の中には、大量の剣や槍や弓などの、よくある武器が並べられていた。カウンターの奥には、ボサボサの髪を気だるそうにいじりながら一枚の紙を眺めている男が座っていた。


「おー。ふつーじゃね?」

「思った通り過ぎたな。」

「こんなに武器があるんだね。」


原野が小さな探検を手に取る。軽さは普通で鋭さは十分。新品である。ただ、


「メサイアから支給された武器の方が軽い気がする。」

「あっちは違う金属を使ってるんだろうからな。普通の武器よりも性能がいいのは当然だろ。」


快斗と原野はテキトーに武器を見ながら雑談を交わす。高谷はいくつか武器を眺めて、一つの剣に興味を持った。


「おお。何だこれ?」


いくつかの普通の鉄剣が無造作に入れられている剣入れに入っていた、なんの変哲もない刃の薄い剣を見つける。柄と刃と間には大きな穴が空いており、耐久力はそこまで高いとは思えない。しかし、


「銀貨5枚…………快斗、銀貨5枚くれねぇか?」

「んあ?それ買うのか?」

「なんかそれ、すぐに折れちゃいそうじゃない?」

「いや、何かこれがいいんだよ。惹かれたっていうか。」

「一目惚れってやつか。原野も頑張らないとな。」

「な、なんのこと⁉」

「その誤魔化し、バレバレだからな。」

「ううぅ……」

「?」


高谷は快斗から銀貨5枚を受け取り、カウンターの男性に会計をしてもらう。


「小僧、買うのはこの剣でいいのか。」

「はい。なんとなく、それがいいんですよ。」


高谷がそう言うと、その男性は笑って、


「こいつぁ俺が作った剣だ。大切に使ってくれ。手入れは欠かさずにな。砥石と鞘はタダでやる。今まで俺の剣に目をつけてくれたやつはいねぇからな。サービスだ。」

「有難うございます。」


鞘に入った剣と、手のひらに乗るサイズの砥石を貰い、それらを懐にしまってから快斗達は外に出る。


「そんな剣で大丈夫か?」

「何度も言ってるだろ?これがいいんだよ。」

「高谷君のセンスがよくわからない。」

「俺も。」

「いいだろ別に。」


高谷は腰に鞘を取り付けて、歩きやすいように調整する。いつでも抜けるような形にして、剣を撫でる。


「じゃあ、行こうぜ。」

「おう。」

「もうすぐそこだね。」


三人は、雑談を交わしながら、鍛冶場に向かって歩き出した。その光景を、住宅の上から見下ろす影がいる事も知らずに。

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