第21話 セシンドグロス王国到着
快斗たちが街を脱出した同時刻、エレスト王国王都、メサイア本部にて。
「…………ふむ。」
思い悩んでいる老人が一人。老人と言ってもその体つきはたくましく、今の若い冒険者にも引けを取らない程で強靭な体を持っている。
「やはり、何者かに殺害されたと考えるべきでしょう。」
「そうなるだろうな。」
その老人に横から言葉をかける女性。手には何かの資料を抱えており、秘書、と言ったところである。
「最弱と言えど、そう簡単に死ぬことはないと思っていたが……。」
老人が、8つの丸い宝石を見つめながら呟く。それぞれ独特の色の光を放っているが、その中で一つ、光を灯さない物がある。
「よもや、神によって送り込まれた新人に殺されたことはあるまいな?」
「彼らが全員でかかったとしても、この短時間で『八番』を殺すことなど、不可能です。それに、『四番』もついております。おそらく、新たに現れた悪魔の仕業かと。」
「そうか……。魔神の駒、とやらか。」
老人は頭額に手を当てて考える。そして、おもむろに立ち上がると、その8つの宝石の真ん中にある水晶に向かって、
「そちらはどうだ?『四番』。」
と語りかけた。すると、水晶に何やら浮かび上がり、そして、大きなクレーターが映し出された。
『はいはーい。こちら四番です。現在、悪魔は裏切ったメサイアの隊員二名と、酒屋の店主と共に逃亡中です。街中を冒険者たちが探し回っているのですが、未だに見つかっていないので、おそらくは……』
「もうその街にはいないと言うわけか。」
『その可能性が高いです。』
「そうか。」
老人は天を仰いだあと、机の上のコップの中の水を飲み干して、
「神々の遊びに付き合うほど、我々は親切ではない。やつを見かければ、即、殺せ。これ以上、人々を殺させるわけにはいかん。」
『了解でーす。では私は街の復興に当たりますので、ここらで失礼させて頂きまーす。新人達の治療もあるので。』
「そうか。頼んだぞ。セシンドグロス王国には、お前しか幹部がおらん。慎重に行動せよ。」
『分かってますって。』
水晶越しに、向こう側の女性は手を振ったあと、ニッと笑って、
『このアシメルにお任せください‼容姿は報告した通りなので、全国に拡散してください。』
「分かった。では。」
『はい‼』
通話を終えて、老人はため息をつく。女性がコップに水を注ぎ、
「また、新たな幹部を探す必要がありますね。我々の、悲願のためにも、もっと戦力を集めなければなりません。」
「…………わかっておる。」
老人は立ち上がり、その部屋から立ち去る。
「ルージュよ。資料の片付けは任せたぞ。」
「承知いたしました。」
ルージュと呼ばれた女性は礼儀正しく礼をしたあと、机に向かって、作業を始める。
老人はその姿を確認したあと、ベランダにでて、夜空を眺める。そして、大きなため息を付いて、
「我らの悲願のため……か。さて、どうなる事やら。」
静かに呟きながら、煙草をすって、ゆっくりと煙を吐き出すのだった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「快斗、見えてきたぞ。あれが王都だ。」
「おおー、でけー。」
「壁がすっごい高いね。」
「久々に見ました。やはり王都というだけあって、迫力はあの街とは大違いですね。」
快斗達は今、セシンドグロス王都まで、通じる道をゆっくりと歩きながら進んでいるところだ。
キューの体で進んでいたのだが、三日間も歩き続けていたので、キューの魔力が切れかけたため、全員徒歩で向かっているのである。現在、キューは原野の腕の中でぐっすりと眠っている。
「さてさて、どこに剣があるのやら。」
「剣といえば鍛冶屋とかを思い浮かべるが………。」
「確か王都には王宮鍛冶士みたいなのが居るんだよね?」
「そうだったな。じゃあそこに送られてるのかな?」
「多分な。俺の剣は他の剣とは格が違う、はずだ。使ったことないからわからないけど、多分その王宮鍛冶士に送られているはず。そいつは何処にいるんだ?」
「さぁ?」
「王都にいるとは聞いたけど……」
「それでしたら、城の横にある神殿のような場所に向かってみてください。そこは大きな鍛冶場なので、その鍛冶士もいると思いますよ。」
「マジか。んじゃそこに行くで決定な。」
「「了解。」」
一行は、王都に入る大きな門の前まで近づき、入ろうとしたところで、
「交通量、銀貨三枚だってよ。」
「私お金もってないけど………。」
「俺もないな。快斗は?」
「あるぜ。俺が払う。」
快斗が金銭袋から銀貨を取り出して、門番に渡しに行こうとした時に、
「待ってくださいませ。」
「んあ?どッたのルーネスさん。」
「いえ。恐らくですが、私達の容姿は、メサイアによって世界中に広まっているはずです。そのまま入ればきっと………」
「なるほどバレるってか。」
「左様でございます。」
「どうする?」
高谷が快斗に聞く。快斗は少し考えたあと、
「あー俺変装できる能力あるわ。」
「マジか。それかけてくれよ。」
「おう。でも色変えたり、声変えたり出来るだけだから、姿は変わらないけどな。」
快斗はそう言って、全員の肌、髪、瞳の色を変えた。
快斗は赤髪に黒瞳。高谷は白髪に赤瞳。
原野は金髪に緑瞳。
ルーネスはエメラルド色の髪とピンクの瞳である。
「これでよし‼」
「なんか俺厨二臭い格好だな。」
「なんで、私こんなに派手なの?」
「あら、これはこれでなかなか良いものですね。」
「キュ、キュイ?」
一行は各々の感想を言う。キューは、皆の変わりように驚きながら、快斗のフードの中に蹲る。
「取り敢えず、これで大丈夫だろ。」
「まぁいいか。こういう格好してみたかったし。」
「か、かっこ、いい、よ?」
「ん?あぁ、ありがとう。」
「うん……。」
「お前ら、王都の前でいちゃつくんじゃねぇよ。」
「んあ?」
「ご、ごめん。」
「では、行きましょうか。」
一行は、門番の所まで進んで、金を渡す。
「これで入れる?」
「ああ。足りてるな。銀貨三枚いただくぜ。あと、最近セルス街で悪魔が出たらしいぞ。この王都にいるって話だから、小僧気をつけろよ。」
「お気遣いありがとさん。」
そうして、何もなく、王都に入り込めたのであった。
「ね、ねぇ、私のこの格好戻してよ。恥ずかしいんだけど……」
「この世界だったら普通にいるぞ?あんまきにすんなって。それに、今直したらバレるだろ。」
「うぅ、しょうがないか……。」
赤面しながらついてくる原野。それを見た快斗が、
「高谷と話してるときのほうが顔は赤いな。」
「な、何言ってるの⁉」
冷やかされた怒りで更に原野が赤面する。その反応に笑いながら、
「んじゃ、行くか。その鍛冶場ってとこに。」
「その前に宿じゃね?先に探したほうがいいだろ?」
「あぁ、そうかもな。」
「それならば、良い場所がございます。」
そう言って、ルーネスが歩いていく。その後に快斗たちも続き、いくつかの裏道を通って、小さなバーのような場所につく。
「こちらです。」
「んあ?バー?」
「バー風の、宿なの?」
「入っていただければわかります。」
中に入ると、小さな少女が本を読みながら、カウンターの奥で座っていた。
「あれ?お客さんですか?」
「久しぶりですねヒナ。お店は繁盛していますか?」
「え⁉ルーネスさん⁉ななな、なんでここに⁉」
「この王都に用があったので、宿を探していたんですが……ただの宿だと、ボロが出そうなので。」
そう言ってヒナと呼ばれた少女に後ろの快斗達を見せるルーネス。ヒナは首を傾げたが、快斗が「あぁ。」と気づいて、変身を解く。白髪に赤青の瞳の、鋭い牙に黒と灰色の服。それを見て察したのか、ヒナの顔色がみるみるうちに青くなった。
「ちょ、ちょっとルーネスさん?なんて人たちをうちに呼んでいるんですか⁉」
「いいではないですか。他に泊まるところもないですし…」
「だからって‼うちを選ぶなんて‼ここに止めていることがバレたら、私は……この店やっていけな〜い‼」
「やるやらない以前に、ここあんま繁盛してないように見えるが?」
「んなっ⁉失礼ですね‼夜になったら、フラフラになったオジサンやおばさんが来てくれるんですよ⁉たまに私を可愛いって言ってくれるおじさんもいます‼」
「それは多分、ロリコンじゃないかな?」
「ロリコン?なんかよくわからないですけど、侮辱だっていうのはわかりますよ‼」
「まぁまぁ落ち着けって。」
高谷の毒舌に怒るヒナを快斗がなだめる。少し落ち着いた頃に、ヒナが「ゴホン」と咳払いをして、
「私はヒナ。ルーネスさんの一番弟子であり、ここセシンドグロス王国王都の『怒羅』の店主です。」
「俺は快斗だ。よろしくな。大丈夫だ。いきなり魂は喰わねぇからよ。」
「魂喰うとか言っちゃうんですか⁉」
引き目で快斗を見つめているヒナに呆れながら、高谷と原野も自己紹介を終える。
「では、いいですねヒナ。ここに空いてる部屋はありますか?」
「あ、ありますけど。…………ベッド2つですよ?」
その言葉を聞いて、原野が赤面する。高谷が首を傾げ、快斗が冷やかす。
「な〜に考えてるのかな?ベッドって聞いただけで赤面するってことは?」
「う、うるさいわね‼何もないから‼」
そんな感じで騒いで荷物を置き、夕飯、風呂を済ませ、部屋に戻った。
「誰がどこで寝る?」
「う〜ん。俺があのカウンターでもいいぞ。割とどこでも寝れる体質だからな。」
「わ、私もそうしようかな?」
「何を狙ってるんだね?原野くん。」
「何も狙ってないから‼」
「じゃあこの部屋は俺とルーネスさんで使うか。」
「良いのですか?メサイア、いえ、『
「大丈夫ですよ。」
「え?椅子じゃなくて床に寝るの?」
「とにかく、行ってこい。」
「分かった。じゃあおやすみ。行こうぜ原野。」
「う、うん。じゃあ、おやすみなさい。」
「おう。おやすみ。」
「おやすみなさいませ。」
部屋から原野と高谷が出ていき、快斗とルーネスはそれぞれのベットに潜った。快斗の枕の横には、キューが座っている。
「割と波乱万丈なんだよな。」
「ふふ。そうですね。でも、こうゆうのも楽しいじゃないですか。」
「まぁ確かにそういうのもあるけどさ。やっぱり落ち着いて暮らしたいな。」
「あら、魔神の駒と名乗った悪魔が意外なお言葉を。」
「まぁ最初から穏やかに暮らせないと思ってたけど、まさかここまで騒がしくなるとは思ってなかった。」
「でも、楽しいでしょう?」
ルーネスに窘められるように聞かれ、少し考えたあとに、
「確かにそうかもな。」
と快斗は呟いた。ルーネスはその言葉に安心した様に笑い、目を閉じた。快斗も目を閉じて眠りに着こうとしたときに、最後に思ったことを口にした。
「…………何?『
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