第18話 クレイムとの戦い1
「ハァア‼」
「フ……‼」
快斗とクレイムの足がぶつかり合い、強い衝撃波が生まれる。周りの血の池が波立つ。
「『断炎魔爪』‼」
「『救血聖爪』‼」
快斗は赤黒い炎をまとった爪でクレイムの足を斬り裂こうとするが、快斗の爪よりも長い神聖属性の鉤爪に防がれる。快斗は知らないが、普段使っている魔術は、火炎魔術と闇黒魔術を掛けたもので、神聖属性とは相性がいい。互いに弱点同士の魔術での戦いである。
「『爆聖』」
クレイムがそう呟くと、クレイム自身が発光し、爆発する。予想外の攻撃方法により、快斗はモロに爆撃を受ける。悪魔の体は神聖属性に弱い作りとなっており、全身に受けた快斗のダメージはなかなかのものである。
「く……は……クソッタレぃ‼いってぇじゃねぇか軟体生物‼」
「その呼び名は初めてですね。誰でも柔軟すれば、ここまで柔らかくなれますよ。」
快斗は、追撃で迫ってきた鉤爪をしゃがんで躱し、クレイムの足をけろうとするが、跳んで躱される。その回転の勢いのまま、『剛力』を発動した右手で胴を殴る。両手でガードされたが、クレイムの右手の肘関節から、腕がおかしな方向を向いている。
「ハァア‼」
「フ……」
快斗は追撃で回転して蹴りを放つが、驚異の柔軟性で体をそらされ、躱されてしまう。そして、瞬時に立ち上がったクレイムが鉤爪を上から快斗に叩きつけるが、魔力でできた魔塊で受け止める。
「ほう……この一瞬でそんなこともできるのですね。」
「バーカ。一瞬でできるわけねーだろ。最初から用意してんだよ。」
「なるほど。」
快斗は魔塊で鉤爪を弾き、更に2つ追加して、クレイムの胴に放つ。真っ向からの攻撃なので当然躱されるが、追尾性を持たせているので、空中に跳んだクレイムに3つの魔塊が向かう。
「『聖魂鞭』」
クレイムは両腕を白い光で包み、人間では考えられないほどの長さに伸ばして鉤爪で魔塊を斬り刻んだ。完全に関節を無視した動き。全身の骨の存在を疑うほどの動きは固有能力、『温柔な聖人』による物である。
「どこぞの海○王だよ⁉」
「?何を言っているのですか?」
逆さで放たれた斬撃をなんとか躱して快斗が叫ぶ。クレイムはなんの事か分からずに首を傾げている。
「『炎槍』‼」
放たれた炎の槍は身体を反らされることで簡単に躱される。その好きを狙って『瞬身』で移動したあと、踵落としを繰り出す。
「あたりはしません。」
クレイムは快斗の足を掴んで振り上げる。
「なっ⁉」
「『回転・王の鞭』」
そのまま異常なまでに伸ばされた腕を高速で回転し、小さな竜巻を作りながら地面へと快斗を叩き落とす。神聖属性も付与されていたため、快斗は浅からぬ傷を負う。
「くっは……。チクショウ‼オラァ‼」
「ッ⁉」
快斗は足を掴んでいるクレイムの腕を掴み、ブレイクダンスの要領で、頭を軸として、高速回転をし始める。予想外の行動に瞠目したクレイムは、掴まれている腕に引っ張られ、地面を転がる。
「オオオラァ‼」
「ぐっ⁉」
その回転の勢いのまま、クレイムは縦に地面に叩きつけられる。頭部から血を流しだす。
「チッ……ハァア‼」
「ラァ‼」
クレイムと快斗は再びぶつかり合い、爪と爪で火花を起こす。快斗は目を凝らし、高速で迫りくる鉤爪を流し、躱し、防ぐ。下からの斬撃は踏み殺し、上からの斬撃は相殺。右からの斬撃は上へ流し、見だりからの斬撃は躱す。
鍛え上げられた腹筋に『剛力』を付与した右拳を叩き込む。
「ぐっ………」
口から血を吐き出しながら、クレイムが苦しむ。しかし、快斗の攻撃後の隙を見逃すことはなく、下から顎に向かって蹴りを放つ。
なかなかの威力もあり、少し後ろへ押される快斗。その目を血走らせて、再び突っ込む。先程よりも速い攻防が繰り広げられる。
躱して跳んで突く。防がれ、カウンターをくらい、腕から出血。しかし止まらず、周りを駆けて爪の斬撃を叩き込む。鉤爪で防がれるが、その時にガラ空きの胴に蹴りを入れる。
その勢いで空へ跳び、『炎槍』を3つ放つ。すべて鉤爪で叩き斬られ、赤い粒子が地面へ落下。そこからいくつかの腕が生え、クレイムを拘束しようとするが、跳ばれて回避。
『炎玉』をいくつか放ち、それらのすべてを先回りし、クレイムの首筋に拳を入れる。しかし、かがまれて回避され、回転したクレイムの踵が視界の右に現れ、途端、横向きの強い衝撃で体が吹っ飛ぶ。
体制を整えて着地すると、眼下から鉤爪の刃が迫る。首を横にずらして躱す。頬と髪が数本持っていかれ、鮮血が流れ出る。
再び目の前に迫りくる刃が、今での速度とは非にならない速度で快斗の顔を捕らえる。手を出して防ぐことも、躱すことも出来そうにない。快斗がとった行動は、
「あぐっ‼」
「なっ⁉」
鉤爪の真ん中、一番長い刃を、鋭い歯が生え揃った口で噛み止める。そのまま体をねじり、その刃に集中的に圧力をかけ、
「くっ……」
「よっしゃ‼」
半ばから盛大にへし折った。口に入り込んだ鉄の破片を吐き出し、宙を舞う折れた刃を掴んで、切っ先をクレイムのうなじに突きつける。
首をずらされて躱され、勢いのまま地面に突き刺さった刃が割れる。
「凄まじい破壊力ですね。よもやこれほどとは。」
「ヘッ‼あんま舐めてくれんなよ‼」
「当然です。あなたは強い。それは私が保証しましょう。たった一ヶ月森にこもっていただけで、あの数の敵を圧倒しておいて、まだ全力では無いんですから。」
「やっぱ気づいてやがるか。」
高速に放たれる攻撃の中、二人の強者は余裕を持って会話する。不自然に伸び縮みを繰返しながら繰り出される攻撃を相殺、回避を続け、クレイムの懐に高速で潜り込む。
クレイムは驚異の反射神経で快斗の腹に膝を捩じ込むが、その痛みを無視して、快斗は『剛力』を発動した右手をクレイムの腹に放つ。
回避不能な距離と速さ故に、クレイムはモロに拳を食らう。くの字に体が曲がり、殴った箇所から衝撃波が反射して返ってきて、快斗の体の中をかけ向け、両者、一瞬動きが止まる。
クレイムは、少なからず受けた内臓へのダメージを無視して、血を吐きながら、鉤爪の刃を快斗の首を振るう。が、
「『魔技・苦痛の輪廻』」
「ッ‼が……」
快斗が、口角を釣りあげで呟く。すると、クレイムが今まで快斗から受けた痛みが数倍になってクレイムにのしかかる。
溢れ出る倦怠感と嘔吐感に耐えきれず吐血。軋む骨と震える内臓に無理をしいながら、快斗から距離を取ろうとする。しかし、
「行かせるかよ。」
「くっ⁉がっ‼……」
快斗がクレイムの胸ぐらを掴み、背負投を繰り出す。地面に背中から叩きつけられ、全身の骨と内臓に衝撃が走り、吐血が止まらない。背骨には少しヒビが入る。
「もう、いっちょ♪」
「ぐは……う…ぐっ⁉」
快斗は地面にめり込んだクレイムの腕を掴み、上へと体を放り投げ、足を掴んで縦に三回転そのまま地面へ叩きつける。先程よりも強い衝撃が走り、いくつかの内臓が、破裂する。背骨は俺、衝撃で肋骨が数本終わる。
「は……流石悪魔。その力と残虐さは私の想像以上です。」
「褒めてんのか?それ。」
「もちろん。」
血を吐きながらも、両者は軽口を叩きあう。快斗はそれ程でもないが、クレイムは単純に重症である。それでも軽口を叩く余裕があるということは、
「フ……」
「やっぱ回復手段ありと。」
クレイムは右手の親指と薬指をくっつけて手首を外側に曲げる。パチっと音がすると、クレイムが白い光に包まれる。咄嗟に距離を取る快斗。
「どこに仕込んでやがんだ?」
「単に服の下に用意していただけですよ。下と言っても、肌も超えますが。」
傷口や折れた骨が完全に修復され、完全体となってクレイムは立ち上がる。
「その重症な体を完治ってことは、相当お高い物仕込んだんじゃねぇのか?」
「そうですね。なかなかのお値段ではありましたが、悪魔退治とならば仕方のない事です。これも世の平和の為。悪魔を駆逐するためです。」
クレイムはそう言い放って立ち上がり、鉤爪を構える。先程とは違い、魔力が溢れ出している。目の前の物を排除しようとする無機質な目を快斗へ向け、静かに宣告する。
「様子見はここまでです。あなたの能力は大方把握させて頂きました。本気で行かせていただきます。これでもメサイア幹部最弱ですが、あなたを葬るには十分です‼」
「それはどうかな。まぁ俺もそこまで能力に自信はねぇけど、お前には負けねぇぜ。なぁキュー‼」
「キュイキュイ‼」
フードの中に隠れていたキューが飛び出し、威勢よく答えた。すると、快斗の後ろから大きな爆発音と、人々が大きく叫ぶ声が。
「なんだぁ?」
「キュイキュイ‼」
キューが快斗の肩に乗って慌ただしく叫ぶ。快斗は思い出す。その方向に逃げていった高谷と原野のことを。
「時間はそんなにねぇみたいだな。俺も本気で行くぜ。」
快斗はニヤリと笑うと、
「『獄怒の顕現』‼」
自分の限界を解除する。黒い魔力が溢れ出し、右目を中心に黒く十字架が描かれる。魔力で翼が形成され、黒い稲妻を帯びる。
「なるほど。かなりの強さだ。あの火炎魔術を放てたことにも納得できます。あなたの知り合い共では到底及ばない。」
「当たり前だろ。俺は悪魔。魔神の因子を持ってる最強の悪魔だ。」
「では、その悪魔を、私が葬ってみせましょう‼」
「やってみろ。」
互いに睨み合い、覇気と魔力がぶつかる。大気は震え、街全体に緊張感が走る。
「メサイア幹部、クレイム・フレイドス。」
「魔神の駒、天野快斗。」
クレイムが名乗ったのを見て、アニメに出てくる、戦いの作法だと理解して快斗も真似る。
クレイムは鉤爪を高く構えて見下ろし、快斗は姿勢を低く構えて見上げる。
そして…………クレイムは左腕を失った。
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