第17話 戦闘3

「いってぇなクソ‼」


爆炎の中から火傷だらけの快斗が飛び出してきた。ナイフを逆手に持ち、内田の喉を斬り裂こうとする。しかし、内田の剣技はなかなかのもので、簡単に受け止められる。


「ハァア‼」

「ラァ‼」


内田の剣と快斗のナイフが交差する。火花が散るほど勢いよくぶつかり合い、両者ともに、切り傷を増やしていく。そして、


「『死鎖』‼」


ピンク色に発光した鎖鎌が、快斗の左足に絡まり付き、鎌がふくらはぎに刺さる。


「づあ⁉」

「オラァ‼」


蛯原が思いっきり鎖を引っ張る。鎌がさらに深く刺さり、痛みが増す。崩れた体制に、内田が追い打ちをかける。


「あぐっ⁉」

「散々クラスメイトを傷つけたバチだ‼」


快斗はナイフを砕かれ、右手に深い切り傷を作る。血が飛び散り、弱くなった力で必死に留まろうとするが、長が加勢して、鎖の力が強くなり、そちらに引きずられる。更に魔力が流され、快斗の力が一瞬極端に弱まる。


「よし‼お前ら‼アレ行くぞ‼」

「了解‼」

「分かった‼」

「おまかせ‼」

「やったるぞ‼」


内田が叫ぶと、全員が懐から小さな石のような物を取り出して、魔力をありったけ流した。


「「「■&%@○▲‼‼」」」


快斗には理解ができない言葉でクラスメイトが叫ぶと、石が発光し、そこから七色の糸が出現。快斗に絡まりつく。途端、


「ぐおっ⁉」


魔力、怨力ともに使用が出来なくなり、倦怠感、嘔吐感を感じ、体は重く、力は入らない。


これは、クラスメイト達が学んだ動作不能魔術、『不動の糸』である。発動には、十数人の魔力が使える者と、メサイアが管理している救石という石が必要なのである。クライムが一応と、全員に渡してあった救石が、役に立った瞬間である。そして、


「行け‼高谷‼」


高谷が動けなくなった快斗の前に移動する。懐から取り出したのは、他のクラスメイトが持っている石とは別の石、翔石である。


「マネラ・シソ・ナンテラマ・ルグ・ルナ‼」


そう叫んで、翔石に魔力をすべて注ぐ。淡く発光し、出来上がったのは一つの白い剣、翔剣である。これは、魔力が最大である者しか使うことができず、クラスメイトの中で魔力が最大なのは、高谷しかいなかったのである。


「最期だ。快斗。」


白く輝く剣先を快斗の顔に向けて宣言する高谷。顔は少し寂しそうな表情をしている。その顔を見て、快斗は少し笑った。


「あ?」

「何そんな悲しそうな顔してんだよ。高谷。」

「いや、だってそりゃ、生前仲良かった友達を殺すんだぜ?そりゃ悲しくなんだろ。」

「ハハハ。それ本気で言ってんのかよ。」

「どゆこと?」

「俺はまだ死なねぇよ。駒として使われてっからな。多分死んだら魂だけボコボコにされる。」

「?」

「まぁそれは良いとして、俺は死なねぇ。お前がもし俺に剣を振るったとしてもな。」

「…………んあ?」

「よく回り見てみろって。」


高谷は言われたとおり、周りを見渡す。クラスメイトを順順に見ていき、あることに気づく。そして、自分、快斗、その先にいる内田を見てピンときた。


「…………あぁなるほどね。よく計算したな。ホントに偏差値80かよ。」

「ハハハ。それ以上あるかもな。」


清々しい笑顔を見せる快斗。その顔を見て、脳内で昔の快斗の笑顔と今の快斗が重なり、懐かしく感じる高谷。


高谷は、目を閉じる。魔力を研ぎ澄まし、剣の魔力と切れ味を底上げする。周りに白い魔力が溢れ、高谷と快斗を包みこむ。


すると、快斗の体中の傷がみるみるに塞がっていく。そのことに快斗は瞠目し、クラスメイトは驚愕している。


「何してんだよ高谷‼早く仕留めろよ‼それに回復なんてさせたらこっちの魔術が持たねぇよ‼」

「バカ谷が‼余裕だからって的に猶予与えてんじゃねぇぞ‼」 


長と蛯原が叫ぶ。その二人を高谷はちらっと見たあと、快斗に向き直り、剣先を下ろした。


クラスメイトが一斉に「早く殺れ‼」と叫び始める。原野だけが、不安そうな顔で高谷を見つめる。その視線に気づいた高谷は、ニコッと笑って視線を上に向け、天を仰ぐ。吹っ切れたように綺麗な笑顔をしながら。


そして、快斗に向かって、少し申し訳なさそうな表情を向ける。その意味を感じ取った快斗は、小さくニヤける。苦笑いをしながら、高谷は快斗に向かって、


「最初にも言ったけど、やっぱり俺はお前を倒せそうにないな。どんな状況でも。」

「学力も体力も劣るお前が何故勝てると思ったんだよ?」

「痛いところつくなよ。生きる気なくなるだろ?」

「ハハハ。まぁお前は最初からそうなるって信じてたけどな。」

「ホントかよ?」


快斗と高谷は、休み時間の会話のように、軽く話し始めた。その二人を見て、怒り心頭したのか、長が、


「バカ谷‼さっさと殺れよ‼俺たちに縛らせてお前はお喋りかよ‼死ねよ‼あとでしばいてやるからな‼これだからバカ谷は‼」

「…………長。」


高谷は真顔で長の方に体を向ける。


「なんだよ?バカ谷。」

「ハァ……お前さ。快斗に向かってさっき『変なアニメ見てるから』とか言ってたよな?」

「あ?それがどうした‼さっさと殺れよ‼どうでもいいんだよそんなこt………」

「どうでもよくねぇよ。俺にとってはよ。」


高谷は剣先を長に向けて言い放つ。普段人の前で怒らない高谷の意外な行動に、少し長は動揺する。


「お前さ。知ってる?なんで快斗がその『変なアニメ』が好きか。」

「あ?知らねぇよ‼」


高谷は、明らかに苛ついた表情で長を睨む。そして、投げかけた質問の答えを言い放つ。


「それはよ、俺が快斗に勧めたからだよ。」

「…………あ?」

「あのアニメは、俺が大好きだから快斗に勧めた物だ。それを『変なアニメ』って言ったってことはよぉ。俺が好きなアニメの存在を否定したってことだよなぁ?そうだよなぁ?」

「は、はぁ?」

「あのアニメの素晴らしさにも気づけない愚図が、ツバばかり飛ばすキチガイが、人のこと馬鹿にしないと気がすまない雑魚が、何も知らない癖にあのアニメを馬鹿にすんじゃねぇ。あれはもはや俺の人生の大黒柱だ。それを馬鹿にすんのか?良い度胸じゃねぇか。死にてぇよぉだな。愚図。生きてる価値もねぇゴミが。生まれてきた意味さえないカスが。お前を殺したい。ウザい。憎い。死ね。死ね。死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね。死ねよ。クソ人間。滅びろアンチ。死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねぇ‼」

「………え。」


意外すぎる言葉に長が唖然とする。そうなのだ。快斗が生前によく見ていたアニメは、高谷が勧めてきたアニメなのだ。


実は高谷は学校一のアニオタで、自分がハマっているアニメをアンチするネット上の人間を片っ端から通報&論破している。また、なかなか話術が凄くて、口論をした人間はだいたいそのアニメにハマっている。


快斗は勧められたので見たのだが、一発でハマった。それからは何度かイベントなどに参加している。


高谷にとって、そのアニメは人生を救ってくれたものと豪語していたのだが、それを馬鹿にされると「そんな怒る?」と快斗が思うほどに怒るのだ。実際、快斗もアンチに対して死ねとは思うが。


「死ねよ。死ねよ。生きてんじゃねぇ。生まれてきてんじゃねぇよ‼愚図が‼」

「う、うるせぇよ‼そんなんどうでもいいだろ‼クズを殺せ‼」

「…………そんなん?」

「あ、長、やっちゃったね。お前はもう終わりだ。」

「あ?」


快斗が笑いながら言い放つ。長は一瞬首を傾げたが、前から発せられる膨大な殺気に驚く。


「俺の大切なものを『そんなん』って言い切るんだ。神さえも届かない領域のものに『そんなん』って言い切るんだ。」

「う、うるせぇ‼もういい‼俺がクズを殺っt…………。」

「るせぇのはてめぇだよ。死ね。」


そう高谷が俯きながらつぶやくと同時に、その姿が消える。長が驚いて辺りを見回そうとしたとき、違和感があった。


(首が、動かない?)


どこからも押さえられていないのに、首が回ることはなかった。疑問に思っていると、なぜだか視界が下がっていき、衝撃と共に、視線が回って上に向く。


「…………あ?」


そこに写ったのは、首から上をなくして力なく倒れる自分の体と笑いながら見下ろす高谷の姿が。


(ッ⁉な……)


それで、長の人生は幕を閉じた。周りからは悲鳴が飛び交う。高谷は消えかける翔剣を最後に掲げて、快斗に巻き付いている『不動の糸』を叩き斬る。


「おい‼何してんだよ‼」

「裏切りやがったな‼」

「クソッタレが‼行くぞみんな‼」


クラスメイトが血走った顔で快斗と高谷に殺到する。


「高谷君‼」


原野は、嘆くような顔で高谷を見る。高谷は残る魔力で高速移動して、


「すまん。やっぱりお前は必要みたいだ。一緒に来てくれるか?」

「…………守ってくれる?クラスメイトから。皆から。この世界の、私達を狙う人達から。」

「あぁ。約束するよ。」

「じゃ、じゃあ、…………着いて、行く。」

「サンキュ‼じゃあこっち来い。」

「わぁ‼」


高谷は原野を片手で抱き寄せる。そのことに気付いて赤面する原野。高谷は少し強く抱き寄せたあと、快斗に向かって叫ぶ。


「いいぞ‼」

「あいよリア充‼キュー‼やってくれぃ‼」

「「「キューイー‼」」」

「「「ッ⁉」」」


快斗が叫び、それに答えるように可愛らしい鳴き声がいくつも重なった。そして、


「ぎゃあああ‼」

「いたあああい‼」

「なになになに⁉痛いよ痛いよぉ‼」


全員足を抑えながら同時に倒れた。まぁまぁ深い傷から、血を流している。


「ナイスだぜキュー。」

「キュイキュイ‼」


血を流して倒れるクラスメイト達の横、そこに座っている白い小さな生き物はキューである。新しく覚えた『分身』を使って、全員の足を一斉に噛んだのである。


「何が潜んでいるのかと思ったら、そんな小さなやつだったのか。」

「あ、可愛い。」


原野がしゃがんでキューを抱き締める。そんな原野を微笑ましく見つめる高谷。それを見つめながらニヤニヤする快斗。


「お、おい。高谷。助けろよ。」

「おね、がい。痛いからぁ、助けて。」


クラスメイトが次々と高谷の回復の能力を求める。しかし、


「い・や・だ」


高谷は煽りの感情を込めて言い放つ。その言葉に驚愕するクラスメイト。


「お前らは今から俺の敵だ。それに俺の血で回復すると、」


高谷が手を上げて、振り下ろす。クラスメイトが何をした?と首を傾げていると、少し遠くからバシュっと音がした。


なんだ?と皆がそちらを見ると…………

体内から赤い刃を大量に生やして死んでいる宮澤の姿があった。それを見て、何人かが気絶し、何人かが悲鳴を上げ、何人かは黙って驚く。


「こうなるけどいい?」

「クソッタレが……裏切るとか最低だぞ……高谷‼」

「変な噂立てて快斗を虐めてたお前のほうが最低じゃね?」


内田が怒り心頭な顔で高谷に言うが、高谷は嘲笑混じりで言い返す。


「クソ………が…。」


内田は痛みで気絶してしまった。他のクラスメイトも皆次々と気絶し、誰も起きていない空間が出来上がった。


「ナイス言い返しだったぜ。高谷。」

「そうか?結構、ダサい気がしたけど。」 

「ううん。スカッとしたよ。」


原野が笑いながら高谷に微笑む。それに高谷が微笑み返すと、原野は赤面しながらキューに視線を戻した。快斗がニヤつきながら、


「高谷。いつの間に美人とリア充になったんだよ?」

「はぁ?俺はリア充じゃねぇし。」

「じゃあなんで原野はこんなに赤面してんだろうな?」

「あ?熱かなんか出てんじゃねぇのか?戦いの緊張かもしれないし。」

「え?」


快斗は一瞬唖然のしたあと、後ろを向いてから小さくため息を付いてつぶやいた。


「まさか……ガチで気づいていないんじゃ……鈍感系のイケメン主人公?…………憧れでしかねぇよ‼クソッタレぃ‼」

「?」


嘆く快斗に?の顔で見つめる高谷。そんな明るい雰囲気の人達に、丁寧な敬語の言葉が投げかけられた。


「おやおや。皆寝てしまいましたね。高谷君の裏切りもありましたし、しょうがないのかも知れませんが、油断するなとあれほど言ったというのに。」

「…………。」


快斗の後ろから、白いスーツを着たクレイムがゆっくりと歩いて近づいてきた。その腕には鉤爪が装着されており、戦闘準備が整っているようだ。


「二人も死んでしまいましたか。まぁいいでしょう。ここからは、悪魔討伐、という事で私があなたを葬るとしましょう。」

「ハッ‼やってみな‼」


クレイムと快斗が睨み合う。クレイムの鉤爪に魔力が流され、淡く発光する。快斗は両手の上に『ヘルズファイア』を発動して、戦闘態勢に入る。高谷は原野と共に遠くへ走り、キューは快斗の左肩に乗っかって戦闘態勢に入る。


「天野君‼」

「アァ?」


原野が振り向いて、快斗に向かって叫ぶ。何かと聞き耳を立てると、


「私、勘違いしてた‼今まで天野君はクズだと、みんなが言うような最低な人だと思ってた‼ごめんなさい‼イジめる側の一人になってしまってごめんなさい‼」

「…………。」


快斗は少し黙ったあと、振り返って笑い、


「気にすんな‼謝ってくれるならそれでいい‼」

「うん‼」


原野は始まる戦闘の範囲外に出るためにもう一度走り始める。


「やっと、邪魔がいなくなりましたね。」

「あぁ。邪魔なしにお前を殺せる。ついでに、草薙剣の在り処を教えてもらうぜ。」

「そうでしたね。では、始めましょうか。」

「ふ、来い‼」


快斗の声と同時に、クレイムが跳び、快斗の爪と、クレイムの鉤爪が交差する。


メサイア幹部と、悪魔の戦いが、始まる。

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