第16話 戦闘2

「…………。」


静かに睨み合う快斗と内田達。睨むと言っても、内田達の方はどちらかというと嘲笑に近い表情である。


クレイムは「ほう……」と言いながら快斗をまじまじと観察し、高谷は少し悲しそうな表情で快斗を見つめている。


「おい。なんか言えよクズ。今のデカイ技放って力尽きたか?雑魚じゃねぇか。俺だったら三発は連射できるぞ。今ぐらいの技。」

「流石だな内田。やっぱ快斗とかいうクズとは違うな。なぁ、高谷。」

「あ?あぁ……そうかもな。」


蛯原と内田の悪口にぎごちなく乗っかる高谷。その光景を見て、快斗はため息をついたあと、


「お前らのその人をムカつかせる能力はどこで得るんだ?」


嫌味たっぷりの言葉を送った。内田と蛯原は一瞬快斗を見たあと、すぐにまた話し始めた。


「イキってるキッズがまた変なこと言ってるよ。何あいつまじキモいんだけど消えたほうがいいよね。」

「それな。キモすぎて引くよな。ウヒヒ。」


(お前の笑い方のほうがキモいだろ)と快斗は心の中で蛯原を愚痴ってから、立ち上がって片手を前に出す。


「一番ムカつくやつが来たってことで、とりあえずどれくらい強いのか見てやるよ。『鬼炎斬』。」


指を揃えて、横凪に払う。赤い炎の斬撃が内田たちに直進する。


「何偉そうに言ってんの?キモ。」

「こんな雑魚攻撃。避けるまでもねぇよ。」


内田と蛯原はそれぞれの武器、西洋剣と鎖鎌のようなもので『鬼炎斬』を叩き斬った。


「うむ。まぁこれは当たり前か。じゃ次行くよ〜。『鬼炎斬』。」


快斗は先程と同じように構え、手を横凪を振るう。放たれたのは『鬼炎斬』。しかし、先程よりも色は黒く、淀んでいる。


「汚。クズの心と同じやん。」

「それな。それにちょっと強くなっただけやん。雑魚。」


先程と同じように、内田と蛯原が叩き斬る。


「なるほど。じゃ次は連続で行くね。」


快斗は両手の指を揃えて少しためたあと、回転しながら横凪に振るう。


「『鬼炎香連連華散』。」


次々と赤黒い炎の斬撃が放たれる。内田と蛯原はその斬撃を叩き斬り、クレイムは不思議なステップで全ての斬撃を躱し、高谷は小さなナイフで受け流したり躱したりを繰り返している。


「連続でやったら当たるとでも思ったわけ?頭脳もクズじゃねぇか。救いようがないな。」

「それな。まじで死ね。成績いいからってイキりやがって。」


内田と蛯原の陰口は止まらない。わざとなのかは分からないが、快斗は少しずつストレスをためていく。


「もういいや。死ね。」


内田がそう言って快斗の攻撃をすべて躱しながら近づき、剣を振り上げて快斗に斬りかかる。快斗はみえみえのフェイントに引っかかってみる。内田は斬りかかるように見えかけてから、体を回して回し蹴りを放つ。わざとかかった快斗は顔を蹴られる。


「ハッ‼こんなフェイントも躱せないとか、ほんとに南通り破壊するほどの技放ったの?」


快斗の頭に怒りマークが追加されていく。そろそろウザく感じてきた快斗は、もう一度構えて、


「『鬼炎斬』」


今までと同じ技を放った。


「何お前。これしか使えないの?雑魚じゃん。」

「なんだよ。ただのイキリキッズかよ。」


内田が余裕そうに『鬼炎斬』を叩き斬る。火花が散り、地面に落ちる。


「もう面倒いし、半殺しにして皆の前持ってこうぜ。」

「そうだな。じゃあ、死ぬなよクズ。」


内田と蛯原が殺る気まんまんの顔つきで構える。快斗は一瞬天を仰いだあと、大きなため息をついて、


「あのさ、お前らが俺を半殺しとかできるわけ無いじゃん。」

「ハァ?雑魚魔物でさえ気づいたフェイントに気づかなかった雑魚が何言ってんの?」

「負け犬の遠吠えってやつ?」


内田は、快斗が本気でフェイントに引っかかったと思っているらしい。


「まぁいいや。どうせお前らはもう動けなくするし。」

「やれるもんならやってみろよ雑魚。」

「妄想力は豊かだなクズ‼」


内田と蛯原が武器を振り回しながら快斗に跳びつこうとする。すると、


「あ?な、なんだこれ⁉」

「うあ⁉腕⁉」


火花が落ちた地面から、薄紫色の半透明の腕がいくつも生え、内田と蛯原を拘束する。それを外そうとする二人。しかし、それが解けることはない。


「クソっ‼いつ仕掛けたんだ⁉魔力は感知できなかった‼」

「俺が使ってるのは怨力だからな。魔力が感知できても怨力は分からねぇぜ?つっても、怨力ばら撒いたのはついさっきだけどな。」


快斗は一度目の『鬼炎斬』以外の攻撃全てに微量の怨力を込めていた。それを内田達が破壊することにより、地面に怨力がばら撒かれている。内田と蛯原は、既に快斗の術中だったという事である。


「『魔技・恨みの引きずり』だ。簡単には外せねぇぞ。」

「ぐ……」


内田は悔しそうな声を出したあと、空に向かって大声で叫ぶ。


「早く来いよお前らァァァ‼」

「おう‼」

「分かってる‼」 

「大丈夫⁉」

「今外す‼」


吹き飛ばされたクラスメイトが次々と戻り始めた。その中でも渡辺が最速で快斗に到達し、


「死ねぇ‼」


蒼い炎でできた大腕を快斗に振り下ろした。余裕を持って躱す快斗。何もない地面が抉れたのを見て、渡辺がさらに腹を立てる。


「何これ⁉」

「原野これ外せないか⁉」

「む、無理‼私にはこの怨念は扱えない‼」


内田達の方では残りのクラスメイトが『魔技・恨みの引きずり』を解除しようとしている。


「あいつらが解除できるまで、お前は通さねぇ。最後は全員で殺す‼」

「知ったこっちゃねぇよ。俺はお前らに殺されることはないし、お前らが生きる事もねぇだろうよ。」

「随分と偉そうに語るなぁ。ガキ。」

「アァ?」


快斗が渡辺を呆れながら見つめていると、真上からドスのきいた声が聞こえた。見上げると、酒井が鬼の形相で立っていた。


「『破弾』‼」 


酒井は体罰のために無駄に鍛え上げられた腕が、高速で快斗に襲いかかる。快斗は『瞬身』を発動し、全ての拳を躱してから、空中で逆さに一回転。そのままの勢いで酒井の左頬を殴り飛ばす。

 

「ぐ……。」

「ハッ‼」

「あぐ……」 


頬の痛みから直ぐに立ち直る酒井だったが、快斗に綺麗に鳩尾に蹴りをかまされ、簡単に悶絶した。意外な弱さに驚く快斗。


そのまま踵落としで頭を潰そうとしたが、後から蒼い大腕が迫ったせいで回避せざるを得なかった。


「先生‼しっかり‼」

「ああ……。クソガキが。一回攻撃できただけでいい気になるなよ。」


(どこの悪役の言葉だよ。)と心でツッコミをいれる快斗。渡辺が地面を強く踏みしめる。『蒼剣』が二本出来上がり、両腕に纏っていた蒼い炎は背中に移動し、翼と化す。


「先生は前から、俺は上から行きます。」

「分かった。油断せずに行く。」


快斗は二人の殺気が増したことを察知し、戦闘態勢に入る。そして、いざ戦いの火蓋がきられるといったところで、


「わっ⁉なに⁉」


快斗の立っていた地面が急に陥没し、巨大な穴が出現。快斗は予想外の事態に困惑しながら底まで落ちる。


「行くぞ‼『暴豪』‼」

「ハァア‼『蒼炎破熱線』‼」


酒井が両腕に赤い光を纏い、高速で快斗に接近し、渡辺は上空から蒼い光線を放つ。


「面倒くせぇな。少し落ち着いたほうが、血圧は上がらんぜ?バスガイド。」


快斗は二人の攻撃を『瞬身』で躱したあと、地面に向かって喋りかける。すると、地面にヒビが入り、その中からゆっくりと、落ちたバスのガイド、柳沢が怒り心頭な顔で出てきた。


「黙りさない人殺し‼私のやりたいことすべて奪っておいて、余裕そうに喋るアンタが気に入らないわ‼死になさい‼」


柳沢が手を振り上げる。すると、地面からいくつかの石の塊が飛び出し、快斗に向かって殺到した。


「てめぇのやりたいことなんか知ったこっちゃねぇよ。大人しく死んでろクソババア。」


快斗は石塊を拳で砕く。大小の石の破片が快斗の周りに散る。柳沢は振り上げた腕を振り下ろして大声で叫ぶ。


「『爆炎石』‼」

「おわっ⁉」


途端、石の破片が次々に爆発する。その中心地にいる快斗は、爆撃をモロに受ける。体中に火傷と擦り傷を作る。


「いっつ‼」


快斗は打撃攻撃には強い耐性はあるが、魔術攻撃に対してはあまりなのである。理由は簡単で、力をつけた土地が森だったからである。魔法を使う魔物自体があまりおらず、受けていた攻撃の殆どが物理的攻撃だったからである。とは言っても、


「体質か知んねーけど、傷は魔力で治るんだよな。勝手に。」


快斗の言うとおり、小さな擦り傷、火傷は既に治りつつある。これは悪魔の体質なのだが、快斗はそんなことは知らない。


「えい‼」

「りゃあ‼」


止まっている快斗に向かって、後ろと真上から拳撃と斬撃が迫る。紙一重で両方を交わして振り返ると、目の前に拳が迫っていた。


「おっと。」

「ッ‼なんで当たらないのよ‼」


拳撃を放った女子、矢澤が悪態をつく。そのまま続けざまに拳撃を快斗に高速で放つ矢澤だったが、全て当たらずに躱される。


「もう‼」

「いちいちうるせぇよクソ女。」

「うぐっ⁉」  


快斗は矢澤の突き出された拳を掴み、引き込んで腹に蹴りを入れる。くの字に曲がった姿勢で矢澤が飛んでいく。途端、視界の端に黄色く光る斬撃。


「ほい。」

「速すぎよ‼」


雷をまとった女子、黒本は長い黒髪を揺らしながら連続斬撃を放つ、快斗に引けを取らない速さで移動しながら剣を振るう黒本に、快斗も心躍る。


「俺について来れるやつなんていなかったからさ。やっぱり同等の速さで戦うのは楽しいな。」

「その口ぶった切ってやる‼」


ギリギリ視認できるほどの速度で攻撃し合う黒本と快斗。その速さ故に、他のクラスメイトは攻撃できない。


快斗たちの間には火花が飛び散り、ギンと鉄と鉄がぶつかり合う音が聞こえる。実際にぶつかり合っているのは黒本の剣と快斗の爪だが。


「何よその爪‼硬すぎよ‼」

「生まれつきだ。新しい体のな。」


黒本が、思い通りにダメージを与えられない事に腹を立て始める。それに比例して、技のキレと雷の威力が上がる。


「『雷針』‼『雷牙』‼『雷閃』‼『雷華』‼」

「『炎針』‼『炎牙』‼『炎閃』‼『炎華』‼」


魔術の同系等の技を高速でぶつけ合う。オレンジと黄色の閃光が交わり、周りの光を奪う。


「当たれ‼当たれ‼」

「我武者羅すぎんだろ……。」


必死に腕を振り回す黒本に呆れながら、その腕を引っ掴んで手首に爪を突き刺す。


「いたっ‼」


黒本は痛みで剣を手放し、手首を抑える。快斗はその剣を奪ってから、柄で黒本の額を打ちつけ、吹き飛ばす。


快斗がため息をつくと、前から高速で小さな影、井上がナイフを持った手を突き出して突っ込んできた。左に流して躱すと、真上から蒼い剣が。


奪った剣でガードし、回転して本体の胴をける。浮いている快斗を狙って柳沢が地面から槍を出現させる。剣でそれを斬り裂き、砕く。右から魔力でできた拳撃が迫る。咄嗟に地面に伏せて回避。横に跳んで地面から生える槍を躱す。


その勢いで柳沢に突っ込み、剣の持ち手で腹を打つ。くの字に曲がった柳沢の腕を斬り裂こうとすると、七色の結界が妨害する。宮澤の固有能力の魔術、『閉界』である。


途端、快斗の体が右に引き寄せられ、不自然に吹き飛ぶ。西野の固有能力の魔術、『重力操作』であるである。


その先には細く白い体の少年、丹野が黒と白のマネキンの後ろで両腕を突き出していた。


「行け‼黒身‼白身‼」


丹野がそう叫ぶと2つのマネキンは、命が宿ったように動き出し、腕が刃になっている黒身と呼ばれたマネキンが腕をクロスして斬りかかり、腕が六本の白身と呼ばれたマネキンが上から魔術を放った。


「オオオ‼」


快斗は雄叫びを上げて地面を殴る。その反動で少し浮き上がり刃を回避。髪が数本斬れる。すれ違いざまに黒身の顔に剣を振るったが、金属音がしただけできることはできなかった。


しかし、それで体勢を崩させることには成功し、そこに白身の放った魔術が直撃する。


「やべ‼」

「ハァア‼」


快斗は一度地面を蹴り、丹野に高速で近づく。あと少しで斬れるというところで、地面から太い幹が生えて妨害される。長谷部の固有能力の魔術、『生樹』である。


そして、戻ってきた白身が快斗に魔術を放ちながら接近する。快斗は、『空段』で全ての攻を魔術を躱しながら白身の頭を剣身で叩く。斬ることはできないが、下へ吹き飛ばす事ができた。


すると、白身は腕だけを上に向けて、ゲートのようなものを作った。そこから、


「おわっ⁉」

「『輝槍』‼」


白く発光した長い槍が突き出された。咄嗟に首を傾けて躱す快斗。そのゲートからは、茶髪の藤原が飛び出してきた。


「ハア‼」

「むっ⁉」


藤原は白身の体を足場にして、槍を回転させて連続斬撃を放ってきた。快斗は慣れない剣を『瞬身』で動かしながら、流したり躱したり防いだりを繰り返す。最後に藤原が魔力をのせた突きを放ってきたが、剣身でガード。藤原が槍を引き戻したタイミングで三回転。力強く横から剣を打ち付ける。


吹き飛ぶ藤原。遠ざかる途中で『炎槍』を放たれたが、剣で叩き斬る。すると、快斗を中心に、白身が作ったゲートと同じような小さなものがいくつかの出現。それぞれから白味かかった薄紫色の腕が快斗に殺到した。原野の固有能力の魔術、『絶手』である。


「ハァア‼」


快斗は『空段』を何度も発動し、全ての腕を斬り裂く。血は出ず、胞子となって消え去る。その時、真上から酒井が踵落としを放つ。


『剛力』を発動した左腕で勢いを相殺して、剣を突き出すが、酒井の固有能力、『鋼鉄の魔人と化した超人』の魔術、『硬化』で剣を受け止められる。快斗が瞠目していると、その顔面に容赦なく拳が叩きつけられる。鼻血を出しながら下に飛ぶ快斗。


回転して腕で着地。腕の力でもう一度跳んで回転して酒井の頬に踵を打ち付ける。飛んでいく酒井に『炎玉』を三発追い打ちする。


すると、後から凄まじい量の魔力が迫る。『空段』で跳んで回避。その快斗の下を、白い光線が通り過ぎる。放ったのは運転手、加賀である。


「『怪光線』‼」


先程と同じ魔術をもう一度快斗に放つ。快斗は体を捻って紙一重で躱したあと、逆さに回転しながら加賀に向かって剣を投げつけた。回転しながら迫った剣が加賀の左腕に直撃、血を撒き散らしながら加賀が吹き飛ぶ。同時に悲鳴。


着地した快斗の視界の上に、突如ナイフが映り込んだ。井上のナイフである。快斗は『瞬身』で素早く起き上がり、真剣白刃取りで受け止める。瞠目している井上の腹を蹴飛ばし、ナイフを奪う。


そして、辺りを見回して宮澤を発見。『瞬身』で急接近する。自分に来ると思っていなかったのか、宮澤は目を閉じながら『閉界』を発動。突き出されたナイフを拒む。快斗は面倒くさくなり、


「『魔技・獄卒の愚痴』」


すると、結界内で安心している宮澤が、急に体を抱きしめて苦しみ始める。そして、悲鳴を上げて、口、鼻、目から血を吹き出して気絶した。


『魔技・獄卒の愚痴』は罪人を生き返らせる獄卒が悪口を言ったことにより、対象は体の中から壊れていくという『魔技』である。今、宮澤は気絶状態だが、10分もすれば、胃が破裂して体内から溶けていくだろう。


あまり成功することが無く、完全に安心、または警戒を解いた状態の敵にしか効かないのだが、それが成功したということは、宮澤は自分の結界を過信していたという事である。


「『大炎華』‼」

「おら‼」


宮澤にとどめを刺そうとした快斗の足元に魔法陣が現れ、大きな灼熱の大華が出来上がる。空中に飛んで回避したが、その花がいきなり花びらを閉じ、快斗を閉じ込めて大爆発を起こす。宮澤は鎖でその場から引き出された。


「うしヒット‼」

「ナイス内田‼おい高谷‼早く来い‼宮澤回復させろ‼」

「…………あいよ。」


高谷が宮澤の口の中に、自分の手首を斬り裂いて出た血を流し込む。そして、高谷の固有能力の魔術、『血液操作』で、宮澤の体内に住み着いた怨念と快斗の怨力を追い出していく。


「これでいい。とりあえず寝かせてろ。すぐ起きる。」

「ナイス高谷‼流石リストカッター‼」

「…………チッ。」


高谷の手首に出来ている大量の切り傷の跡を見て笑いながら言う蛯原に高谷が苛ついて舌打ちをする。


「高谷君‼宮澤さんは?」 

「原野か。大丈夫だ。もう死にはしない。」

「良かった。」


ホッと胸をなでおろす原野。その原野と、爆炎の中にいる快斗を見てから高谷は聞く。


「なぁ、原野。」

「なに?」

「お前はまだ、快斗を恨んでいるか?」


原野は内田に焼かれている快斗を見て、少し止まったあと、視線を戻して言った。


「この前から言ってるけど、私、正直どうでも良くなってきた。」

「…………そうか。」


そう、原野は高谷同様、快斗に恨みの感情を持たない人となっていたのだ。


原野は思っていた。何故、みんなそんなに憎むんだろう?何故、そんなに殺したいんだろう?殺されたから?それはあるだろう。でもいま生きているじゃない。殺しに行かなくたって、この世界で生きてるじゃない。そう、思っていた。


「…………原野。」

「なに?」

「もし、快斗を普通のクラスメイトと見れるのなら、俺が裏切っても怒らないか?」

「…………‼」


高谷がつぶやく言葉。それは快斗の味方になり、クラスメイトを裏切るという事。通常の戦士よりも強い手段を敵に回すということ。


「…………怒るよ。そんなの。」

「…………何故?」

「そうしたら高谷君。皆に狙われて死んじゃうかもしれないんだよ?」

「そうか。」


高谷は上を向いてから、少し微笑んで原野を見て、


「じゃあ、もし俺が裏切ったら………一緒に来てくれ。」

「…………へ?」

「死ぬって意味じゃねぇぞ?そのままの意味だ。」

「え、えっと。逃げるって事?」

「そゆこと。」


高谷は笑いながら言い切った。これはある意味告白とも言えるもの。これからの逃亡生活をともにしてくれ、と。原野の中では、一生一緒にいてくれ、と少し編集された言葉が響いている。一気に原野が赤面する。


「嫌ならいいんだ。それにもし、だからそうなるって決まったわけじゃないから。」

「…………高谷君。」

「なんだ?」


原野は俯いたまま高谷の服の袖を掴んで、赤面した顔で言った。


「もし、そうなったら…………高谷君が守ってくれるんなら…………考えなくも…………ないよ?」

「…………。」


高谷は一瞬止まったが、直ぐに満面の笑みとなって、


「ああ。もしそうなったら全力で守る。何があっても、ね。」

「…………うん。」


原野は俯いたまま、高谷のことをじっと眺めていた。初めて湧いた謎の感情を理解しようと必死に頭を回すが、全く分からず、目を回している。それに気づかない高谷は、快斗のことをじっと見つめ、心配そうな表情だった。

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