第15話 戦闘1

「んー今日もいないねー。」

「だな。まだアイツとは戦えないのか。ハァ……。」

「もしいたら、守ってよね。」

「分かってんよ。」


南通りを話しながら歩く男女。フード付きの白い装束を纏い、左胸には『救』という文字が書かれている。周りを見渡しながら警戒心が全くないこの戦士は、渡辺と西野だ。


クラスメイト達は、ここ最近クレイムに言われて、快斗が来ている可能性があるとのことで、街の見回りをさせられている。見つけたら他のクラスメイトに伝え、可能な限りダメージを与えろ、と言われている。


「でも見回り開始からもういつか経ってるし、違う街にでも行ったんじゃねぇの?」

「それな。絶対そうじゃん。」

「まぁいたとしても、俺には勝てないけどな。」

「渡辺チョー強いもんね。快斗みたいなクズが勝てるわけないよ。」

「それな。でもアイツ、マジでどこにいるんだろうな。」

「伝えられた特徴に当てはまる人が居ないからね。」

「確か特徴は、フード付きの灰色の服に黒いズボン、反り上がった白い髪と、赤と青の目だったよな。」

「そうだよ。でもそんな人どこにもいな……ん?」

「どうした?」

「あの人さぁ。」


西野は、前からやってきた赤髪の少年を指さした。渡辺もその少年を見つけるが、すぐにすれ違う。そこで目にした。フード付きの灰色の服と、黒いジーンズを。


「…………ッ‼」


渡辺は反射的にその人物の右肩を掴んだ。


「…………アァ?」


赤髪の少年は、苛つきを隠さずに振り向いた。渡辺はその顔を凝視する。その目は赤と青ではなく、両方真っ黒の目だった。


「あ…あぁ。すいません。探している人と似ていまして。」 

「…………誰を探してんだ?」

「ええと、一ヶ月ほど前に現れた白髪の悪魔です。俺たちの上の人がまた現れるかもって話してて、今見回り中です。」

「俺がそいつに似てたってか?」

「ええと、はい。そうです。間違えてすみません。」

「それはいいけどよ。一つ忠告すんぜ。」

「?なんですか?」


赤髪の少年は、少し前かがみになる。すると、その少年の足元に、黒い魔法陣が出来上がる。


「ッ‼」


その魔法陣は、少年の足元から頭にかけて移動する。すると、赤かった髪は白くなり、瞳の色は、真っ黒から赤と青に変化する。


「変装してる可能性も考えて、もう少し気ぃ配ったほうがいいぞ。渡辺、西野。」


ニヤつきながらそう言い放つのは、紛れもなく快斗だった。


「いけ西野‼他のやつに伝えてこい‼」

「わ、わかってるよ‼」


渡辺が右手を快斗に向かって突き出しながら西野に叫ぶ。西野は屋根を飛び越えて、どこかへ行ってしまった。


「やっとだぜクズ。ようやくお前を殺せそうだな‼」


渡辺は固有能力、『蒼炎を操りし、華奢な戦士』を発動する。渡辺の右手から、青白い炎が高速で放たれる。


「よっと。」


快斗はそれを跳んで躱し、空中で回って、渡辺に蹴りをかます。渡辺はそれを左手で受けるが、意外に強いその一撃で、少し押される。


「くっ…なんか強くね⁉」

「伊達に森にこもってた訳じゃねぇよ‼」


快斗は更に空中で回転し、拳を渡辺の脳天に叩きつける。


「くっ……『蒼騎の盾』‼」


その拳を、渡辺が作り出した蒼い炎の縦が防ぐ。ガンと音がして、快斗が弾かれる。


「ふっと。何その技。かっけーじゃん。」

「ウゼェ。死ね‼」

「物騒な言葉だなぁ。」


渡辺は空中に15本の蒼炎を作り出し、それを槍の形に変化させ、右腕を振り下ろして、

快斗に向かって放つ。


「『蒼槍』‼」


速度はなかなか。温度は高く、木などなら用意に貫通できる一撃。それを快斗は、


「『炎槍』」


同じ数の『炎槍』を作り出して応戦する。槍と槍が正面からぶつかり合い、極熱の波動が生み出される。


「あっつ‼」

「マジで?耐久力クソやん。まぁいいや。次行くよ〜。。『鬼炎斬』。」


快斗の手が赤く光り、その手を快斗は横凪に振る。すると、炎でできた刃がなかなかの速度で、渡辺に接近する。


「クソ‼『蒼剣』‼」


渡辺は蒼い炎を収縮し、剣の形にして、『鬼炎斬』を迎え撃つ。


「ハァア‼」


ギン‼音がして、『鬼炎斬』がかき消える。渡辺はそのまま『蒼剣』をかまえ、


「死ね‼」


教わった剣技通りの動きで、快斗に接近した。体に蒼炎を纏い、突進の形で快斗の胴を狙う。快斗は動かず、その『蒼剣』の刃は、快斗の体に当たるかと思われた。が、


「ほい。」

「んなっ⁉」


快斗は、赤黒い炎をまとった手で、渡辺の『蒼剣』の刀身を横から弾いた。軌道はそれ、渡辺は無防備に快斗の間合いに突っ込んでしまった。


(まずっ⁉)


渡辺はすぐに距離を取ろうとしたが、快斗に胸ぐらを掴まれ、動けなくなってしまった。


「よしよし。捕まえた。」

「クソが‼話しやがれクズ‼」

「…………いちいちムカつくんだよなぁ。今までのストレスと共に砕け散っちまえ。」

「なぶっ⁉」


快斗は、必死に快斗の手を取り外そうとしている渡辺の整った顔に『剛力』発動中の拳を叩き込んだ。


渡辺はその勢いで吹っ飛び、家の壁を突き破って見えなくなってしまった。


「え?耐久力が低いのもいいところだな。弱くね?蒼炎とか厨ニくさい技使えるくせにこの程度?それで俺を殺すとか言っちゃうわけ?頭逝っちゃってるんじゃね?」

 

快斗は渡辺が吹き飛んでいった方向に向かって煽りの言葉を投げかけながら、ゆっくりとギルドへ歩いて行く。道行く人々は、快斗を恐れて動けないようだ。そんな彼らに快斗は笑いかけて、


「大丈夫だよ。敵対するやつとウザいやつしか傷つけないから。」


と言い残し、屋根伝いにギルドに向かおうとしたその時、


「『痛罵』‼」


快斗の背後から少し黄色がかった液体が快斗目掛けて飛んできた。快斗は跳んで躱し、屋根に着地してそれを放った相手を見下ろす。


「待てよイキリ快斗‼逃げんのかよ‼雑魚が‼」

「俺様キャラのクズ‼逃げるな‼絶対に殺してやる‼」

「わ、渡辺ー‼どこー‼」


西野と長と宮澤だ。長のに手には先程飛んできた液体がいくつか浮いているので、放ったのは長だろう。


「お前らまで復活してんのかよ。めんどいな。死ねよ。」

「てめぇが死ねよクズ。気持ち悪いアニメとか見てる変態がよ‼どうせ家でエロゲばっかやってんだろーがクズ‼」

(ひでぇ言われようだな。)


快斗は内心呆れつつ、長の周辺に浮かんでいる液体を見て嘲笑う。


「長。お前の固有能力は?」

「あ?『灼熱の腐敗毒を放つ魔戦士』だ。」

「…………ふっ。」

「あ?なんだよ‼」 

「いや、ハハ。お前に似合ってるなって思ってさ。ハハハ。」 

「どういう意味だよ‼」

「いや、だってお前さ。生前、喋るときツバ飛ばしまくってただろ?それが腐敗毒か。…………ハッ。笑っちまうな。ハハハ。」

「ッ‼死ねぇ‼」


長は快斗よりも上に跳び上がり、液体を飛ばしてきた。快斗は『炎玉』で応戦しながら、時折『炎槍』を放つ。その『炎槍』も、


「『絶界』‼」


宮澤の固有能力、『攻を防ぐ聖なる壁』で長の周りに結界がはられ、快斗の攻撃が防がれる。


「2対1とか反則じゃね?」

「うるせぇ‼文句いってんじゃねぇぞ雑魚が‼」

「るっせぇのはどっちだよ……。」


快斗は長の言いように呆れつつ、打ち合いを途中で切り上げ、液体を躱しながら西野の方へ向かう。


「え⁉」

「ほい。」

「げふっ⁉」


快斗は驚いている西野を下から上へ突き飛ばし、その進行方向に先回りして、下へ突き飛ばした。


「あっ…………」


西野が地面にめり込み、クレーターができる。


「さて、次は、」


快斗は森の中で得た能力『空段』を発動し、空中に足場を出現させる。そのまま長の方へ跳び、


「ラァ‼」

「なっ⁉」


結界ごと壁の方へ蹴り飛ばした。長は結界に包まれたまま、街の反対側まで突き飛ばされた。


「長‼」

「よそ見してて良いのかよ?結界師?」

「⁉」


宮澤が長を呼びながら驚愕していると、いつの間にか背後に現れた快斗から『貫手』をかまされる。ギリギリで壁を貼ってガードをしたが、予想以上の勢いに後ろに飛ばされる。


「もうっ‼なんでこんなに強いの⁉私達合わせてこれ⁉」

「るっせぇよ。チビ。チビはチビらしく、狭い場所で指でも咥えながら怯えてろ。雑魚が。」

「ッ⁉」


宮澤の気が動転している間に、快斗はとてつもない速度で足を振り上げ、


「死ね。」


凄まじい勢いで踵落としを繰り出した。宮澤は結界をはれることも忘れて、無様に両手で顔を覆った。もう当たるといったところで、


「『蒼騎の盾』‼」


宮澤の真上に、蒼い炎の盾が生まれる。快斗は一旦その場を離れ、術者であろう男を見る。


「良かったよ。まさかあれだけで死ぬとは思ってなかったからね。」

「チッ‼イキってんじゃねぇぞ‼クズが‼」


舞い戻った術者、渡辺は快斗の挑発に見事に乗っかり、『蒼剣』を作り出してから、それを振るう。


大量の蒼い炎が快斗に降り注ぐ。それを快斗は、


「『ヘルズファイア』‼」


手のひらに発動させた赤黒い炎の塊を放った。互いの炎がぶつかり合い、爆発が起きる。炎が散乱し、住宅に炎が燃え移る。


「ハァア‼」

「いいのか分かんないけど剣使うのうまいね。」


渡辺は快斗に急接近して、『蒼剣』を振り上げる。快斗は鍛え上げられた反射神経で、すべてを躱す。本気で剣を振るっている渡辺は、それを喋る余裕を残しながら簡単に躱す快斗に更に腹が立ち、


「クソが‼さっさと死ねよ‼『蒼華』‼」


渡辺は頭上に巨大な蒼い炎の華を作り、それを快斗に向けて放つ。快斗は火炎魔術でそれを迎え打つ。しかし、固有能力で発動させた炎ゆえ、ただの火炎魔術では火力が足りず、


「チッ‼」


屋根へ跳んで回避する。そして、渡辺を見ようと顔を上げた快斗の目の前に、蒼い炎でできた槍が迫っていた。


「⁉」


『瞬身』を発動してギリギリで躱す。数本の髪が消える。


「クソ‼当たれよクズが‼死ね‼」

「おいおい。そんなに暴言吐いてっと印象悪くなるぞ。そんなイライラすんなって。あと、気づいてるからな。」


快斗は建物の何もない影に『炎槍』を放つ。すると、「きゃあ‼」「うわぁ‼」という悲鳴が聞こえて、何もなかった影から、男女が3人ほど飛び出した。


「やっぱりクラスメイト全員復活してるっぽいな。」

「ハァ、ハァ。危ないじゃないの‼死になさいクズ‼」

「変態がよ‼それにいちいちカッコつけんな雑魚が‼自分がイケメンとでも勘違いしてんじゃねぇだろうな⁉」

「少なくとも、お前より上だとは思ってる。」


快斗に暴言を吐いているのは、矢澤と長谷部だ。その後ろで快斗を睨んでいるのは、井上というチビだ。快斗からしたら殆ど印象がないので、「誰だ?」と首を傾げているのだが、一応クラスメイトである。


「その後ろのやつ誰?」


快斗が思った疑問をそのまま口にすると、


「俺らも分かんなかったけど井上っていうクラスメイトらしい‼こいつもお前が死んでほしいってよ‼」


長谷部が苛つきながら答える。あいつらも分かんねぇのかよ。と内心快斗は、呆れつつも、井上を見ると、目が合うや否や、井上が両手を前に突き出し、


「『陰の殺戮者』‼」


井上の手先から黒い影が侵食していき、全身が包まれた瞬間、バリンと音がして、影が崩れる。中から出てきたのは、先ほどとは何も変わらない井上だ。しかし、


(能力が一気に上がりやがった。)


快斗は、井上の能力が二倍ほどになるのを感じていた。あいつも要注意か。と考えていると、


「『蒼獣化』‼」


渡辺が声を上げ、跳び上がる。蒼い炎が渡辺を包んでいき、羽をかたどる。また、腕に纏った炎は大きな獣の腕になり、鋭く大きな爪が生えている。


「またまた面倒な覚醒技使いやがっt…」

「『雷閃』‼」

「話してる途中だっての。」


快斗が渡辺の技に愚痴を吐いていると、後ろから視認できないほどの速度で刃が突き出された。快斗はそちらを向くことなく、首だけを傾けて刃を躱す。その刃を手で掴んで、それ以上の動きを阻害する。


「ちょ、離しなさい‼」

「ハァ……今度は誰だよ?」 


快斗が振り向くと、刃を突き出した姿勢で止まっている黒本が息を切らして睨んでいた。お前かよと快斗は思いながら、黒本の脇腹を蹴り飛ばそうと足を回そうとする。すると、


「『束縛』‼」

「む⁉」


下から半透明の腕がいくつか生えてきて、快斗を引っ掴み、動きを阻害する。誰が放った?と快斗は左を見ると、


「よし‼みんなやっちゃってぇ‼」


両手を突き出して叫んでいる原野の姿があった。原野の固有能力、『死後の恨みを晴らさせる聖者』を使い、過去に死んだ者の腕を使って快斗を束縛しているのだ。


しかし、快斗はそんな事よりも、全方位から迫りつつある魔術の気配に冷や汗をかいていた。


後ろからは渡辺が大腕を振りおろそうとしており、前は黒本がバチバチと雷魔術のチャージをしている。


左からは、いつの間にか現れた教師の酒井と矢澤が、オレンジ色に光っている腕を突き出していて、そこからは巨大な波動が放たれている。それに加えて、高速移動する井上がいくつかナイフを快斗に向けて投げている。


右からは、戻ってきた長と、なんとか復活した西野が、溶解毒液とピンク色の光線を放っている。


(まずい)


快斗は発動が一番遅そうな黒本の方へ逃げようとするが、


「させない‼」

「『魔術妨害ジハードマジック』‼」

「『古蔓の監獄』‼」


原野が『束縛』の力を強め、宮澤が魔力が一時的に使えなくなる妨害魔法を放ち、長谷部が固有能力、『草木を愛し、草木に愛された人間』の『古蔓の監獄』を発動して、更に快斗の拘束力を高める。


完全に動けなくなり焦る快斗。魔術で吹き飛ばそうとしても、宮澤の妨害魔術で魔力が使えず、既に脱出経路の黒本は、魔術を放っている。


快斗は魔術は駄目だ。と思い、次の方法を試すため、目を閉じて集中する。その光景を唯一見ていた黒本は、(諦めたのかな。)と思い、最大出力の雷魔術を快斗に当てようとしたその時、


「『魔技・巨獣の咆哮』」


快斗が小さく呟いたのと同時に、快斗を中心に透明の波動が円形に広がり、魔術、クラスメイト、住宅、隠れている住民、あらゆる周りにある物体を差別なく吹き飛ばした。


「なぁっ⁉」

「なになに⁉」

「わぁあ⁉」

「なんで魔術が……きゃあああ‼」


魔術はかき消され、クラスメイトはダメージを受けながら吹き飛び、住宅と住民は押しつぶされ、地面は抉れていく。10秒程で『巨獣の咆哮』は収まり、南通りにできた大きなクレーターの中心には、座り込んで一息つきている快斗だけが存在していた。


「フゥ……。ちょっと本気出しすぎた。住民まで殺っちまった。まぁでも、そのお陰で怨力は補充できたし、別にいっか。ハハハ。」

「これはまた随分と破壊しましたね。クズ悪魔?」

「アァ?」


快斗が笑っていると、後ろから丁寧な男性の声が聞こえた。振り向くとそこには


「お目にかかるのは二度目ですね。貴方から刀を奪った、メサイア幹部のクレイムと申します。以後お見知りおきを。」

「久々だなキモオタ。こんなことしてたらお前の押しキャラが泣くんじゃね?どうせキモいんだろうけど。」

「ああ。それな‼あいつが見てるアニメキモいもんな‼ハハハ‼」

「…………。」


快斗は静かに睨む。クレイム、内田、蛯原。ウザい人間二人と、殺そうと思っていた人間が一人、そして、


「これはお前がやったのか?快斗。随分と強くなったみたいだな。俺じゃ勝てねぇな。ハハハ。」


苦笑いをしながら、乾いた笑いをする少年、高谷がいた。

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