第14話 舞い戻る

「『魔技・怨念の濁流』」


快斗は湖に向かって、魔術を試しうちをしていた。新しく使えるようになった。『魔技』を鍛えるためだ。今はなった技は、今まで殺してきた生物の未練や恨みを力に還元し、その力によって形成された大量の人間の手を波のようにして放つ技である。


大量の腕は、木や生物の当たると、それを粉々になるまでひねったり潰したりしながら、力が消えるまで進み続ける。


湖には、快斗を案内した蛇しか住んでいないので、蛇を避難させてから『魔技』を放っている。『魔技』を放つには、魔力ではなく怨力と言うものを消費する。これは、快斗が魂を食らったときに、魔力とともに生み出されるものである。快斗は悪魔であるため、時間経過で怨力が補充されていく。


「ハァ……、これで5発目。今んとここれが限界ってとこだな。」


快斗は、『魔技・怨念の濁流』の他に4発『魔技』を放ったのだが、それで快斗が所持している怨力は枯渇してしまうことが分かった。また、技の難易度も高く、連発できるものではないというデメリットも分かった。


しかし、やはり威力は強く、『魔技』は快斗の想像で作るのが可能であり、習得に時間がかかる事はあるが、それだけの価値はある。


「どちらにしろ、練習あるのみってか。まぁ俺からしたらイメージに力を注ぐだけだけどな。ハァ……さて、」


快斗はため息をついたあと、体内の魔力をかき混ぜる。そして、体全体へと行き渡らせる。こうする事により、体内の奥底に眠っている魔力を徐々に呼び起こす事ができる。通常なら15秒程かかるそれを、快斗は、


「ほっ」


二秒ほどでする事ができる。悪魔の体は、魔力に対しての適性が非常に良いため、そういった魔力操作は得意なのである。快斗自身、比較したことが無いため、これが普通だと思っているが。


「さて、次は、…………『獄怒の顕現』‼」


『魔技』とは違った、快斗の固有能力による、覚醒状態。『獄怒の顕現』。一昨日倒した大蛇にとどめを刺したときの快斗の状態である。快斗は怒りにより、無意識にこれを発動していたのである。


この世界の力の表し方は、腕力、魔力、知力、生命力の合計を2で割ったものになる。これを獄値といい、快斗が『獄怒の顕現』を発動すると、腕力、脚力、魔力、知力が三倍以上に跳ね上がり、生命力は二倍程になる。


快斗はそれを解除し、大きくため息をついて、


「……ふ……‼」


『獄怒の顕現』を全開では出さず、三分の一程度の力で発動する。黒い魔力が薄く湧き出て、右目の下に稲妻のような黒い線が描かれる。能力は、生命力が少し増し、他は1.5倍ほどになる。


「まぁまぁだな。あとは……、『ヘルズファイア』‼」


快斗は湖に向かって手を突き出すと同時に、赤黒い炎の大玉を放った。それは湖に接触した瞬間、水面全体が赤黒い炎で包まれた。水に触れているにも関わらず、その炎は消えず、燃え続けている。


「ふ……。」


快斗が火が消えるように念じると、その炎は消える。


これは、快斗の『暗黒魔炎』という能力による物である。この能力は快斗が固有能力を手に入れたときに、同時に手に入れたもので、魔力を通常の火炎魔術より多く消費する代わりに、水では消えず、強力な聖光魔術か快斗が意識しない以上、消えることは無い。


また、温度は通常の火炎魔術の三倍程まで上げることができ、また、形状を変化させ、快斗が手で持つことができるようにするのも可能である。


「とは言っても、集中力が持たんがな。」


快斗は疲れた声でそう呟き、野菜と果物の森に戻っていった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

二週間後、快斗が街から逃げ出して、ちょうど四週間後。


「うし‼っと。だいたいこれぐらいでいいかな?いいな。飲水よし。果物よし。野菜よし。肉よし。魚なし。あと、キューよし。」

「キュイ?」


快斗は新しく覚えた能力、『魔技・アンデッドホール』という魔術を発動し、その中に森の果物や野菜、乱獲した豚の魔物の肉を大量に入れて、旅立つ準備をしていた。


二週間、この森で快斗は、筋トレと料理の練習と魔術、『魔技』の練習、果物のそれぞれの効果の暗記をしまくった。また、快斗が戦った大蛇の毒を解毒するため、あの謎の蛇の回復魔術と解毒作用がある果物を食べまくった結果、毒を完全に解毒することに成功した。


しかし、キューの折れた耳は治らず、未だに感覚がないようだ。しかし、キューはそれを苦と思っていないようで、別にいいと言うふうに鳴いていた。


「さて、行くか。」


『アンデッドホール』を解き、荷物を揃え終わった快斗は、ここまで連れてきてくれた蛇に向き直り、頭を下げて礼を言った。


「ありがとな。あんたのお陰で大分回復した。湖も実験に使わせてくれてありがとな。果物とかもめっちゃ貰ったし……いつかお返しでもすっからよ。」

「キュイキュイ‼」


蛇は何を言ってるのか分からない様子で首を傾げていた。快斗の人語が理解できないようだ。そして、蛇は湖に静かに戻っていった。居なくなるということは理解したようだ。


「フゥ……さて、殺りに行くか‼」

「キュイ‼」


快斗は、木の上を跳んで逃げ出してきた街に向かっていく。左肩にはキューが座っている。


「お前もだいぶ強くなったっぽいけど、お前だけが俺の言葉を理解できる理由がわからねぇな。」

「キュイキュイ?」


キューは左耳をひょこひょこ動かして、首を傾げた。その愛らしい仕草を見て、快斗は苦笑いをするのだった。

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