第10話 十二支幻獣「巳」
キューと出会って一週間。快斗が街から逃げ出して二週間。星が輝く晴れた夜。
「〜〜〜♪」
「キュイ?」
大量に積み上げられている魔物の死体を、上達した火炎魔術で焼き上げながら、快斗は前世で覚えていたボカロ曲を歌っている。
よく歌えるなと思わせるほど早い曲である。そして、舌を噛まない快斗を不思議そうに見つめているのは、白ウサギの魔物、キューである。左肩に乗りながら、首を傾げている。
「〜〜〜♪〜〜〜〜〜‼♪っと。あ〜カラオケ行きて〜‼」
前世の娯楽を思い出しながら、歌の終わりと同時に、快斗が焼き上がった牛の魔物の死体に齧り付く。碌に捌いてもいないので、血が周りに飛び散る。その情景にも嫌悪感を抱かなくなった快斗は、流れ出る血を手に付けて遊ぶ。
キューは、死体の山の一番上にある、自分で狩った雀のような魔物の死体に勢いよく齧り付く。こちらも捌いていないため、血が飛び散る。白い毛が赤くなっていく。今までの狩りのこともあり、今のキューは、ほぼ真っ赤になってしまっている。
ちなみにキューの戦い方は、高速で動きながら、鋭い前歯で肉を引きちぎり、弱ってきたら、『熱牙』でさらに攻撃をしまくる。この森では快斗の次に速いと言っても過言ではないキューを認識できる魔物はそうそういない為、時間はかかるが、大抵の魔物は小さなキューにも負けるのだ。
また、快斗といることにより、体中の筋肉などが強くなり、更に速く、強くなっているのである。なかなかにハードな快斗の生活についていこうとすると、こうなってしまうのである。その事をキューは後悔していないが。
「さて、おいキュー。これ食い終わったら、俺は仕返しのために街に降りるから、お前はここらでお別れしてくれぃ。全部自分で殺りたいからな。」
「キュイ?キュイキュイ。」
首を横に振り、キューはその頼みを受け入れない。その反応にため息を吐きながら、
「お前は別に人間に恨みなんてないだろ。殺していいのは、その対象を恨んでいるやつだけだ。」
いつの間にか出来上がった快斗の自論。真っ赤になっている白かった髪の毛をいじりながら、快斗は、牛の死体を食い尽くす。骨を放り投げてから、
「久々に風呂に入りたいし、あそこは全部壊す気でいるし、お前には関係ないから別れたって何もないだろ?」
「キュイキュイ‼」
また大きく首を横に振り、ついていくと駄々をこねるキュー。また大きくはぁ、と快斗はため息を吐きながら、
「この死体全部やるから。」
「キュイキュイ‼」
「街にある餌全部やるから。」
「キュイキュイ‼」
「じゃあもうウサギの魔物は狙わないk…」
「キュイキュイ‼」
「…………。」
何を言っても首を横に振るキューに呆れた快斗は、もう疲れた、降参というふうに両手を上げ、
「…………あい、分かった。ついてこい。なんでお前がそんなに俺に依存するのか分からんが。」
「キュイ‼」
キューは大きく頷き、嬉しそうに走り回り、不注意により石に頭をぶつけ撃沈する。その馬鹿馬鹿しい姿に苦笑しながら、快斗がもう一つ死体を頬張ろうとした瞬間、
「ッ⁉……なんだ?」
「キュイ⁉」
急に、快斗とキューの前にあった焚き火の大きな炎が、風になびく様子もなく一瞬で消えた。あたりから灯りがいきなりなくなり、静かな暗い時間がすぎる。
普通ではない雰囲気に、快斗が冷や汗をかきながら、必死に原因を考える。キューは、快斗の肩に戻り、硬直している。
「なんだ?何が起きた?なんで急に火が………
ん?」
「キュ、キュイ?」
快斗が、癖になった独り言をつぶやきながら考えていると、ふと、快斗と、キューの耳に不気味な音が聞こえた。
シュルシュルと、獲物を狙いがながらゆっくりと近づいてくる大きな気配。闇に同化し、この森の生態系の頂点に位置する巨大な魔物。しかし、巨大なのにも関わらず、冴えた快斗の感覚でも、位置を捉えることができない。
そして、うごめく気配は、ある程度経ったあとに急に止まった。快斗は冷や汗をかきながら、必死に気配を探す。そして気づく。上、右、左、前、後ろ。
「ッ‼」
「キュイ‼」
「シャア‼」
突如、上から降り注いだ謎の液体を躱す快斗と、キュー。近くの木に快斗とキューが跳び移る。暗闇の中から、ジュアアと、何かが溶ける大きな音が聞こえる。何かと、コウモリの魔物から得た、『暗視』という能力を使う。暗闇が明るくなり、快斗を襲った相手の姿がくっきりと見えるようになる。
「なっ⁉」
そして、快斗を襲った魔物を見た快斗は、その魔物の姿に唖然としてしまった。その魔物は、巨大なコブラだった。大きくて太い舌をシュルシュルと動かし、快斗が焼き上げた死体の山を見つめ、おもむろに齧り付いた。巨大なため、快斗が時間を経ててやっと食い終わるという牛の死体を一口で丸呑みにした。
その姿を見て、この森に来てから、一度も感じていなかった恐怖という感情を思い出す快斗。巨大なコブラは、死体の山をあっという間に平らげ、改めて快斗に向き直る。その視線にビクッと体を震わせる快斗。
蛇に睨まれた快斗。青く、感情のない目に見つめられ、恐怖が倍増する。そして、快斗は思った。
(一刻も早く、こいつを消したい。)と。
「ハァア‼」
手から放とうとしたのは、火炎厄鳥が放っていた火の玉、『炎玉』である。しかし、
「…………あれ?」
「シュルル。」
その魔法が放たれることはなかった。確かに魔力は消費しているが、その魔力が現実に干渉していないことに、快斗は首を傾げる。すると、
「シャア‼」
「おわっ⁉」
「キュイ⁉」
快斗の瞬身並の速さで、コブラが噛み付いてきた。快斗は、『瞬身』を駆使し、キューと共にその場を離脱。今まで立っていた気が一瞬で粉砕された。
「マジかよ。尋常じゃねぇな。」
快斗は、とぐろを巻いているコブラの体を跳び超え、キューを掴み、地面へ放り投げた。
「キュイ‼」
「悪ぃが逃げろ。乗っけてると肩がこる。それにあいつは俺の飯を奪いやがった。あれは万死に値する。検証も含めて、あいつは俺が狩る。だから邪魔すn……」
「キュイキュイー‼」
「…………まだ話の途中だっての。」
アニメの主人公の様な話を途中で切り上げられ不機嫌になる快斗。改めてコブラを睨む。
快斗と蛇の睨み合いっこ、互いに警戒しながら、戦闘が始まった。
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