第9話 名付け
「キュ、キュイ〜。」
「こんの泥棒ウサギめ。」
快斗はあの後、白ウサギから金銭袋を取り返し、殺そうとしたのだが、最近、妙に殺すことに執着しているなと思い、たまには癒やされる事も大事だろうと考え、ずっと、白ウサギをモフっているのだ。
モフると言っても、その手付きはは頭の骨組みをグリグリとする罰ゲームと同じなので、白ウサギにとっては辛い状況なのである。
「さてさて、お前はなんで俺の金銭袋をいきなり奪って行ったんだ?」
「キュイ。キュイキュイキュイ。キュキュキュイ。キューキュッキュイ。キュキュキュッキュイキュ。キュイキュイ。」
「…………やべ。ウサギ語って俺には理解できん。クソ。せめてポケ○ークがあれば‼」
片手で頭を抑えながら、地面を叩く快斗。地味に地面が抉れていく。
「キュ、キュイ?」
「まぁいいや。普通ならここで殺してるけど〜、今は地味に腹膨れてるし、最近短気になっている自分を治す意味でお前は見逃そう。ほら、どっかいけ白ウサギ。」
「キュイ⁉」
ポイと放り投げられ、石に頭をぶつけ、撃沈するウサギ。赤い瞳が白目になっている。
「さ〜て、行くか。」
「キュ、キュイ‼キュイキュイ‼」
「んあ?」
そう言って快斗が行こうとすると、白ウサギが快斗の肩にひょこっと乗って、そのまま動かなくなった。「邪魔だ」と快斗が退かそうとするが、白ウサギは頑なに離れない。
「なんなんだよ……‼」
「キュイ‼」
白ウサギは、じっと快斗の顔を見つめ、大声で鳴く。そこには、絶対に離れないという、何故か強い意志が籠もっていた。
「ハァ…俺に付いてきて、飯のおこぼれでももらう気か?」
「キュイキュイ‼」
大きく横に首を降る白ウサギ。それを見て、快斗は考える。
「…………俺の飯を取らないなら、いい。自分で取ってこいよ。飯は。言っとくがお前は俺が邪魔だと感じたらすぐに殺して喰うからな。」
「キュイ‼」
それでも良いというふうに、大声で頷く白ウサギ。
「足手まといになんなよ。白ウサギ。」
「キュイ‼キュイキュイキュイ‼」
「んあ?」
白ウサギが大きく頭を横に振り始めた。全くなんなんだと、快斗は呆れて、再度、白ウサギに向き合い、聞く。
「何が不満なんだ?」
「キュイ‼」
「…………あ〜分かんねぇな。」
「キュイ‼」
「うるせぇな白ウサギ。」
「キュキュイ‼」
「…………名前か?俺に名前をつけろというのか?」
「キュイ‼」
やっとわかったかと言う風に、少し呆れ気味に白ウサギが頷く。意外に本気で名前を決めて欲しいそうだ。そんなもの決めてどうするのかと快斗は思いながら、考えてみる。
脳内で引っ張り出すのは、英単語。少ししか合ってない中での白ウサギの印象を英語に変えて、くっつければいいと考えたのだ。
快斗からした白ウサギの印象は、速い、白い、ウサギというこの3つだ。ウサギというのを英語にしてもダサいので没にする快斗。
なら、速いと白いである。スピードとホワイト。スピード、ホワイト、スピード、ホワイト……………………。
「…………もう鳴き声のキューでよくね?いや、流石にそれは駄目か。」
「キュイ?」
間違えて違う言い方をしてしまった時に、白ウサギの目が輝いた。快斗がまさか…という顔で、白ウサギに尋ねる。
「…………キューさ〜ん?」
「キューイ‼」
「あぁ……。よくできました…………。」
構造上、うまく上がらない前足を必死に上げて、幼稚園でのやり取りを成立させる白ウサギ。これはもう駄目だと快斗は諦めた。
こうして、快斗の永遠の相棒になりかねない魔物、キューが生まれた。名付けのセンスが皆無であると昔いわれたのを思い出しながら、快斗は、頭を抱えるのだった。
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