第6話 拒絶
「あれ、意外に綺麗。」
「あんた、そりゃギルドなんだから、これぐらい綺麗にはするでしょ。」
中に入ると、外からの見た目よりも綺麗だった。床は大理石のような石で出来ていて、四つ角には白く光る丸い石がおいてある。受付は5つあり、それぞれに美人の受付嬢がついている。
快斗達が向かうのは一番左、冒険者登録用の受付である。
「すいませーん。登録したいでーす。」
「あ、はい。ご登録ですね。職業は何にいたしますか?」
「冒険者で。」
「はい。かしこまりました。あなたは?」
アシメルがパッパと済ませてしまい、出遅れた快斗に笑いかけてくる受付嬢。ニッコリと綺麗な顔を向けられ少し緊張しながらも、快斗は気になったことを聞いてみた。
「冒険者意外の職業もあるのか?」
「え?あぁ御座いますよ。」
「何がある?」
「ええと、こちらをご覧ください。」
「んーなになに?」
「おお?」
受付嬢から渡された紙を見つめる快斗。それを隣からアシメルが覗く。紙には、いくつかの職業が書かれていた。
冒険者・剣士、魔剣士、極剣士、剣帝、
槍士、魔槍士、極槍士、槍帝、
弓士、魔弓士、極弓士、弓帝
魔術師、極魔術師、魔術帝
その他…………
料理人・名人、職人、極人
大工・名人、職人、極人
計算師・名人、職人、極人
「これだけか?」
「いえ、他にも御座いますが、大抵の方々はそれらの中のものを選びます。」
「へー」
快斗が頷いていると、受付嬢が何やら水晶のようなものを取り出して、アシメルに手をかざすよう促した。
「なにこれ?」
「鑑定水晶です。これに手をかざすと、こちらの石に能力と名前が記載されます。身分証明石です。」
「へぇー。」
アシメルが手をかざす。一瞬緑色の光がアシメルを照らし、その後に身分証明石と言われた石が光った。
「ふむ。アシメル様ですね。それではこれらの中の職業をお選び下さい。」
「あいよ。じゃあその間に快斗がやりなよ。」
「分かった。」
「どうぞ。」
受付嬢が前に出した水晶に手をかざす。アシメルと同じように、緑色の光に包まれ、すぐ後に身分証明石が光った。
「ええと、…………あれ?」
「んあ?どうした?」
身分証明石を快斗に渡そうとした受付嬢が止まる。目を見開き、何かにとてつもなく驚いているようだ。そして、身分証明石と快斗を何度も交互に見たあと、小さく呟いた。
「…悪魔…………?」
「え?」
その言葉に、今度はアシメルが目を見開く。自分が持っている身分証明石を落とし、快斗のものを覗き込む。そして、すぐに怯えたような顔で快斗を凝視して、
「あ……悪魔だ…………。本物の悪魔だ‼」
「「「ッ⁉」」」
アシメルの言葉に、ギルド中の冒険者や実力に自身がありそうなものが、険しい顔で快斗を睨んだ。
「こ、この強さは……並のものでは…み、皆さん‼緊急討伐依頼です‼ここにいる大悪魔、
天野快斗を討伐してください‼」
「はぁ⁉」
受付嬢が周りにいる人達に向かって大声で叫んだ。それが、始まりだった。
「おらぁ‼」
「ぶち殺してやる‼」
「やってやるわ‼」
「おわぁ‼」
全員が一斉に、快斗に攻撃を仕掛けた。剣や魔法が飛び交う中、快斗はその間を、身体能力で躱し、全速力で逃げ出した。
「クソ‼俺が悪魔?どういうこった‼」
快斗は受付嬢に向かって大声で叫んだ。受付嬢は、快斗の身分証明石を掲げて、
「こちらに、あの者の種族は悪魔と記載されています。どうか皆様、悪なる種族を打倒してください‼」
「「「おおー‼」」」
「クソッタレ‼逃げるしかねーか‼」
快斗は窓を突き破り、取り敢えず避難しようとした。すると、騒ぎは外まで伝わっていたらしく、外にも大量の冒険者達がいた。
「クソ‼」
その中で、顔に傷を大量につけた、細い男が、早歩きのような足の動かし方で、高速で近づいてきて、
「あなたのその剣、東方のものですかね。かなりいいもののようですね。その剣、いただきますね。」
「なっ⁉」
耳元で少し話したあと、その腕が蛇のように、関節を無視して、冒険者達の間をすり抜け、快斗の草薙剣を快斗から取り上げ、そのまま逃げていった。
「クッソ‼あの泥棒‼」
「生き物の敵が、何騒いでやがる‼」
迫る大拳。柔らかい体を腰から折り曲げ、後倒しになる姿勢で、ギリギリで躱し、その場から退散する。
戦い方を知らない快斗は、全速力で遠くに見える山へ向かって走っていった。西通りを走り抜け、壁を超えて山の中まで走っていった。冒険者達は、壁までは追ってきたが、そこから先からは追ってこなかった。
そのことに内心ホッとしながらも、これからどうしようかと悩む快斗。山の中の大きな石の上にポツリと座り込む。いつの間にか天気が崩れ、雨が振り始め、快斗を隅々まで濡らしていく。
「あー。濡れたー。最悪だ。ったく、俺は悪魔だったのかよ。それぐらいは伝えておいて欲しかったぜ。魔神様よ。」
空に向かって独り言を言う。受付嬢が大悪魔と呼んでいたのを思い出して、俺は何なんだと哲学的な質問を自分に投げかける快斗。
「思えば腹が立ってきたな。地球でもこっちでもイジメられるってのか?どこ行ってもこんな運命なのかよ。ハァ………。いや…」
快斗は、顔をつたる雨のしずくを拭き取ったあと、心の奥底に湧き出した感情を、会とは全面に出した。口角を盛大に釣り上げ、それこそ悪魔のような顔で、
「全部、殺してやる‼ぶち殺してやる‼復讐だ‼ここで戦いを学んで、全部全部、消してやる‼だから……」
尖った歯と、鋭い眼光が、後ろから近づいてきている気配を睨みつけた。その気配は一瞬怯んだが、すぐに殺気を放つと、快斗めがけて飛び込んできた。
邪悪な微精霊、バーゲスト、犬型だ。鎖を体に纏い、鋭い鉤爪と鋭い牙を持っている。目は黒く、体は真っ黒。闇に同化する狩人。今まさに飛び込んできたその敵に対して、快斗は、
「死ねやぁぁ‼」
その鉤爪と牙を躱し、首を力強く掴んで、思いっきり地面に向かって、叩きつけた。思い鎖がジャリンとなり、バーゲストがキャインと鳴いて口から血を吐き出す。
「ラアアア‼」
「ウォーオーン‼」
快斗が、爪で腹を突き、中の臓器を引っ掴み、引きづりだした。今まで感じたことの無いような痛みにバーゲストは絶叫し、体を捨てて、魂体となって抜け出した。バーゲストだからこそできる技。
普通の人間なら、その魂体を目視する事ができるはずがない。しかし、その場にいるのは、
「なんだこれ?黒い塊?なんだか知らねぇが、ちょこちょこ動いてムカつくんだよぉ‼」
「ッ⁉」
快斗は悪魔である。悪魔とは、生き物の魂を捕食し、滅ぼす者。邪霊の魂体を見ること、掴むことなど造作もない。故に、
「腹減ってんだよこっちはよぉ‼」
「ッーー‼」
その魂体を、快斗は喰らった。普段使っている胃とはまた別の胃、事実上の『別腹』に、捕食された魂体が流れ込み、魔力となって、快斗の礎へと変化する。
バーゲストが使っていた体は崩れて灰になり、雨に流されて消え去った。
快斗が握っていた臓器も、真っ白な灰に変化して、雨に溶けてしまった。食べようと思っていた快斗は残念そうな顔をした後、新たな獲物の気配に意識を向け、
「かかってこいよ。全部返り討ちにして、その魂、喰い荒らしてやるよ‼」
「「「ガァア‼」」」
全部で6体の犬型のバーゲストが快斗に飛びかかる。それを低い姿勢で跳び、すべての下を潜ったあと、すれ違う瞬間に一匹のバーゲストの足を引っ掴み、
「オラァ‼」
「キャイン‼」
そのまま地面へ頭から叩き落とした。快斗は、細いのに異常なほどの力を出せる腕を、バーゲストの頭蓋に叩き落とした。悲鳴を上げる暇もなく絶命するバーゲスト。
その体の心臓部分に手を突っ込み、
「あったぜ‼獲物‼」
そう言って、バーゲストの本体を引きづりだし、そのまま口へと運ぶ。なんとも言えない味を楽しみ、さらに食欲が湧く。口に滴るよだれと雨を拭いながら、ギラギラ歯を光らせ、
「てめぇらは、全部それぞれ違う味なのな。これなら飽きねぇや‼」
「ガァヴ‼」
一匹のバーゲストが、快斗の右腕に噛み付いた。顎の力はおよそ100kg。快斗の腕は血を流しながら、骨をむき出しにするほど、バーゲストの歯に肉をえぐられ、骨にヒビが入る。
「ぐ………、ラァア‼」
「ガ、ガァウ⁉」
快斗は、腕にバーゲストをつけたまま、近くの石に跳んでいき、その頭蓋と右腕を左腕で掴んで玩具とし、思いっきり叩きつけた。血と共に、本体が飛び出す。
「逃さねぇ‼」
それを左手で引っ掴み、口に運ぶ。腹の中で自分の魔力に還元し、魔力を高める。すると、
「おおお⁉」
腕の傷が、みるみるうちに塞がり、あともう少しで完全というところで止まった。快斗は、「その状態が地味に痛いんだよ……。」と嘆いたあと、バーゲストを強く睨んで、
「もっと喰ったら、回復するかもなぁ‼」
爪を前でクロスさせ、一匹のバーゲストに突っ込み、目を潰す。
「キャァイン‼」
絶叫して、鋭い爪でその腕を引っ掻き回すバーゲストを無視して、快斗は、目から入れた指をそのまま頭脳へぶっ刺した。
「ガ、」
バーゲストは一瞬ビクンと震えると、そのまま倒れて絶命、その中から本体が飛び出す。
「待てぇい‼」
掴まずに、ダイレクトに口で捕まえる。そのまま飲み込み、魔力へ還元。傷が全てふさがり、体中に力が漲る。快斗が試しに腕に魔力を集めると、赤黒い魔力が腕を包み、快斗が腕の力を一時的に爆発的に増やす。
「おお‼いいな‼っしゃ‼どんどんかかってこい‼」
「ガァウ‼」
「ガァア‼」
「ヴゥヴ‼」
一匹が後ろに行き、あとの二匹が快斗に突っ込んだ。
臆病なやつだなと思いながら奥の一匹を見ていた快斗だったが、次の瞬間、
「アウォーーン‼」
「うわっ⁉」
快斗の足元が陥没し、泥の沼のような状態になる。しかも、目の前から、いくつかの泥玉が凄まじい勢いで飛んできた。魔術だ。
快斗は両手をクロスさせて体を守るが、想像以上に泥玉の威力が強く、勢いに押されて吹き飛んだ。そして、そこへ追い打ちのバーゲスト二匹。連携である。
「クソッタレが‼」
快斗は、倒れた姿勢から、足と手を振り回しながら回転し、バーゲスト二匹の顔を、開いた足で蹴り飛ばした。昔、地球にいた頃入っていた部活で習ったもの、ブレイクダンス。
快斗は地球にいた頃は、高谷と一緒にダンス部に入っていた。見ただけで覚えられるので、既に部長的存在になっていた快斗は、顧問から特別にブレイクダンスを教えてもらったことがある。
そして、前世の比ではない力を手に入れた今、その動きは更に磨かれ、攻撃となって快斗に身についていた。
「さて、やってやろうじゃんか。その頭、かち割ってやる‼」
地を蹴り、魔術を放ったバーゲストに超高速で近づき、心臓を一突き。そのまま内臓とともに本体を引きづりだし、喰う。
また力が倍増し、飛びかかってきたバーゲストの頭を思いっきり蹴り飛ばす。その強烈な蹴りに耐えきれなかった頭蓋が一瞬で破壊され、体が機能しなくなる。
本体を捕まえ、喰ったあと、その場から種を返して逃げていく最後のバーゲストをその場から跳んで尻尾を引っ掴み、
「逃げてんじゃねぇ‼」
尻尾の付け根にあしを添え、思いっきり尻尾を引っ張った。すると、
「キャイ⁉」
それに背骨が繋がったまま体から引き向け、脊髄がやられ、体が使い物にならなくなる。ドサッと倒れ込み、そこから本体が飛び出す。
「こいつで最後‼」
それを掴み、丁寧に口へ運んでいく。そのまま『別腹』を満たし、自分の身体能力が上がったことを実感する快斗。
いつの間にか雨もやみ、快斗が地球とは違った世界にきて、初めての戦闘は、これにて幕を閉じたのだった。
しかし、まだ満たされない飢餓感が、快斗を襲う。グ〜〜と大きな音を立てて、空腹を主張する快斗の『別腹』。食べ始めたら、食欲が湧くタイプである。
「…………まだ他の獲物が居るっぽいな。」
快斗はそのまま、獲物を探して山奥へと入って行ってしまった。
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