第5話 怒羅の店
「さて、どうするか。」
顎に手を当てながら、賑やかな街を歩いている少年は快斗だ。吹いてくる涼し気な風に、白銀の髪がなびいている。
ぼーっと空を眺めながら歩いているのだが、快斗とて、何も考えていないわけではない。快斗が向かっているのは、茶色いレンガと、所々に鉄がついている大きな建物、上の看板には『ギルド』と書かれている場所だ。
この世界の言語は日本語のようで、文字も話す言葉も日本語だ。英語もあるが、それは原住民などが使う言語らしく、未だに使う人間は少ないようだ。もっとも、現代日本のように英語と日本語が混合してしまっている感はあるが。
快斗はなんとなく商店街を抜け、ギルドに直行する。が、その目の前に来たときに、ふと、違うものが気になった。
「なんだ?」
快斗が辺りを見回していると、視界に白いドレスのようなものを着た女性が入った。その女性は快斗の視線に気づくと、ニッコリと笑いながら、手招きをし、身を翻して、遠くへ歩いていく。
「ついてこいって、ことだよな。まぁ美人だし、逆ナンみたいなもんかな?」
そう言いながら、早足で女性を追っていった。
ギルドを中心として、この街には大通りが4つ存在している。ギルドの入り口が南、その逆が北、右が東、左が西というふうに作られていて、大通りは全てに方角で名がつけられている。
快斗が今いるのは西通り、その脇道だ。女性を追いかけていたところ、その女性は大通りを逸れ、脇道へと入り、そして黒い看板が吊るしてある、昔ながらの酒場、『怒羅』と書かれた店に入っていった。
少し店の前に止まり、研ぎ澄まされた嗅覚で酒の匂いを感じ取り、一瞬入るか迷う快斗。だが、美女からのお誘いは断れんと、店に入ると、
「いらっしゃい。ここまで来て下さり有難うございます。珍しい格好をしておられましたので、少々興味がわきまして。」
先程の女性が、コップを布で吹きながら微笑んでいた。
「…………ここは酒場か?」
「はい。左様で御座います。どうぞお座りください。お好みのものをお出ししますよ。」
「俺、酒飲んだことねぇんだよな。」
「あら。」
女性は、口に両手を当て、意外と行った顔で驚いている。
「そうですか。では初めてということで、これはいかがですか?」
「…………これは?」
「ポルー酒で御座います。アルコール濃度が低めですので、初めてでもお楽しみ頂けるかと。」
「おぉ。初酒。いただきます。」
快斗は出された酒をゆっくりと飲んでみた。ゴクゴクと音を出しながら、喉の奥に流し込んでいく。どくどくの香りと炭酸が快斗の口の中に広がり、
「酒って美味いんだな。」
快斗の好きな飲み物に追加されたのだった。
「ふふ。良かったです。お酒が嫌いな人じゃなくて。最近ではお酒に弱い人が多くて困ります。お酒の良さをもっと広めたいものです。」
「ふーん。…………そういえば、あんたの名前は?」
「え?あぁ、そういえばまだご紹介しておりませんでしたね。私としたことが、失礼しました。私はここ、酒場『怒羅』の店主、ルーネスと申します。元冒険者です。」
ルーネスは、礼儀正しくお辞儀をしながら、自己紹介をした。快斗は元冒険者という部分に少し反応したが、抑えて、
「俺は、天野快斗だ。よろしく頼むぜ。」
自分も頭を下げて自己紹介をしたのだった。
「快斗様ですか?珍しい名前ですね。あまりいらっしゃいませんよ?漢字で名前を書くお方は。」
「そうなのか。」
「えぇ。確か王都にいる四大剣将のひとりの侍さんが漢字だったと思いますけど、その他には、私は知りませんねぇ。」
顎に手を当て考えるルーネス。茜色の髪がサラッと動き、優雅に見せる。
「ふむ。ルーネスさん。俺この街に来てまだ間もねぇんだけど、どうやってたらお金稼げんのかね?できれば戦闘系で。」
「うーん。そうですねぇ。一番はやはり冒険者ではないでしょうか。討伐依頼などを受けてお金を稼ぐのが一番良いと思いますよ。素材も売れますし。」
「やっぱそうか。」
ギルドに貼ってあった大量の依頼が書かれた紙を思い浮かべながら、快斗は質問を続ける。
「依頼を受けるのは、冒険者じゃないといけねぇのか?」
「いいえ。受けるだけなら可能ですが、冒険者のほうが報酬金は上がります。ギルドに加入している特典のようなものです。」
「なるほど。」
「他にも、冒険者になると、怪我などをしたときに薬が支給されたりとか、武器が支給されることが御座います。ギルドに加入している特典です。」
「ふーん。」
やはり冒険者になったほうがいいのかと考える快斗。その後少しルーネスと雑談をしながら、酒を飲んだあと、時間も遅くなってきたので、おすすめの宿を聞き、店をあとにしたのだった。
「また、お越しくださいませ。歓迎したします。」
「んあ。また来させてもらうぜ。」
そう言ってルーネスと分かれると、教えられた宿に行き、風呂付き、食事付きで三日間部屋をとることにした。
ギルドで依頼を受けようと思ったからだ。冒険者への成り方は、ルーネスに聞いている。そして、そのままいくらか金を稼いだあと、戦闘練習をし、仲間探しの旅、そして修行をしまくる。今後の流れはこんな感じだろうと快斗は考え、その日は就寝したのだった。
翌日、
快斗は朝風呂を済ませ、食堂で朝食をとりながら、癖でボカロ曲を歌っていると、
「よぉ。あんた歌うまいな。隣いいか?」
「んあ?」
赤茶色のショートヘアーの少女が、快斗の隣にお膳を置いて聞いてきた。
「別に構わないぞ。」
「ありがと。ねぇ、その歌なんていうの?あんたが作ったの?いい歌だね〜。教えてよ〜。」
座るやいなや、いきなり馴れ馴れしくなる少女。少し鬱陶しく感じた快斗は、
「わかったわかった。分かったから静かにしてくれ。まずは名前を教えろ。自己紹介は基本だろ?」
「あーそっかそっか。ごめんごめん。あたしはアシメルだよ。よろしくね。あんたは?」
「天野快斗だ。よろしく頼む。」
「へー。珍しい名前。」
「みんな言うな。」
それから互いに自己紹介を済ませ、雑談をしながら、食事をとった。聞くと、アシメルもこれからギルド登録をしに行くという。依頼料を上げるためだとか。「世の中金だよね〜」と手を振って話していた。
快斗が自分もだというと、目を輝かせて、
「じゃあ一緒に行こう‼」
と大声で言ってきたので、少し呆れながら分かったと快斗は返事をして、食器をかたし、共にギルドに向かったのだった。
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