第4話 目覚めた悪魔

「んー、あ?…………あれ?」


快斗が目覚めると、視界のど真ん中に、小さめのシャンデリアが映った。いつくもついているダイヤの様な透き通る宝石が光を屈折させ、美しい光の芸術を作り出している。


「よっと、ここは〜…………。」


体を起こしてみる。どうやら快斗は、ベッドに寝転がっていたようだ。周りを見渡すと、壁、床、天井全てが金色だった。大きな鏡や、きれいな机、椅子。透明なカーテンを脇に備えた窓など、豪華としか言いようがなかった。


「しょ、庶民には辛い。この輝き。」


快斗が目を抑えながら、部屋に見惚れていると、


コンコン

「ッ‼」


扉がいきなり、ノックされた。快斗は、部屋に気を奪われていたため、情けなく驚きすぎてベッドからずり落ちてしまった。


「失礼します。」

「んあ?…………マジかよ。」


快斗は開けられたドアの方を少し睨みながら振り向いた。ドアから入って来たのは、


「エレメロ様にお仕えしてるメイド。ベリアルと申します。以後、お見知りおきを。」


清楚なメイド服を着た、薄紫ロングヘアー二次元美女、ベリアルと名乗る女性が入ってきた。


「あ……あ……。」


あまりの美しさに言葉が出ない快斗。少し泳いでいる快斗の目をしっかりと見つめているベリアルは、少し表情を柔らかくして、


「天野快斗様。魔神エレメロ様がお呼びです。こちらへ。」


そう言って、ドアの先を手で指し示した。


「あ、あぁ。」


ぎこちなく挨拶をしながら、ゆっくりと立ち上がり、外に出ていくベリアルについていく快斗。


「おぉーでけー‼」


ドアを超えると廊下に出た。天井が6mほど上にあり、等間隔に部屋のシャンデリアよりも大きな物がついていた。


「あれいくらすんだ?…………一個とっていいかな?」

「なにか?」

「あぁいや。なんでもない。」


長い廊下を抜け、今までの扉よりも一際大きな扉の前についた。


「どうぞ。」


ベリアルが重そうな扉を片手で軽々開ける。内心で(え?強すぎじゃね?あの細腕の何処のその力が?)と少し引きながらついて行った。


「んあ?」


中に入ると、今までとは比べ物にならない程に広い空間に出た。上には、何層にも連なっている巨大なシャンデリアがついていた。空間全体をすべて照らし出している。そして、


「天野快斗様。あちらにお座りになられておられる方が、魔神エレメロ様と、鬼神ディオレス様です。」


広い空間の最奥、大きな金色の2つの椅子それぞれに座っている男女を指して、ベリアルはそう告げた。


それを聞いて、女性のほうがニッコリと微笑むと、


「やぁ。快斗君。私はエレメロ、魔神だよ。

やっぱり、私が選んだ器は最適だったようだね。」


片手を振ってそう言った。それを聞いあとに、男のほうが大きく頷いて、ニッと笑うと


「よう‼ガキンチョ‼俺ぁディオレスだ‼よろしくな‼こう見えても鬼神だ‼」


元気一杯に、大声で自己紹介をしてきた。

それぞれ個性が激しい者たちである。


エレメロは、亜麻色の長い髪を持ち、瞳は菖蒲色。胸は豊かで、勝色のドレスから覗く双丘は、神秘の映像だ。


ディオレスは、鬱金色の反り上がった髪を持ち、瞳は藍色。上半身裸で、鍛え上げられた筋肉が大露出している。額には大きな角が生えており、金色に輝いている。


「ええと…………魔神と鬼神がなんのようだよ?」


快斗は少し戸惑ったあと、取り敢えず一番の疑問を彼らにぶつけてみる。


「うん。今から説明するよ。」


すると魔神が、片手を前に出し、その掌にあるものを作り出した。それは、


(魔法陣⁉)


紫色の光でかたどられた魔法陣が光り輝き、その中心から8つの光の塊が出現する。


「何だそれ?」


咄嗟に質問する。


「これはね。因子さ。」

「因子?」

「そう。私達の因子さ。紫色のものが私。黄色のものがディオレス。まぁ、魔神因子と鬼神因子といったところかね。」

「…………何に使うんだ?」

「これからやる事にだよ。」


そう言って、エレメロは因子を空中に浮かべたまま、説明を始めた。


「今、私達はゲームを行っているのさ。とても面白いゲームをね。このゲームは、君の世界で言えばデスゲームだね。殺し合いだよ。

私とディオレスで一チーム。邪神と狂神で一チーム。それぞれ7人の戦士と、手下の神を一人、合計八人の戦士を戦わせるのさ。そして、相手の戦士を全滅させた方の勝ち。面白いだろ?戦士達には、一人ずつ、従う神の因子を与える。これにより、相当な力を手に入れるだろう。ただ、貧弱な体に宿すと、体が耐えられずに、弾けてしまうのだけどね。で、勝ったほうで、生き残っている戦士には、願いを一つ叶えるという褒美を、従えている神が与えるのさ。そして、負けた方の神は、今回を持って消えてもらう。神としても殺し合いになるゲームさ。どうだい?内容は理解してくれたかい?」

「あ、あぁ…なんとなくな。」


簡単でわかりやすいが、あまりにも残酷なゲーム内容に、少し動揺する快斗。しかし、その次に続くエレメロの言葉は、それ以上に残酷だった。


「君にはこれから、そのゲームに駒として参加してもらうよ。」

「…………は?」


?しか浮かばなかった。快斗は完全に頭が真っ白になった。楽しそうだけど絶対に参加したくないなぁと思っていたため、参加の言葉を聞いた途端に、感情が消えた。


そして思った。

(マジかよ………めんどくせぇよ…………)と。


そう。快斗はすでに壊れている。この言葉を聞いて、面倒くさいとしか感情として浮かんでこないのだ。


あのバス内での悪口の嵐の中で、快斗の死に対する恐怖心の部分は欠けていた。本人は気づいていないが、無意識に恐怖心が消え始めているのである。


それを知っているエレメロはニヤリと笑うと、


「勝ったら願いが叶うよ?やる価値はあるだろう?それに、クラスメイトや教師を殺している君にとって、殺し合いなんて今更だろう?どうだい?このゲームに参加して、勝利を勝ち取ってみたくないかい?」

「…………。」


快斗の脳内で、同じ言葉がグルグルと回っていた。


殺し合い→勝ち→願い事→殺し合い→勝ち→願い事→殺し合い→勝ち→願い事。


願い事の部分で止まり、(やっても得しかなくね?)と何故かそう快斗は考え、大きく頷いてから、満面の笑みで、


「いいだろう‼やってやろうじゃねぇか‼」

「ほう。」


計画通り、というふうに、椅子に片肘を付きながら、エレメロは笑うと、


「だそうだ。ディオレス。」

「おう‼いい答えだ‼それでこそ男だぜ‼ガキンチョ‼」


これまた満面の笑みで、ディオレスが快斗に、グーとポーズをする。見た目が完全に熱血教師だ。


「それじゃあ、頼むよディオレス。」

「あいよ‼ガキンチョ‼そのまま動くなよ‼」

「うえ?」


ディオレスが急に立ち上がり、魔神因子を引っ掴むと、快斗の前に跳び、左足を思いっきり地面へ叩きつけ、踏み込む。そして、


「因子の入れ方ぁ、こうだぁ‼」

「ごふっ⁉」


ディオレスが超高速で快斗へ接近し、その勢いのまま、因子を腹へ叩きつけた。因子はスッと快斗の体に吸い込まれ、力の根源として、体の中に君臨した。


そんなことを実感する暇もなく、快斗は、くの字に曲がったまま、先程通った、大きな扉の方へ吹き飛び、


「ベリアル。」

「はい。エレメロ様。」

「がはっ⁉」


ベリアルにがっしりと受け止められた。快斗は盛大に口から、つばを吐き出し、少し反抗心を目に宿しながら、


「おい‼今のはねぇだろ‼」


と叫ぶ。


「ハッハ‼男ならぁあれぐれぇ耐えろ‼それに、因子はきっちりとハマったぞ‼さすが、エレメロが用意した器だな‼」

「それよりも、ゴホ、俺の、心配は?開始する前に神に腹パンされて死亡とか笑えねぇよ。」

「大丈夫です。ディオレス様は加減がお上手な方です。」

「そういう意味じゃねぇよ。…てか、今のが加減⁉」


神の凄まじさに目を剥きながら、なんとか立ち上がり、因子の定着を感じ取る。


「なーんか、力が出るような出ないような?」

「まぁ最初はそうだろうね。君はまだ強者というわけではないからね。今の時点ではとてつもなく強いけど、まだ戦い方を知らない未熟者だからね。あっちに行って鍛える必要があるよ。」

「そうか。よっ‼おぉ⁉すげー‼一発で跳んでこれた‼」


なんとなく快斗が飛び跳ねてみると、5m程を、助走無しで跳ぶことができた。やはり身体能力は馬鹿にならないほどに上がっているようだ。


「さて、次は君の仲間になる神を紹介するよ。」


エレメロはそう言うと、ディオレスを見つめる。それに気づいたディオレスが大きく頷き、


「我、鬼の神の名において、そなたを呼び出す。その破壊の力をもって、我らの賭け事に参戦せよ。来い‼

破壊神ネガ・グランディレス‼」


ディオレスが目を瞑りながら、自分の右手を胸に当て、詠唱のようなことをするをそして言い終わると、目をカッと開いて、地面へその手を叩きつけた。すると、ボンッと音がして、一人の女性が出てきた。


髪は薄ピンク色。長い髪は纏められておらず、サラサラとなびいている。真っ黒の服を着ていて、胸元は開けている。エレメロ以上の巨乳が除き、妖艶さを際立たせている。

瞳は菖蒲色。目つきは鋭く、しかし表情は優しげに笑う背の高い女性。


「貴様が快斗とやらか、貧弱なガキであるな。我は破壊神ネガ。ネガと呼ぶがよい。」


少し快斗を見つめたあと、興味なさげと言った感じで、手を軽く振りながらそっぽを向いてしまった。


(めんどくさい性格だなぁ…)と快斗は思いながら、取り敢えず挨拶をする。


「ちわっす。貧弱軟弱な快斗どぅえーす。どうぞよろしくお願いしまーす。」


少し挑発気味に自己紹介してしまったのは、快斗の小さな反抗心からくるものである。


しかし、しかしだ。いくらなんでも叩く事はないだろうと、快斗は泣きながらうなだれる。


「生意気なガキだ。このまま破壊してやろうか。」

「駄目だよネガ。貧弱だとしても仲間でしょ。仲良くしてあげなさい。」

「あいよ。エレメロ様がそう言うなら、仕方ねぇな。」

「この性格は、ディオレスの教育故だね。」

「しょうがねぇだろ。宇宙を彷徨っていたやつを拾って育てたら、破壊神になっちまったんだ。落ち度はあるが、立派なやつだぜ。」

「あー。開始早々やる気なくした〜。」


快斗が寝たまま、ゴロゴロと道の端に移動する。それを見てネガがため息をつくと、


「では、ディオレス様。」

「おう‼お前なら、さっきのガキンチョみたいにならないだろうな‼」

「当たり前だ。我とて神だ。あんな軟弱者と一緒にされては困る。」

「ハッハ‼いい言葉だ‼じゃあ、いくぜ‼」


ディオレスはさっき快斗がにやったように踏み込み、超高速でネガの腹に鬼神因子を………

投げつけた。


「なっ⁉」


因子はネガにすっぽりハマり、浸透し、力を増大させていく。


「おお。これがディオレス様の因子か。いいものだ。感謝する。」

「ハッハ‼いいってことよ‼」

「ちょっと待てぇい‼なんで投げるだけなんだよ。俺のときは突っ込んできただろうが‼」

「あ?そんなの簡単なことだ‼」

「何だよ。」


快斗が、自分のときとネガの時の違いを訴えると、ディオレスは少しためてから、


「あんな巨乳がついている場所に、突っ込めるわけあるかー‼」

「お前が一番へっぽこじゃねぇか‼」


意外な理由を暴露するディオレスに、思いっきり反論する快斗。その光景を微笑ましいといった感じで眺めていたエレメロが口を開いた。


「はいはいそこまで。さて、次は仲間探しについて説明するよ〜。」

「んあ?仲間探し?」

「そうそう。あと仲間が6人いるわけさ。その仲間を探すのは、快斗君に任せたい。」

「え?なんで?ネガにやらせればいいじゃねぇか。」

「そうしたいけどね。ネガは面倒くさがりやでね。多分君が仲間全員を集めてから合流すると思うよ。」

「は⁉」


快斗がネガを見ると、ウンウンと頷いているネガがいた。最初から、やる気なしという感じである。


「ハァ…まぁいいけどよ。」

「うん。それでいい。じゃあこの因子を君に預けるよ。邪神たちの駒に取られないようにね。それと因子を入れるときのやり方は…」

「俺と同じようにやれガキンチョ‼」

「は、はいよ。」


渋々返事をし、快斗は、6つの因子をエレメロから受け取る。体にスッと消えていったが、快斗に浸透したわけではないようだ。


「因子は、念じればいつでも出てくるからね。でもホイホイ出さないように。いつ、誰が、何に使おうとするかわからないからね。」

「分かった。」

「それと金銭袋だ。あっちでいうと一ヶ月は生きられるよ。」

「サンキュ。」


エレメロが投げた小さな袋を開いてみると、銀色の硬化が50枚入っていた。


「あっちの金銭のシステムは、君が知っている銅貨、銀貨、金貨のシステムだと思ってくれればいい。さて、準備は整った。あっちに行ってから、自分を鍛えながら、仲間探し、頑張ってね。」


エレメロが微笑む。そして、その隣のディオレスは、後ろから何かを取り出した。柄に入っている刀だ。


「これは俺特製の刀だ‼草薙剣‼持っていきな‼」

「おわっと。おお。サンキューな。」


柄に斜めに紐がついており、そこに方肩を通して、背負うことができるようになっている。快斗は、それを背負い、金銭袋を服のポケットにしまい、準備万端とする。


「よし。準備はいいね?」

「いいぞ‼」

「それじゃあ、頑張ってね。いってらしゃい。」

「おわっ⁉」


エレメロが快斗の下に魔法陣を描き、それが白く輝くと、快斗を吸い込んでいった。そしてそれに連れて、快斗の意識が消えていき、そして、完全に意識が消えた。その体は、ゲームの舞台、セシンドグロス王国へ。


ゲームが今、開始される。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「いい感じに旅立っていったね。そうだな。さながら、彼は…………

大悪魔、天野快斗、とでも名付けようか。」


快斗が去ったあとの空間には、そうポツリと呟くエレメロと、遠くからする、夕食を取り合う音だけが、静かに存在していた。

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