第3話 暗い世界

暗い。真っ暗である。そうとしか言いようのない空間。光もなく、生物もおらず、闇だけが支配している空間。そこに一つ、その真っ黒の空間に突如、異物が紛れ込んだ。


紫色の丸いそれは、薄く光を放ち、中にある核のような部分を白く光らせ、闇を照らす。


周りの闇が少しずつ晴れていく中、非常に清々しい声が響いた。


「あースッキリしたー‼やっと俺の病気を直せたよ。まぁ死んじまったが、これも結果としては良かっただろうな。」


声の主、それは先程起こったバスの落下事故の原因の快斗だ。この紫色の丸いものは快斗の魂なのだ


バスに乗っていた人間は、落下の衝撃によって、潰れて死亡してしまった。それは快斗も例外ではなく、皆と同じように、頭部を破壊され、死亡してしまった。


最も、快斗としては、クラスメイト全員と自分、が殺す標的だったので、結果としては良いのである。


標的に自分が入っているのは、自分が助かったとしても、どのみち社会では生きていけない立場になるだろう。そうなるならばいっそと思ったため、そうなったのである。


「うーん。さて、死ねたのはいいが…………

どこだろうな?ここは。」


ひたすら暗い空間を快斗は見回す。目や口はないのに、見えたり喋れたりすることを不思議に思いながら、何かないか探してみる。


しかし、何かがあるわけでも無く、徒労に終わった。すると、


「なにここ。まじで何もないじゃん。これってもしかして、何もない地獄?ここで5億年生きろみたいな?そんな事ある?」


快斗がここを地獄なのではないかと考え始めた頃、


『随分と遅れてしまったみたいだね。でも、起きててくれてるみたいだし、いいよね。』

「…………あ?」


どこからともなく、優しげな女性の声が聞こえた。すると、いきなり周りの闇が、快斗を中心に、溜まっていた水が排水口に流れていくときのように集まってきた。


「おぉ⁉」


闇は、快斗の魂を取り込み、侵食し、同一の物になっていく。感覚すべてが一時的に消え、快斗には何もわからなくなる。


やがて闇は、人の身体の形になり、手、足、首、顔、胴、息子を作り上げる。そして快斗の魂は、自然とその体に根をはり、張り巡らせ、感覚を、新しく作られた脳に託す。


「ん?な、なんだ?何が起こってんだ?」


目が開くようになり、鼻が空気を吸い、耳が音を捉え、口が言葉を発する。


闇がなくなり、真っ白になった空間。その中心には、快斗が空中に浮いていた。


「あれ?身体ができてる?なんかめっちゃ筋肉あるし、前より軽いな。」 


空中で体を動かしながら、そう呟いた。


快斗の今の体は、人間のものに似ているが、それにしては少しおかしい部分があった。


爪と歯は鋭く伸び、人間程度なら引き裂けそうなほど鋭利である。目は、左が赤、右が青という左右不対象の色になっている。髪は白く、後ろに反り返り、何本かが纏まって前に垂れている。顔立ちはとてつもなく美形だ。


「なんか変わったな。なんでこうなった?」

『あとで説明するよ。その前に服を着てもらわなくちゃね。』

「ッ」


またいきなり、女性の声が聞こえ、少し驚く快斗。動くようになった首を動かし、周りを見回す。しかし、女性の姿などどこにもなく、代わりに、


『これはプレゼントさ。受け取るがいい。』


黒色の下着、灰色のフード付きの服と黒目の青色のジーンズ、長靴のような形のブーツがあった。


「…………服のプレゼントってのは、どこでも喜びにくいものだな。」


中一の頃に祖母から送られた服を思い出しながら、その場所まで進む。浮いているというのに、意識すれば歩いていけるのだ。


快斗は取り敢えず全ての服を着て、白い空間に向かって、


「着たぞー。」


と叫ぶ。すると、快斗の視界が揺らいだ。激しい頭痛が快斗を襲い、意識を奪っていく。


「ぐ⁉なんだ……。なんだってんだ……。ク…ソ。あ…。」


あまりの痛みに倒れてしまい、そしてそのまま、意識を失った。

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