第2話 大量虐殺自殺
自然豊かな土地にそびえ立つ美しい旅館。そこに向かう山道を走っているバスが3つ。前から一組、二組、三組。ここまで言えば、何をしているかわかるだろうか。
そう、これは修学旅行である。中学最後の修学旅行と言うことで、全ての生徒が楽しみに心躍らせていた。
一組、二組が予定や夕食の話をして盛り上がっている。しかし一方、三組では少し違う盛り上がりがあった。それは、
「おーい。快斗。一番後ろの席で一人とかボッチだな〜。」
「アハハほんとやん‼しかも外眺めてかっこつけてやんの‼」
「カッコよくないよ〜。むしろだっさ〜い‼」
「おい‼ずっと気持ち悪ぃ歌うたってんじゃねぇよ。耳障りだぞ。」
「知ってる?あの快斗とかいうクズはね。一年の頃、一人の女子が女子更衣室のドアを開けた瞬間、その中をじっと見たりして、覗きしだんだって‼しかも毎週‼」
「マジ⁉キモー‼」
「…………ハァ。」
三組の生徒が盛り上がっている話題。それは、天野快斗という一人の男子生徒に対する悪口である。このバスの中には、快斗に味方するものはほぼいない。
一年の頃、なんとなく始業式に出て、学校に向かい、なんとなく授業を受け、なんとなく勉強して、という生活をしていた。その頃は皆とは普通に仲が良かったのだ。
しかし、二度目の定期テストの頃、クラスの中で一番頭が良いと思われている、内田という少しプライドが高い男子生徒が、
「俺全然勉強してないわ〜。みんな、ノーベンで行こうぜ‼」
「いいよ〜。」
「いーよー‼」
クラスの中では権力のある内田は、自分が勉強をしていなかったから皆もそうしようと言い出した。皆がその流れに乗っていく中、快斗は、
「あ〜俺はちょっとやばいから勉強しよう。」
「まぁ快斗はな。小テストいつも0点だもんな。」
「まぁな。授業中はボーッとしてるだけだし、話聞いてないし。」
「じゃあ、今日一緒に勉強しようぜ。俺んち来いよ。」
今でも唯一仲がいいこの生徒は、高谷という。少し変わった性格で、人よりストレスを感じやすいらしい。家に帰ったら愚痴しか言わないそうだ。
「そうだな。そうしよう。」
「おしっ。決まりな。」
そういう事で、放課後、高谷の家で三時間ほど勉強をする日々が続いた。その勉強中も、快斗は集中できずに、途中からスマホをイジっていたが。
そしてテストが終わり、返却日。
「やべーしくったー。」
そう言って悔しがるのは、クラスで二番目に頭がいいと言われている蛯原だ。よく内田と一緒にいる。今回のテストは前回に比べて、点数が悪かったようだ。
「蛯原が悪いなら、俺も悪いかな〜。」
「誰がどうだからどうじゃなくて、自分がどれほど頑張ったかじゃねぇか?」
「それもそうだな」
少し諦め気味のことを言う高谷に、快斗が少し活を入れる。ちなみに快斗は先に返されているが、点数は伝えていない。同時に見ようと約束したからだ。
「よし。持ってきた。」
「じゃあ置いて。行くぞ、せーの‼」
そして、高谷が答案用紙を持ってきたところで、同時にひっくり返す。そして、高谷は一教科ごとの点数を見て、自慢の暗算力で合計し、
「よっしゃ‼前回より上がってら‼」
「おーよかったな。」
「快斗は?」
「あぁ…………変わんねぇよ。」
快斗はそう言って、解答用紙を高谷に見せた。すると、
「…………え?全部満点?」
「おん。」
その言葉にクラスの生徒が全員が快斗たちの方へ振り返る。快斗は平然としているが、高谷やそれ以外のクラスメイトは目を見開いて快斗を見ている。
「変わらないって事は、前回も満点?」
「そうだな。これ簡単だしな。これをミスるはまずい。」
その言葉に、高谷以外のクラスメイトが、苛つきを覚えた。自分がクラス一頭がいいと思っていた内田や、天野を少し見下していた蛯原は特に。
快斗は少し毒舌なのだ。実際、本人も特技は嫌味を言うことと宣言している。そんな性格なこともあり、好き嫌いが分かれる人間ではある。
「でもすげーな。満点ってことは学年一位じゃねぇか。」
「当たり前だろ。一年の勉強ぐらいは余裕さ。」
快斗はそう余裕ぶり、終礼後、高谷と話しながら帰っていった。
その頃の教室では、
「なぁ内田。」
「分かってる。集団リンチだ。」
嫉妬を原因とするイジメの中心者が話していた。それからというもの、蛯原と内田は、快斗がやっていない事や、ちょっとした失敗を大きくしたりして、悪い噂を広めまくり、陰口を叩きあったりなどして、仲間を増やした結果、今は快斗を知らない人か、高谷ぐらいしか味方がいないということになってしまったのだった。
「ほんと……嫉妬心って怖いねぇ…………。」
バスの外を見ながらそう呟く快斗。声音は穏やかだが、かなり苛ついている。無視して寝ようとするが、目を閉じるとどうしても聴覚が鋭くなってしまい、「寝顔キモー‼」や、「何かっこつけて寝ようとしてんだろあいつ。キモくねー‼」という声が聞こえてきてしまい、寝付けなかった。
「おい快斗。寝るんだったら一生そのまま目覚めんなよ。そしたらご褒美に焼いてやるからよ。」
「アハ‼それいいね‼名案‼」
「だろー。ハッハ‼」
快斗の目の前の席でいちゃつくのは、西野とかいう女子と顔以外はクソと言われている渡辺である。よく快斗の目の前でいちゃつきながら馬鹿にしてくる。
「…………うるせーよ、地球の害。価値がないやつに死ねって言われても何も言い返せねぇだろぉが。」
「価値がねぇのはお前だろ。自己紹介乙。」
「…………あ?」
快斗を煽ったのは、斜め左前の色白ガリガリの丹野という男子だ。ゲームばっかやっていて成績は雑魚。
「黙れゲーマーボッチ。」
「byガチぼっち。」
「…………チッ」
今度は長という男子が快斗を煽った。いつもアニメの話ばっかして無駄に声が大きく、つばを飛ばしまくる。
「…………これは何も言わないが正解か。」
頭が沸騰しそうなほど怒りが湧いている快斗は、自分をこれ以上苛つかせないために、目を閉じ、何も言わないようにした。すると、
「先生‼天野君にゲーマーボッチって悪口を言われました‼」
「なに?天野。お前人に悪口行って楽しいのかよ。最低野郎だな。」
そう言っているのは、担任教師の酒井だ。性格はネジ曲がっており、嫌なやつに対しては、とことん追い詰めるサイテー教師だ。
「おい。返事をしやがれ快斗‼おい‼」
マイクを通して、酒井の声が響く。小さく、クラスメイトの笑い声が聞こえる。
「はい。」
「やっと返事したか。お前な。目上の人間である俺が呼んでやってるんだ。さっさと返事しろよ‼そんな事もわからないのか‼失敗作‼」
「…………すみません。」
「お前はほんとにダメなやつだな。成績だけだぞ。そんなだから皆に嫌われるんじゃないか。」
面倒なことこの上ない。バスガイドや運転手がなにか言うかと思った快斗だか、このバスを呼んだのは学校だということを思い出し、意味がないと悟る。
「そうだそうだー‼」
「快斗死ねー‼生きてる価値ねー‼」
高谷以外の全員が快斗に死ねという言葉を連呼する。それを聞くたびに、快斗の怒りが限界に近づいていく。
11、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、プツン。
快斗の中で、何かがブチ切れた。繋がっていたものが千切れた。そして、走行中のバスの中を、シートベルトを外して、前へ歩く。
「あいつ何やってんの?」
「さぁ?ほんとに死のうとしてるんじゃない?」
「かもねー‼アハハ‼」
女子の笑い声がうるさい。今すぐ壊したい。そんな気持ちが快斗を突き動かす。
「…………快斗?」
途中、心配そうな顔で快斗を見上げる高谷が、快斗の手を掴んだ。
「何する気だ?」
高谷は、本気で心配した顔で、真剣に快斗に対して質問をしている。まっすぐと快斗の目を見て。その眼差しに快斗は、
「…………ごめんな。」
「?」
快斗の言葉に首を傾げた高谷だったが、快斗が、見ている方向に気づき、一気に顔を青ざめて、
「だ、駄目だっ。快斗‼それは絶対駄目だ‼」
「…………もう、いいんだよ」
「あ…」
快斗は微笑みながらゆっくりと高谷の手を振りほどいた。快斗はその時涙を流していた。高谷は自分の事を考えて駄目だと言ったという事もあるが、それ以上に快斗の心配をしていた。そのことに快斗は気づいている。
だからこそ、涙を流し悲しんでいるのだ。そして、ゆっくりと前へ進み、
「おい。教師より前に出てんじゃねぇぞガキが。」
「後ろに戻りなさい。」
バスガイドの女性と、酒井に、道を塞がれる。だが、快斗はニヤリと不敵に笑うと、
「二年間の俺の病気を…………やっと治せるよ。」
「お前何言…………て……」
酒井が喋っている最中、その頬にヌルいものがついた。何かと手で取ってみると、真っ赤な鮮血だった。
「きゃあああああああああ‼‼」
バスガイドの女性が大きな悲鳴を上げる。何事かと皆が見ると、
快斗がシャーペンを女性の首に突き刺し、下に向かって引き裂いていた。
「きゃああああああああ‼」
「何してんだよあいつ⁉」
「ヤバイヤバイ‼」
バスの中は混乱状態に。何人かは、席の下に隠れたり、お互いに抱き合ったり、後ろに逃げている。それを見て、快斗はまたニヤリと笑うと、
「それ、意味ないんだよね〜。」
ゆっくりと運転席に向かう快斗。運転手と目が合い、そして、
「今生最後の仕事、お疲れ様でした。」
礼儀正しくお辞儀をしたあと、躊躇なくシャーペンを目玉に突き刺した。
「ぎゃあああああああ‼‼」
壮絶な痛みに悶絶する運転手。そして、快斗がなけなしの力で席から引きずり落とし、運転席を勝ち取る。
「おい‼何する気だ‼」
酒井が慌てながら大声で聞く。つばを盛大に飛ばし、快斗を更に苛つかせる。
「それはこれから分かりますよ♪」
「駄目だ快斗‼そんなことしたら‼お前が……皆んなだって‼」
手を伸ばし必死に止めようとする高谷。しかし、それは意味がなく、
「ごめんな?高谷。お前は一番の友達だったよ。」
「な……。」
「でも、ここで終わりだ。」
そして快斗は思いっきりアクセルを踏み、爆速で進む。前方にある、ガードレールしかない、急カーブへ。
「‼ああああああああ‼」
「きゃあああああああ‼」
「うわあああああえああ‼」
「助けてぇぇぇぇぇ‼」
「ハハハ‼その声が聞きたかったのさ‼」
ガードレールを突き破り、そのまま回転しながら地面へまっすぐ落ちて行き、
「ああああああああぐぇ‼」
「きゃああああああああぐっ」
「うわああああああぐぉ‼」
「さて、さよなら。」
重力とバスの重さに耐えられず、教師、生徒、バスガイド、運転手、全員が潰れたトマトのように赤く潰れ、死亡した。
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