Chapter8-4 ストレイ・キャット・アウェイクニング
0秒02 少女は一瞬、前傾姿勢になり地面を蹴る。タックル(総合格闘技)を『隊長』に仕掛けた。
0秒21 『隊長』は少女のタックルに膝を合わせるべく、膝を曲げる。
0秒28 少女は『隊長』の膝と自らの頭が激突する寸前で急停止する。
0秒43 少女は『隊長』の膝にショートアッパー(ボクシング)を打ち込む。
0秒60 『隊長』が少女の首を片手で掴む。痛みを無効化するシステマの呼吸法を開始。膝の痛みを軽減させる。
0秒68 少女は自らの爪を、『隊長』の親指の爪の中にねじ込む。
0秒72 「っ――」反射的に『隊長』の親指の力が緩む。
0秒78 少女はそのまま彼の親指を掴む。指取り(古流柔術)により彼の手を開かせ、チョーキングを解除しようとする。
0秒99 『隊長』は指取りを意に介さず、そのまま少女の頸動脈を圧迫しに手に力を入れる。
1秒12 無理矢理に力を入れたことで、『隊長』の親指の第3関節が外される。
1秒21 呼吸により痛みを無視し、『隊長』は少女の首をさらに締めようとする。
1秒29 『隊長』がさらに力を込めたと同時に、少女はスウェーバック(ボクシング)で後ろに頭を引く。
1秒31 力を込めた直後ゆえに『隊長』の指が滑り、少女が脱出する。
2秒15 2人の睨み合いが続く。『隊長』が曲げられた親指の関節を無理矢理に戻す。
2秒28 『隊長』が姿勢を低くして少女に向かって歩く。その歩き姿はしなやかで、グニャグニャと歪んでいた。
2秒41 『隊長』は左腕を鞭のようにしならせ、その拳で少女のこめかみを狙う。
2秒49 少女は右側から迫る『隊長』の拳を、右の拳で受け止める。
2秒52 『隊長』の拳が、少女の拳の上で滑る。同時に彼女の右拳は『隊長』の右眼に突き刺さった。ジークンドーの捌きの技術によるものだ。
2秒54 右眼を殴られた『隊長』が、衝撃に合わせて己の首を回転させ衝撃を逃す。同時に彼は、少女との間合いを大きく詰めた。
2秒68 『隊長』が少女の左脚の付け根にキックを放つ。
2秒71 『隊長』のキックが命中すると同時に、その衝撃に合わせて彼女は足を投げ出し、その場に倒れる。衝撃を耐えようとしなかったため、脚部へのダメージは最小限となった。
2秒96 倒れた少女の顔面を、『隊長』が踏み抜こうとする。
3秒02 倒れていた少女は、片手を軸に地面を跳躍。『隊長』の軸足にエスドブラード(カポエイラ。回し蹴り)を放つ。
3秒10 軸足を蹴られ、『隊長』が体勢を崩ししゃがみ込む。
3秒13 立ち上がった少女は、震脚とともに肘を突き出し、『隊長』の顔面に肘撃(八極拳。肘打ち)を仕掛ける。
3秒22 『隊長』は彼女の肘を真下から跳ね上げ、衝撃の方向を操作。攻撃を空振らせる。
3秒30 『隊長』は少女の顔面を掴む。
3秒34 『隊長』が彼女の軸足を刈り、後頭部を地面に叩きつけようとする。
3秒40 少女は地面に後頭部を叩きつけられる――寸前、彼の腕に自らの両足を絡ませた。
3秒43 『隊長』自身の腕を振り下ろす力を利用し、彼女は彼の力の流れを操作。逆に彼の体は半回転し、背中を地面に打ち付ける。合気道による技術体系と、フランケンシュタイナー(プロレス。投げ技)の合わせ技だ。
3秒56 『隊長』の手から解放された少女もまた、地面を転がる。
4秒21 互いに立ち上がり、再び距離を取る。
4秒45 少女は再び『隊長』に接近し、彼の鳩尾めがけてティップ(ムエタイ。前蹴り)を放つ。
4秒50 『隊長』はそれをマトモに受けながら、微かに急所をずらし、そのまま前進する。
4秒61 『隊長』は両肩を回し、動きを撹乱し近づく。
4秒67 『隊長』が少女に再び組み技を仕掛ける。その両手が彼女を捕らえようとする。
4秒76 彼が接近したタイミングで少女は飛び上がり、飛び膝蹴り(キックボクシング)を彼の顎に食らわせる。
4秒96 『隊長』はその場に膝をつく。
5秒02 一方で、少女もまた、膝を負傷していた。『隊長』は飛び膝蹴りを受ける瞬間、自らもあえて顎を下に落とすことで衝撃を増加。彼女の膝にダメージを与えたのだ。少なくとも、機動力は大きく削がれている。
5秒14 『隊長』の顎もまたダメージは大きい。システマの呼吸法を改めて実施。痛みを散らす。
5秒47 ほぼ同時に、少女もまた息を吸う。辛うじて立ち上がった。
5秒72 「もう、逃げられはしない――」『隊長』は立ち上がり、少女へと歩み寄る。
6秒06 『隊長』が少女の目の前、超至近距離まで接近。少女は動かない。
6秒12 『隊長』がパンチを繰り出す。
6秒15 少女がそれを片手で捌き、拳を突き出す。ジークンドー式の打撃が『隊長』の大胸筋に命中。
6秒23 反撃を意に介さず、『隊長』はさらに連打を仕掛ける。
6秒51 連打のことごとくを少女は捌き、弾き続ける。揚げ受け、下段払い、手刀受け(空手)により、『隊長』の打撃は少女に命中しない。
7秒25 それでも『隊長』は連打を繰り返す。それを捌き続けるうち、少女の両腕に、流し切れない負荷が溜まり始める。
7秒59 打撃の中に『隊長』は再び平手を混ぜ、少女の首を狙う。彼女がその手を上に跳ね上げる。
7秒62 『隊長』の手が弾かれたその時、すでに彼の姿勢は低くなっていた。彼がタックルを繰り出す。
7秒84 少女の腹部に、『隊長』のタックルが命中。彼女の体が一瞬宙を浮く。
8秒03 少女が地面に背中を打ち付け、肺の中の空気を吐き出す。同時に『隊長』はマウントポジションを取る。
8秒18 『隊長』はそのまま、少女の右腕を膝で抑える。実質、彼女が使える武器は左腕一本となった。
8秒41 『隊長』は、左腕前腕部で少女の首を絞めにかかる。
8秒62 前傾姿勢となった『隊長』の右目に、少女は左手の親指を突き刺した。角膜損傷。
8秒71 咄嗟に頭を後ろに下げ、『隊長』は失明を免れる。
8秒74 『隊長』は先に抵抗力を奪うべく、マウントポジションから両腕による連打に切り替える。少女の顔面めがけて拳が降り注ぐ。
9秒28 それらの連打を、少女は最小限の動きで、左手だけで捌き続ける。彼女の目が激しく光を放つ。
9秒37 「化け物め――」『隊長』がニヤリと笑みを浮かべる。
9秒41 『隊長』が左手人差し指と中指を構え、少女の目を潰そうとする。
9秒44 少女は首を動かし、目潰しの着弾地点に自らの額を合わせ頭突き(クラヴ・マガ)する。第2、第3末節骨骨折――逆に『隊長』の指が折られた。
9秒86 「ぐ……あぁッ!」『隊長』は残された右手で拳を作る。
9秒99 『隊長』は右手を振り上げた。同時に少女も、左手で拳を握る。
10秒00 『隊長』が少女の顔面に拳を振り下ろす。
10秒01 少女が左手を無造作に振り上げ、『隊長』の心臓の真上を打つ。――ストライク(システマ)。脱力によって衝撃を浸透させるシステマ式の打撃。
10秒02 『隊長』の拳が少女の顔面の1ミリ横を通り抜け、地面を殴る。
10秒03 少女のストライクにより、『隊長』が心臓震盪を起こし、心室細動が発生。直後に意識を失い、少女に覆いかぶさるように倒れた。
――戦いが終わり、少女は深く息を吐いて、覆いかぶさる『隊長』を押し退けて立ち上がった。徒手格闘の手札をほとんど使わなければならない強敵だった。
痛む膝を押さえながら、少女は歩いていく。その戦闘を、呆気に取られて見ていたボスが、椅子に座ったまま身を引こうとする。
「く……来るな! やめろ!」
ボスは咄嗟に懐から銃を抜く。そんな彼の手に、少女の手が重なった。
「やめ――」
――銃声が鳴り響いた。
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