Chapter6-3 カプセルホテル「レッドボックス」
暗い暗いサウス区で闇に怯えながらも、ヘクトは何事もなくコンビニからレッドボックスに帰還した。
ホテルには簡易的で狭くはあるが、談話室があった。部屋は狭くて食事も満足にできないので、2人は戦利品を談話室の机に広げる。
少女が購入したのは、少しのスナック食品と大量の菓子だ。チョコレートやクッキーなど、とにかく甘い物ばかりである。ヘクトはそのラインナップを見て顔をしかめる。
「そんなに甘いものばっか食ってると太るぞ?」
「余計なお世話。ストレス解消だよ」
2人はそれぞれ缶ジュースと缶ビールを開け、乾杯した。ヘクトはMWレンジ――ではなく、普通の電子レンジで焼き鳥を温めて食べる。
それは「焼き鳥」という名を関しているが、当然リアルミートではなく、昆虫を加工しただけのものだ。
「なぁカーバンクル。これからもホテルを追い出され続けたらどうする」
ヘクトは焼き鳥を1串食べ終えてから言った。食事がまずくなる話題だとわかってはいたが、逃亡者として、今後の方針はハッキリとすり合わせておかなければならない。
「……もし野宿になっても、探偵を守りはするよ。一度請けた仕事だから」
「俺が言いたいのは――まぁそっちも気になりはするんだが、それ以降だよ。よくわからないけど、とにかくお前はコンボイから逃げて、コンボイに目つけられてるんだろ。何とかできるのか?」
少女はクッキーを1枚口に運んだ。咀嚼しながら答える。
「……そんなに先のことは考えてないよ。でも、どうにもならなかったとしても……そのときは死ぬだけだから」
少女はあっけらかんと言い放つ。この国で、明日のことを考えない命知らずはそう少なくない。彼女のような物言いをする人間も、サウス区で探せばいくらでも出てくるだろう。
しかしヘクトは、探偵ゆえの勘か、ただの命知らずの若造とは違う気配を少女から感じていた。少女のそれは、きちんと命の重みを知っての発言。つまりは、希死念慮。そんなふうに思えたのだ。
少女は菓子を食べながら、談話室の窓に向かって移動した。窓のガラスは冷たく冷えていて、外には光源がほとんどない。そんな風景を見て、彼女は欠伸した。
「お風呂入って寝るよ。お風呂はあるんだよね、このホテル」
「あぁ。ただ……まぁその……男女別じゃないけどな」
ヘクトはそう言って苦笑した。少女は何度目かわからないホテルカルチャーショックに打ちのめされる。
「探偵」
「はい」
「外で見張ってて。誰も入ってこないように……!」
ドスの効いた声。下手に逆らえば殺されかねないと判断し、ヘクトは大人しく従った。
■
『カプセルホテル「レッドボックス」』
★☆☆☆☆
店が臭くて汚くて狭い。ほとんど廃墟みたいな外見のホテル。
これをあんまりホテルと呼びたくないけど、お金がない人には嬉しい……のかもしれない。
一応シャワーは温水が出たけどお風呂はないし、アメニティなんてものも無い。
近くにコンビニがあるから、そこでいろいろ買ってくるしかないと思う。
とにかく……こんなものはホテルじゃない……。
――カーバンクルのホテルレビューより。
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