Chapter5-2 ショッピングモールの死闘
ビルを出て数分歩いた先。少女たちの目的地はスーパーマーケットだった。
そこは様々な物品が売られている広大なマーケットで、食品、銃火器、防犯道具、娯楽……そして衣服なども揃う店だ。
中に入ると、その広さに呆気に取られる。入り口付近の商品棚の背は低めで、店内の広さが視覚的に理解しやすくなっていた。
奥に行くほど大きな棚が増えていき、全体を見渡すのは流石に難しい。
少女は店内にいくつかある案内ナビ機に従って歩いていく。1分ほど歩いて、2人は服のコーナーに辿り着いた。白色にいくつかのラインが入ったパーカーを手に取る。
「うん。やっぱこれだね」
「他の服、試したりしないのか?」
「これが動きやすいし……ポケットがある服のほうがいいから」
少女はすぐ近くに置かれた決済機を見つけた。広大な敷地も相まって、もはやこの時代のスーパーマーケットにレジはなく、個別の商品コーナーごとに決済機があるのだ。
彼女は無防備にそこにパーソナルカードを合わせ決済する――それを見てヘクトは慌てて辺りを見回す。幸い、付近に人はいなかった。
「オイ、もうセントラル区じゃねぇんだぞ。危ないから直接はやめろよ。チップカード使えって」
「別に、ギャングが来てもボコボコにできるし……」
「お前、今俺らが隠密してるってこと忘れてるだろ」
ただでさえ比較的目立つ容姿の少女がギャング相手に大立ち回りなどしたら、自分たちがここにいるとアピールしているようなものだ。少女はそんなヘクトの心配をよそに、その場でパーカーを羽織る。
「どう?」
「ああ、似合ってる似合ってる。……なんだ? なんか騒がしいな」
ヘクトは少女に適当な感想を述べながら、何やら妙な騒ぎ声を聞いていた。マーケットの入り口の方からだ。
「……オイ。オイオイ、待てよ……!」
彼は入り口に近付き、その騒動の正体を見るとすぐに引き返した。入り口にいたのは、ギャング――それも、青色の腕章を付けている。ブルームーン。まさにヘクトが追われているギャングであった。
「どうしたの?」
「シッ。隠れろ……!」
ヘクトは少女の身を屈ませ、入り口のギャングの死角から様子を窺った。何やら大きな声を出しながら客を外に出させている。
「ちょ〜っと、俺らが探してる奴がここに入ってったのを見た奴がいんだよぉ。今から探すから、今日は閉店だ」
「あ、あの、困りますよ……!」
そう言って、店の店員らしき人間が駆け寄ってくる。次の瞬間、彼は鉄パイプで頭を殴られ昏倒した。
「他に用があるやつは?」
それを見て、彼らに意見する者はもういなかった。半ばパニック気味に、または迷惑そうに客が出ていく。
客の顔をジロジロと眺めているのは、ヘクトかどうかを確認するためだろう。
「クソ、マジかよ……。さっきのビルで誰かが通報しやがったか? 別の出口から逃げるぞ、カーバンクル」
ヘクトは彼らに見つからないよう、商品の棚を死角にして引き返した。そうしてしばらく進んで、再び止まる。別の出口にもギャングが張り込んでいたのだ。
裁判への日も迫ってきている。今までのように片手間に追うのではなく、一気に戦力を投入してヘクトを捕まえようという腹だろうか。
あと1日くらいは居場所を勘付かれずに行動できると踏んでいた彼は、思ったより早いブルームーンの動きに舌打ちした。
「この様子じゃ、全部の出口が封鎖されてるな……。一か八か、お前に手薄なところを突破してもらうしかなさそうだ」
「別にいいよ」
少女は近くの商品棚を漁りながら、そちらを見もせずに答えた。その余裕はある意味ヘクトにはありがたかったが、同時に不安にもなった。
2人は引き続き身を隠しながら、合計4箇所あるマーケットの出入口をそれぞれ確認する。
北の、正面入口が最もギャングが多い。西と東はやや手薄、南側は北側の次に人数が多い。
突破するならば、西か東だ。
「……よし、西側から破ろう。奴らが店内に入り始めやがった……」
「わかった」
彼らは音を立てないよう、慎重に移動を開始した。ヘクトの言う通り、店内には大声を出して歩き回るギャングが数名。
今後より増えていくだろう。隠れ場所は減り、やがて見つかるのも時間の問題だ。早急にここを出なければならない……!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます