第78話 雄鶏の卵

 『新斉諧』(『子不語』から書名を改めた)には雄鶏が卵を産んだことを記載しているが、今私はそれが事実であると知った。その卵は指くらいの大きさで、形状は福建の落花生に似ており、正円ではない。表面には斑点があり、太陽に透かしてみると、その中身は琥珀のように深い紅色をしている。目眚(白内障)に用いると非常によく効いた。少司寇(官名)の徳成や副憲(官名)の汪承霈などは、皆これを用いて薬を調合していた。しかしこの卵を得ることは容易ではなく、ひとつで金十両の値であった。

 少司農(官名)の阿迪斯は言った。


「目にすることが非常に稀であるとはいえ、実はこれも人為的に作ったものなのだ。肥え太った立派な雄鶏を籠の中に閉じ込め、雌鶏の群れで籠の周りをぐるりと囲み、互いに近寄ることはできても触れられないようにする。しばらくすると、雄鶏の精気が凝結して自然と卵ができあがるのだ。」


 これもまた理の通る話である。しかし、鶏は巽為風の気(八卦のひとつ)に属しており、これを食すと瘡毒(梅毒)を生じるとされている。雄鶏の卵は、その陽の気が盛んであるのに発散することができずに鬱積して生成されたものであるから、自然と卵には毒の熱がこもっているはずである。それが何故、かえって目を見えるようにすることができるのかは分からない。


 また、これらのことは『本草綱目』に記載がなく、医学の経典でも言及されていない。それなのに何故人々はこの卵に目が見えるようになる効能があると知ったのだろうか。そのわけははっきりとは分からない。


汪福憲は、さらにこのように言った。


「ある者は蛇の卵を雄鶏の卵と偽って売りつけようとする。しかし、蛇の卵は太陽に透かして見てもその中身は紅くはなく、これをもって偽物と判断することができる。」


このことは必ず知っておくべきだろう。




紀昀(清)

『閲微草堂筆記』巻十六「姑妄聽之二」より

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