第77話 大工と木妖
下僕の王延佐は、ある夜滄州から馬に乗って帰路についた。常家磚河にさしかかったところで、馬が突然驚き後ずさった。暗闇の中、見れば大きな樹が行く手を阻んでいる。もとよりこんな樹は無かったはずである。王は手綱を締めて馬を御し、木の脇を通り抜けた。するとその樹はくるくると旋回しながら馬の四方を囲み、彼らの前に立ちふさがった。それは数刻の間続き、馬はだんだんと疲弊し、王もまただんだん朦朧としてきた。すると、彼の知り合いの大工で、国という姓の者と韓という姓の者が東からやってきた。彼らは延佐が茫然と立ち尽くしているのを見て、これを怪しんだ。延佐は樹を指さし事情を告げた。この時、大工の二人はすでに酔っぱらっており、一斉に叫んだ。
「仏殿の梁が一本足りなくて、ちょうどでかい樹を探していたんだ!なんてついてるんだ、こいつを持って行こう!逃すものか!」
大工たちは銘々に斧と鋸を手にしてこの樹に駆け寄った。すると樹は旋風となって消え去った。
『陰符経』にはこのようにある。「之を禽(とら)えようとするには、気でもって制する。」木妖が大工を恐れるのは、まさに化け狐が猟師を恐れるようなものなのだ。長年積み重ねた威勢と気迫で脅せば、彼らの気炎は妖を調伏するに足るのである。力そのものが妖を超えている必要はないのである。
紀昀(清)
『閲微草堂筆記』巻五「灤陽消夏錄五」より
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