第74話 紅い靴

 昌吉の築城の際、土を五尺あまり掘り進めたところで、紅い麻糸で花の刺繡が施された女物の靴が片方出てきた。非常に精緻に作られた品で、まだ完全に朽ちてはいなかった。

 私の著した『烏魯木齊雜詩』には


城を築くに土掘りて 土は深深たり

邪許相呼ぶ 萬の杵の音

怪事の一聲 齊ひて注目す

半鉤の新月 蘚花を侵す


(城を築くため土を掘る

 深く深く掘っていく

 人足たちが互いに呼び合う声

 たくさんの杵の音が鳴り響いている

 怪事を知らせる一声が上がり

 皆揃って注目すれば

 鉤型の新月の形の靴が

 苔に跡を残している)※


とあるが、これはこの時の様子を詠んだものである。土に埋まること五尺あまりということは、最も近くであっても数十年はかかるというのに、どうして壊れずにいたのか。額魯特(オイラト族。モンゴル地方の一部族。)の女は纏足をしないというのに、どうして弓形でわずか三寸ばかりの靴を作れるというのか。これには必ずわけがあるはずだが、今は知ることができない。



※半鉤の新月とは纏足した女の靴の足跡のこと。蘚花とは苔のことか。ここでは苔に鈎状の新月の痕を残すもの=女の靴を喩えていると解釈できる。



紀昀(清)

『閲微草堂筆記』巻三「灤陽消夏錄三」より

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