第70話 瑞兆

 ウルムチの泉の水は甘く、土地は肥沃で、花や草はどれも皆よく繁り活力に満ちている。江西蠟(アスター。中国北部原産の菊。)は五色すべてが揃い咲き、花は大きな杯のよう、花弁が豊かに垂れさがっている様子は洋菊のよう、また虞美人の花はその大きさが芍薬のようであった。


 大学士の温公が、倉場侍郎の身分から地方官になった折、階段の前の一帯に生えていた虞美人の色が突如として変わった。花びらは朱砂のような深紅色に、花蕊は鸚鵡のような濃緑色になり、日に照らされて灼灼と輝き、金星の光を隠しているかのようだった。たとえ絵師が色をのせたとて、及ばないほどであった。温公はすぐに福建の巡撫に抜擢されていった。


 私は色のついた糸を花の房のつけ根に結んで目印にして、秋になってからそれらの種を収穫した。次の年にその種を植えたところ、普通の花が咲いただけだった。これにより、温公の花が瑞兆のあかしであることが分かった。これは、揚州の芍薬「金帯囲」(※)が咲いた奇跡と同じである。


※北宋の時代、揚州において、深紅の花弁の真ん中を金色の線がぐるりを囲う模様の芍薬の花が四輪咲いた。その姿形が紅い官吏の袍を着て、宋代の宰相のあかしである金色の帯を巻いているように見えたことから、「金帯囲」と名付けられた。鑑賞の宴において、この四輪の芍薬を簪として頭に挿した四名のそれぞれが後に宰相の位に出世したとする「四相簪花」の故事が『夢渓筆談』などに記載されている。



紀昀(清)

『閲微草堂筆記』巻八「如是我聞二」より

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