第69話 晴天の龍

 恒蘭台はさらに言う。かつて、ある晴れた日の真昼間に、ふと空を仰ぎ見ると一匹の龍が西から東へと行くのが見えた。龍の頭の角は絵に描かれているものと大方一致しており、四本の脚をぱっと開いて、まるで一艘の船を四本の棹で漕いでいるかのようにゆらゆらと揺れ動きながら飛んでいた。尾は平べったく広がっており、先端にゆくにつれだんだんと細くなっていて、蛇の尾のようでもあり魚の尾のようでもあった。腹部は純白で絹のようだった。


 陰雨には龍が現れるというが、その時露わになるのは頭と尾と鱗と爪だけであった。天空にわずかな翳りすらなく、風も雨もなく、雷鳴も稲光もない中でこのようにはっきりと龍を見たというのは未だかつて聞いたことがない。これを記録しておくことは、博物(ものごとを広く知ること)に十分に貢献するであろう。



紀昀(清)

『閲微草堂筆記』巻十九「灤陽續錄一」より

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