第43話 偽煞神
母方の叔父の王碧伯の妻が亡くなり、術士が某日子の刻に回煞(死人の魂が家に戻ってくるという迷信)があると告げた。その日が来ると、家の者は皆家の外に出てこれを避けた。
一人の盗賊が、煞神(凶悪な神。回煞の際、魂に伴って現れるという。)の姿を装い、塀を乗り越えて忍び入った。
まさに箱を開けて簪や首飾りを盗もうとしたのだが、もう一人別の盗賊が同じように煞神に化けて忍び込んでいて、幽鬼のようにウウウウ……という声を出しながらだんだんと近づいて来た。
先の盗賊は大慌てで外に飛び出し、庭で互いにばったり出くわした。お互い本物の煞神だと思い、たいそう驚き慄いて気を失い、向かい合って地面に倒れてしまった。
夜が明けて、家の者が泣きながら戻ってきてみれば、唐突に彼らの姿が目に入ったものだから、おおいに驚いた。
しかし、仔細を見ればすぐに盗賊であると知れた。生姜湯を飲ませて目を覚まさせ、煞神の装束のまま縛って連行した。沿道でこれを見ていた者たちは、皆腹を抱えて大笑いした。
この一件から判断すれば、回煞の言い伝えは迷信であると言える。
しかし、回煞の形跡を私は実際に何度も目の当たりにしている。鬼神にまつわることは茫漠としていて、実際のところどうであるのかは分からない。
紀昀(清)
『閲微草堂筆記』巻五「灤陽消夏錄五」より
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